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泉毅一郎「春日神社の龍切」

泉毅一郎『延岡雑談』延岡新聞社、昭和6年(1931)

恒冨の氏神春日神社は天児屋根命、武甕槌命。齊主命。姫大神の四神を祀る太古からの社でありますが、春日大明神として祭つた旧記は養老年代からのものが、わづかにあるばかりであるとのことです。聞く所に依れば余程以前にその大事な旧記は鼠の巣になって消えたとの話で、誠に惜しいことをしたものです。
しかしあの大きな楠の木、それは二代目か三代目か知らぬが、あの楠の木が太古を物語つてゐる。受取りにくい云ひ伝へであるが、祭神の内に蛇体の方があるとのことですが.これは何かの誤りでありましよう。とに角、蛇に同惰の深い、龍切神楽を御きらいになる祭神があるのでこの神楽はせぬことにしてありました。処が三百年程前に、神主が何も左際な理屈はないと云ふのでこの神楽を初めた、その神楽は前日から始まり夜明前に藁で作つた龍を太刀で切るのであるが、それを切る少し前に龍は動き出して、蛇の様にあの楠の木に登つてしまったので、龍切神楽は中止となり、それ以来此の神社ではその神楽は出来ぬことになつて居ります。

泉毅一郎『延岡雑談』延岡新聞社、昭和6年(1931)

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