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じいちゃんの左手 その51

学校から帰ってくると 
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた 
右手にワンカップ 左手には “わかば” 
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・ 
きっとこんな 会話になっただろう・・・

『 佐々木小次郎・・・決闘の日 』

「おい Hiro坊! 
 今日は お寺さんに行く日じゃぞ!」

今年もやってきました 
地元のお寺 苦恩寺(くおんじ)! 本堂までの石段は 268段もある

「じいちゃん! なんで毎年4月13日に お寺参りするの?」
目の前に そびえ立つ石段を見上げると ふ~っと溜息がこぼれた

「ふん! 4月13日と言えば 
 ワシらと同じ越前出身の 佐々木小次郎が宮本武蔵と巌流島で 
 決闘した日じゃ
 ワシらの ご先祖様である小次郎を お参りするのは当たり前じゃろ」

「佐々木小次郎・・・? あぁ 昔のお侍さんのことだね・・・
 麦わら一味のゾロと どっちが強いのかなぁ」
三刀流との決闘を想像した僕に

「黒マスクにサーベルもった外人なんか 比べ物にならん!」 
いきり立つ じいちゃん!

僕には さっぱりわかりません・・・ 
(じいちゃんの頭の中には 怪傑ゾロが浮かんでます:神の声) 

「でも じいちゃん
 うちは 先祖代々 農家って 言ってなかったっけ?」

すると じいちゃん 突然・・・
 
『燕返し!』
と 叫びながら 背中にしょってた備中鍬を ブンブン 振り回す 
それ・・・ ダメな使い方です・・・

呆れて 見つめる僕に
「なんか言ったか・・・」だって
驚いたあまり 何を聞いたか すっかり忘れちゃった

それにしても この石段 やっぱり 昇るんだよねぇ・・・
もう一度 Fuuuuuと ため息する僕に 
だらしないのぉ・・・ と じいちゃん

「それじゃ 決闘の日ということで
 グリコしながら 登ろう!
 お主が先に昇り切ったら ホームランバーを買ってやる」

じいちゃん! 武士に二言は ありませんね!

山中に こだまする
『ち・よ・こ・れ・い・と!』『ぱ・い・な・つ・ぷ・る!』
そして『ぐ・り・こ!』

やがて・・・ ゴールが見えてきた
僕は あと3段! じいちゃんは まだ16段もある!
ホームランバーは 目前だ

「じゃんけんぽん!」
あぁ・・・ じいちゃんがグーで勝った 
でも グーなら・・・ と思った瞬間!

「ぐ・ん・だ・り・みょ・う・お・う!」 だって!!

じいちゃん ずるい!! 

「何言っとる ここは 軍荼利明王様の寺だから いいの!」

「もう! 次は ぐんだりみょうおうは ダメだからね!」

わかばに火をつけて 
Puhaaaaaaaaaaaaと煙を吐きながら よしよしと頷く じいちゃん

『それじゃ―いくよ! じゃんけんぽん!」

あぁ・・・ また じいちゃんのグーにやられた・・・ 
でも ぐんだりみょうおうを 封印しておいてよかった 
と 思った瞬間!

「ぐ・し・け・ん・よ・う・こ・う」だって!!

「今日は決闘の日じゃ
 世界チャンピオンの 具志堅 用高を使っても 文句なかろう! 
 ということで ワシの勝ち~!」

「じいちゃん! 武士に二言は ・・・」
僕が言いかけたとき じいちゃんが 嗤った

「武士? ワシは農家じゃ!」

春の霞が掛かった薄雲の青空の下 
カンムリワシじゃなくて・・・燕がすいすい飛んでいた


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