トルコの小説を読んだり、年明け、イランが大変だったりしたので、イスラム教を再勉強。『帝国の復興と啓蒙の未来 』 中田 考 (著)。世界史を、文明史として、イスラム視点でまるごと古代から現代まで一気に勉強できるスゴイ本。

『帝国の復興と啓蒙の未来 』 単行本 – 2017/7/19
中田 考 (著)

Amazon内容紹介
「読み終わったとき、もっとも危険な世界史が見えてくる。

イスラームの側からしか見えない歴史を
解き明かし未来を予見する。

 19世紀は西欧列強による世界の植民地化の時代、20世紀は2度にわたる世界大戦による西欧の破産とその破産管財人である米ソによる残務処理の時代であった。21世紀は、西欧の覇権の下にあった中国文明、ロシア文明、インド文明、イスラーム文明の再興による文明の再編の時代となる。シルクロード経済圏の覇者を目指す中国の一路一帯構想、ロシアのウクライナ内戦、クリミア危機への介入は、「大陸国家」中国とロシアが文明の再編の主役であることを示しているが、実のところ影の主役はイスラーム世界(ダール・イスラーム)である。イスラームは、西欧の世界支配の枠組「領域国民国家システム」自体を揺るがす可能性を秘めているのである。(「あとがき」より)」

 ご存じのとおり、中田氏は、イスラム研究をしているうちに、イスラム教に改宗し、日本人としては初めてイスラム法学者ウルマーとして認められた人である。東大文三から文学部の一年先輩のはずなので、どこかですれ違ったりしたことがあるのかもしれない。カリフ制の支持者で、イスラム国成立には支持を表明したし、日本人青年をイスラム国に仲介したことなどがニュースになったこともある。カリフ制再興をめざすスンニ派の立場から、日本語で本を書いてくれる。イスラム教側、それもイスラム法学者という立場から世界がどう見えるのかを日本語で書いてくれる、得難い、唯一無二の人物なのである。

 この本は、トインビーの文明論を中心に、ハチントン、梅棹忠夫らの文明論を参照しつつ、イスラムの視点から、世界史、文明史の流れを整理し、現在の世界の状況を分析するという、ものすごく面白い本でした。冒頭、ウエルベックの『服従』の分析から走りつつ、中盤では、イスラム教の成立から、その世界史的展開を、網羅的かつ、各部分においては詳細に記述していきます。世界史の授業をまるごとやり直していくかんじです。イスラムの視点から、イラン、トルコとは。ロシアとは。インドとは。中国とは。今まで考えてきた世界の見え方とは、根本的に異なる世界の在り方が見えてくる。その文明史の視点からは、現代の国民国家によるウェストファリア体制以降の西欧ナショナリズムも、偶像崇拝の一形態である、となる。

 先日、『赤い髪の女』という、トルコのノーベル賞作家、オルハン・バクムの小説の感想を書いたが、(トルコとイランの歴史的関係がわかっていた方が、内容が理解しやすいのだが、この本を読んで、なるほど、そういう関係なのか、とわかったことがいくつもあった。)今、彼の代表作のひとつ『雪』というのを読んでいて、トルコにおける世俗主義とイスラム教の関係iについての知識がないとわからないことがあったのだが、これも、この本を読んで、だいぶ、視界が開けた感じがある。

 中田氏の本はたいていそうなのだが、語りたいことがたくさんありすぎて、あふれるように言葉や知識が出てきてしまうその勢いのままに本が書かれるので、読みにくいところもある。しかし、言いたいこと、大事なことは、本の各所で繰り返されるので、主張はよく伝わってくる。

 現在の世界の複雑な問題、中東情勢だけでなく、例えば中国の世界戦略、一帯一路やウイグル問題を考えるとき、ロシアの世界戦略を読み解くうえでも、貴重な示唆が多数ある。東南アジアやインドについて考える場合にも、この視点は持っていた方が良い。EUとロシアとウクライナとトルコの関係を考えるにも、読んでおいたほうが良い。

読みにくいけれど必読、ぜひとも読むべき本。

 読む前にウェルベックの『服従』は、読んでおいた方が良いかも。同時に飯山陽氏の『イスラム2.0』も、改めて読んだが、飯山氏の本を読むなら、この本も併せて読んだ方が良いと思います。

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