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イシュガルド最後の決闘裁判

本作はファイナルファンタジー14の二次創作です
筆者が使用しているプレイヤーキャラやオリジナルのキャラ、また本作独自の設定が登場します。
パッチ6.0までのネタバレが含まれています。
ニンジャスレイヤーのパロディが含まれます。

 竜詩戦争が終わり、共和政へと移行したイシュガルドでは多くの法律、制度が変わっていった。
 しかしその中でも変わらなかった、いや多くのものが変えようとして変えられないものがあった。
 それは決闘裁判であった。イシュガルドの主神であるハルオーネなら正しい者に力を与えるので、決闘裁判に勝ったものが正しいと考えるこの制度は、冤罪の温床とされ撤廃されようとしていた。
 
 しかしとある十二人の貴族がこれに猛反発した。
 彼らは伝統やらハルオーネの信仰やらそれらしい理由を主張してはいるが、なんてことはない。単に自分たちにとって目障りな人間を消すのに都合が良いからに過ぎないのだ。
 結局、決闘裁判を行う条件を前より厳しくするだけで、この制度はしぶとく残り続けた。
 しめしめとほくそ笑んだ十二人の悪徳貴族たちは、決闘裁判を使ってある者を社会的にも生命的にも抹殺しようとした。

 その者は光の戦士だ。
 イシュガルドの歴史の真実を明らかにして竜詩戦争を終わらせた英雄。この国に変革の風を呼び込んだのは彼女であると言っても過言ではないだろう。
 無論、社会制度の改定を望まぬ悪徳貴族にとって目の上のたんこぶだ。
 十二人の悪徳貴族は持てる権力を最大限濫用し、光の戦士に濡れ衣を着せて決闘裁判に持ち込んだ。

 ここで彼女を殺せば失墜するには彼女の名誉だけではない。彼女と懇意にしている改革派にも社会的ダメージを与えられる。
 決闘裁判では戦闘力を持たぬ者は代理闘士の起用が認められる。十二人の悪徳貴族は一人ずつ自分の代理闘士を立てた。
 光の戦士は十二人の代理闘士と連戦しなくてはならなくなったのだ!
 十二人の悪徳貴族たちは光の戦士の最後を確信した。
 だが悪徳貴族たちと彼らの代理闘志たちは、自分たちが誰を敵に回したのか十分に理解していなかった。

「言われた通り何もしなかったが本当に良いのか? 決闘裁判を行わなくとも、君の無実は証明できる。少し時間はかかるが」

 被告人控え室でアイメリクは渋い顔をしていた。
 彼の前にはミコッテのメイドがいた。だが普通のメイドではない、カチューシャの代わりに赤いハチマキを締めている。
 彼女こそが光の戦士だ。
 彼女は冒険者と使用人の技能を兼ね備えた優秀な人材を輩出することで有名なアイレスバロウ家の出身であり、赤いハチマキはその身分を証明するものだ。

「もちろんです、アイメイク様。前々から決闘裁判について思うところがあったので、これを機にさっぱりさせようと思っています」
「さっぱり、か。君にしては少々性急ではないか」
「もちろんそれは自覚しております。これまでの旅で筋を通すことの大切さは重々理解しております。ですが、オルシュファン様のお墓参りに来た日にいきなり冤罪を被せられたら、さすがにのわたくしも思うところはございます」

 光の戦士は笑顔を絶やさない。しかしそれは彼女が温厚な性格だからではなく、アイレスバロウの名を持つ者としてのプロ意識からくるものだった。
 控え室に係官が現れ、もうじき決闘裁判が始まることを告げる。

「それでは行ってまいります。アイメイク様のご配慮のおかげでわたくしにとって理想的な流れになって来ました。あとは勝つだけです」
「君の勝利は疑っていない。だがあまり怒りすぎないようにな」

 光の戦士はただ無言で微笑んだ。
 こうして12連戦の決闘裁判が始まった。

 1番手のハインツは剣の達人だ。大会で優勝したこともあり、悪徳貴族たちの代理闘士として多くの勝利を挙げて来た。
 だが、殺した。
 イシュガルド流の剣を知り尽くしている光の戦士にとって、どれほどの達人でも型にはまった戦い方をする相手など問題にならず、速やかに首をはねた。

 2番手のアーサーは弓の名手だ。恐るべき速射の技を持つ彼は、これまで敵を1歩も近づけず、常に無傷で勝利して来た。
 だが、殺した。
 忍者の心得を持つ光の戦士は風魔手裏剣を投げて、アーサーが矢を放つ前に首をはねた。
  
 3番手のロナルドはエレゼンでありながらルガヴィンと見紛うほどの筋骨隆々の大男だった。彼が振るう斧の直撃を受ければ体は真っ二つにされるだろう。
 だが、殺した。
 光の戦士はミコッテ特有のしなやかな瞬発力で相手を翻弄し、首をはねた。

 4番手のディカプリオが社交界きっての美男子で、彼に騙されて泣いた女は数知れない。彼は磁力を操るアラグの遺物で光の戦士から武器を奪う。
 だが、殺した。
 光の戦士は素手でも強い。彼女は相手の顔面を何度も打撃した。その美顔を腐った性根に相応しい形に変え、チョップで首をはねた。

 5番手のアレックスは元は異端審問官で、その職権を最大限悪用し無実の者たちを魔法で焼き殺してきた。
 彼は自慢のファイア系魔法で光の戦士を灰も残らず焼き消そうとする。
 だが、殺した。
 光の戦士は前にゴッドベルトから貰っていたサラマンダーの油をアレックスに浴びせた。結果ファイアの魔法はアレックス自身に引火し、彼を炭に変えた。

 6番手のリンダは卓越した弓術師だけでなく、恐ろしい卑劣さを兼ね備えた女傑であった。
 彼女はモンスターから採取される麻痺毒を塗った矢で光の戦士を攻撃した。
 だが、殺した。
 その麻痺毒にはすでにウルダハの錬金ギルドで解毒薬が開発されており、冒険者の常備薬として普及していた。イシュガルドの外を知らなかったリンダはそれに気づかなかった。
 光の戦士はその解毒薬で即座に回復。リンダの首をはねた。
 
 7番手のハインツは戦いが始まった時、光の戦士にとって最も特別な男であるオルシュファンを侮辱した。彼女を激昂させて判断力を奪う作戦だ。
 だが、殺した。
 光の戦士がどうハインツを殺したのか、それはあまりに惨たらしいため読者の精神を守るために詳細は伏す。
 
 8番手のベンは光の戦士の情に訴えかけた。自分は好きで悪徳貴族の代理闘士をしているのではなく、弱みを握られて無理やり戦わされていると。
 だが、殺した。
 イシュガルドには光の戦士以外にもアイレスバロウ家出身の執事やメイドがいる。光の戦士は決闘裁判前に彼らから代理闘士たちの情報を受け取っており、ベンの言葉は全て嘘と知っていたのだ。
 
 9番手のカタリナは優れた竜騎士の一人で、エスティニアンがいなければ青の竜騎士に選ばれてもおかしくはないと言われる者だった。
 だが、殺した。
 カタリナは強い。だが最強の竜騎士は彼女ではない。エスティニアンが相手なら勝負は五分五分だったが、2位以下の竜騎士に光の戦士は負けなかった。

 10番手のゴードンは傍聴席に自分の仲間を忍び込ませ、援護攻撃をさせた。光の戦士は四方からくる攻撃を避けながらゴードンと戦わなければならなかった。
 だが、殺した。
 傍聴席からの攻撃に対し、光の戦士はゴードンを羽交い締めにして盾にした。この行動に傍聴席にいるゴードンの仲間たちはさすがに攻撃の手を止めた。
 ゴードンの仲間たちはすぐに神殿騎士たちに捉えられ、光の戦士はゴードンの首を630度回転させて殺した。

 11番手のアメリアは代理闘士の中では最強の魔法使いだ。アメリアはアレックスのような愚を犯すことはなく、光の戦士は真っ向勝負で戦わざる得なかった。
 アメリアは掛け値なしに強かった。彼女との戦いは蒼天騎士たちとまさぬとも劣らぬ死闘であった。
 だが、殺した。
 炎と雷の嵐の中、光の戦士の集中力は極まり、時間間隔が鈍化する。全てが緩やかに動く世界の中で、光の戦士はアメリアの僅かな隙を見抜き、首をはねた。

 最後となる12番手のセドリックは剣の達人でありながら一切の慢心はなく、この決闘裁判で最も油断ならぬ強敵だった。
 更に加えて、光の戦士は11度の連戦によって疲労というハンデを背負っていた。実力を十全に発揮できない状況で光の戦士は苦戦を強いられる。
 だが、殺した。
 苦境や逆境は光の戦士にとって日常だ。光の戦士は何度もそれを乗り越えてきた。
 セドリックの首が切り飛ばされ、決闘場に転がった時、彼は光の戦士が乗り越えてきた障害物の一つに加わった。

 こうして悪徳貴族たちが用意した12人の代理闘士は皆殺しにされた。
 女神ハルオーネの名において、光の戦士の潔白は証明された。
 しかしこの物語には続きがある。
 光の戦士は自らの名誉を汚されたとして、今度は彼女の方から悪徳貴族12人に対し決闘裁判を申し込んだのだ。

 悪徳貴族たちは新しい代理闘士を用意しようとしたが、誰も光の戦士と戦いたがるものはいなかった。この状況で光の戦士と戦えば命と名誉の双方を失うことになるからだ。
 このままでは悪徳貴族たちは自分たちで光の戦士と戦わなければならない。
 悪徳貴族たちが助かる道は一つしかなかった。すなわち、決闘裁判制度の廃止だ。
 1週間という社会制度の変更としては異常な速度で決闘裁判制度の廃止が決定した。
 全てが終わったあと、光の戦士はようやくオルシュファンの墓参りに行けた。
 
「遅くなってもうしわけありません、オルシュファン様。少しゴタゴタがあって。オルシュファン様のお墓参りを邪魔されたのは少々腹立たしかったですが、おかげであなたが生まれた国に残る淀みを一つお掃除できました」

 光の戦士はオルシュファンの墓を丁寧に清め、最後にストックの花を供えた。

おわり

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