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【小説ワンシーン集】タイムループ・ダディ①

 ワンシーンだけ思いついたものを書きました。小説として完成させるかは未定です。

「父さんは地球の希望だ! だから生きてくれ!」
「やめろカイル! 戻ってこい!」

 地球を3度救った英雄、大提督カート・レーガンの息子、カイルが戦死した。ロボティクス・ジャイアントのパイロットである彼は、セクターZ334宙域での戦闘において、味方部隊を逃すために自ら囮となって若き命を散らした。
 カートは息子の墓標の前で呆然としていた。傘もささず、冬の冷たい雨に打たれてる。

「風邪を引きますよ提督。あなたの代わりはいないのですから」

 副官のショーンが傘を差し出す。

「ショーン、俺は出世しすぎた。父親が英雄なんぞになったせいで、カイルは命を捨てた」

 ショーンは黙ってカーツの言葉を聞く。

「俺は道を間違えた。普通の父親になってさえいれば、カイルは死なずに済んだ」
「なら、やり直しましょう。〈我々〉としても、今のあなたは好ましくない。〈敵〉を倒せなくなりますから」
「ショーン?」
「ロールバックポイントは……カイル君が生まれた時で良いでしょう。あなたが父親をやり直すのならその時が一番相応しい」
「お前は……何者だ?」

 10年付き添った副官の知らない姿にカートは戸惑った。

「悪いが言えません。言ったら少々面倒なバタフライエフェクトが起きる」

 ショーンが指を鳴らすとカートは一瞬、意識を失う。
 気がつくとカートが赤ん坊を抱いていた。息子の赤ん坊の頃と全く同じ顔だ。

「カイル……」

 思わず息子の名をつぶやく。

「もう名前を決めたの? でも良い名前ね、カイル・レーガン。きっとあなたみたいな良い男になるわ」

 ベッドに体を預けているのは、妻の若い頃と瓜二つの女だ。
 違うとカーツはすぐ気づいた。目の前の女は妻そっくりの別人ではなく、妻本人だと。
 近くにあった鏡を見る。カーツは若返っていた。息子が生まれた日まで時間が巻き戻ったのだ。
 カーツは生まれたばかりの息子をもう一度見る。

「お前を絶対に守ってやる」 

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