BS1スペシャル シリーズ コロナ危機「グローバル経済 複雑性への挑戦」これはスティグリッツさんでもマルクス・ガブリエルさんでもなく、ペリー・メーリングさんの一人勝ち番組でした。

NHK HPから。下線部クリックで飛びます。

「世界、日本の経済を揺さぶり、混迷を深めるコロナ・ショック。「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」の出演者他、世界、日本の知性が、今これから、大転換の時代を読む。
詳細
世界経済にも激震が走り、リーマンショック以上、第二次大戦以来の危機とも言われる今、グローバル経済に何が起きているのか?人の動きが停滞、経済活動も抑制、株価は急激な下落後、予断を許さない状況が続く。以前から「不確実性」「複雑性」の時代の到来、資本主義の抱える本源的な不安定性に警鐘を鳴らしてきた「欲望」シリーズ、その出演者達が今を分析、これからを展望する。時代の枠組み、価値観を転倒させる変化はあるか?
出演者ほか【出演】ジョセフ・スティグリッツ,マルクス・ガブリエル,トーマス・セドラチェク,ニーアル・ファーガソン,ルチル・シャルマ,ペリー・メーリング,小幡績,飯田泰之,早川英男,【語り】石橋亜紗」

ここから僕の意見感想。

僕は経済については門外漢なのだが、このシリーズ(欲望の資本主義シリーズ)の番組の作り方は、あんまり好きじゃない。立場の違う人のインタビューをただただ並べて、両論併記的にただインタビューがつながっていく。その間をつなぐ、VTR&番組ナレーション部分も、カッコいい、おしゃれだが意味不明瞭。僕自身の経済学への不信感もあり、「感動」と言うような感想はたいてい、無い。

 今回も、名前は有名高名だが、スティグリッツさんやマルクス・ガブリエル氏は、わりと普通の事しか言っていない。(マルクス・ガブリエル氏に関しては、デビュー作について東浩紀氏も「かっこつけているけど大したこと言っていない」」と酷評でしたが、僕も、基本的に同じ意見だなあ。哲学界の新しいスターと持ち上げるほどのもんじゃないと思う。間違ったことは言っていないけれど、独特の言い方を普通に戻すと、言っていることはかなり当たり前のことしか言っていない。哲学界の小泉進次郎なんじゃないか。こういう時事問題について語らせると、そのことが丸出しになって、ちょいとカッコ悪かった。)

その中では、ペリー・メーリング氏と言う人と、ニーアル・ファーガソン氏が面白かったなあ。この人たちのことはよく知らなかったけれど、本質的なことをちゃんと言う。
日本では、飯田泰之氏が、かなり受け入れやすい納得できることを言っている一方で、元財務官僚、ごりごりの緊縮派の小幡績氏が、なかなか深いことを言っていて面白かった。経歴を調べたら私たち夫婦の母校。東京学芸大学附属高校の、五年くらい後輩だな。財政政策は僕と正反対だが、「もっと根本的に、違う角度で問題を深く考えろよ」と、世界全体をバカにしている雰囲気か、あーなんか、僕と同じ種類の人間だ、高校の後輩なだけはある、と思いました。すごい寝ぐせの髪の毛のまんま、登場しているところも。キャラが濃い。

 いろんな立場の人間が、長時間の番組で、多様なテーマで喋っているので、新型コロナ問題の世界経済側面での問題として、考える論点はまるごと含まれているかと思います。長いですが、世界経済側面からコロナ問題を考えるには必見かと思います。

誰か、一人に注目するなら、やはり、ペリー・メーリング氏(金融史・経済学者 ボストン大学教授)が、いちばん本質的で面白いことを言っていた。

実は、我が家の天才、私の妻も、ここ二か月ほど、同じことを言っていた。あまりに突拍子もないことだったので。聞くたび、無視していたのだが、今日、メーリングが同じことを言ったので、私に向かって「どうだ」という、(ゴーストバスターズのマシュマロマンが邪悪な笑みを浮かべた時のような)どや顔をした。

マシュマロマン

妻は、「株式市場を凍結せよ」とずっと言っていたんだよね、

メーリング氏の発言はこう。
「私は今の状況を第二次世界大戦直後の状況と比較しているのですが、当時アメリカの国防省でドイツの復興を担当していた有名な経済学者チャールズ・キンドルバーカーがやってきた仕事が思い浮かばされます。今日の私たちも掲げるべき有名なスローガンを彼は掲げていました。それは「市場が機能しないなら市場を使うな」というものです。私たちには未来がどうなるのか分からないので、市場が私たちの課題の方向性をあまり示してくれるとは思いません。市場では単に未来のことを現在に還元しているだけです。未来の事が分からなければ価格設定の基準となるものは何もなく、とても不安定な状況に陥り、間違った方向に向かってしまう可能性があります。」

また、こうも言います。
「私は今、家の中で安全に椅子に腰かけてインターフェイスを介して世界に向けて話をしています。物に触れることはなく、ウイルスからのあらゆる脅威をカットしています。しかし。食料品店で働いている人や私の食べ物や手紙を配達する人たちは外にいます。医療事業者や他の人たちからも同じようなことを聞きます。彼らはとても大きなリスクを背負っています。消防士やその他最前線で活動している人たちも同じです。私たちはこのような人たちに対して、いつか返さなければならない借りを潜在的に蓄積しています。コロナウイルスの危機が過ぎた頃に、私たちはそれらの借りを返すことになります。もし私たちがその借りを返さなければ、大きな社会不安に陥ってしまいます。」
この後に入った番組ナレーション、ここはこの番組のナレーションではいちばん良かった。「お金の取引は、単なる数字ではない。その背後には様々な感情が伴う。不安や苛立ち、憎しみの蓄積は社会を不安定にさせ、経済システムの欠陥を露呈させる。」

まさに、僕の妻はお医者さんですから、今日も、病院で働いてきたわけです。そして僕は、部屋から一歩も出ず、パソコンとテレビに一日中向かい合っているわけです。我が家の夫婦の間にある、大き貸し借りを、突然、テレビから指摘されて、私は大変に動揺したわけです。

ニーアル・ファーガソン氏(歴史学者/ジャーナリスト)はこう語ります。
「あるレベルにおいてパンデミックは左派への傾倒を生み出します。なぜなら国民皆保険を求める声を正当化し、このような時には小さな政府を求める保守派の主張を弱めるからです。危機においては国家は欠くことのできない役者のようなものです。一方で急進派や社会民主主義者たちはパンデミックをきっかけに左派が勢いがつくと喜んでいます。しかし、パンデミックが開かれた国境やグローバリゼーションの危険性を露呈し、国民の基本的安全という面で、国民国家の優位性が再認識されているという点に、彼らは気づくべきでしょう。最終的にパンデミックはグローパリズムに対する批判が正しかったことを表していると思います。」

経済政策的には左傾化、大きな政府志向になるが、経済的にも物理的にも国境が高くなり自国中心主義になる、ナショナリズムも強化されるのだという、この指摘で。間違いない、と僕も思います、ずっと投稿してきているように。

番組は。この後、経済の複雑性(どれだけ多様な種類の輸出品が、どれだけあるか=どれだけ多様な産業が国内に存在するか)という指標で、日本が、統計データが取り始められた1995,年依頼世界トップである、というデータを挙げる。それが、ポストコロナの世界経済の中で、有利なのか不利なのかを、識者に問うていく。

ニーアル・ファーガソン氏は言います。「つまり、日本というのは貿易にかなり依存した経済だと言えます。それはある意味、グローバリゼーションが危機的状況にあると思われる今、かなり厳しい状況を迎えようとしているともいえるのです。」

一方。メーリング氏はこう言います。
「これは脱グローバリゼーションということだと思います。そこでは国際分業の経済的メリットを失うことになります。最も大きな被害を受けるのは末端周辺国です。世界経済に最近加わり、グローバリゼーションの最大の恩恵を受けてきた国々です。在庫が十分に無いのはマスクや個人防護具、重症患者を助ける為に必要なさまざまな機械類といった医療用品だけではありません。そういったものの在庫が十分で無い一方で、車や他のモノを作るために必要な部品の在庫も十分に無いことが分かりました。一つの部品が不足していると車は作れません。現代の生産方法で作られる他の多くのものについても同じことが言えます。ですのでショックに強くするために工業製品の再構築をすることになるでしょう。また、今まさに“vital”命に関わると考えられている産業が国内に回帰すると思います。製薬会社が移転されアメリカ国内へ戻されるかもしれません。医療機器やその他品物の生産そして他の産業も国内に回帰する可能性があります。国内に確保しておくべきvitalな産業は何かという議論がされ始めるでしょう。これは囲い込みへの移行の一部と言えます。」

これは先々週くらいのnoteで、妻が主張した内容と重なります。(NHKスペシャルコロナ経済対策に登場した元・日銀審議委員、野村総研の 木内登英氏がグローバル経済復活を期待したのに対し、「ばっかじゃない」と反論したのと同じ論旨)、「グローバル経済になんか戻らない。基本的に産業、経済は国内回帰し、かつ、鎖国化していく」という予言と合致します。

スティグリッツは、選択と集中をしそこね、いまだ複雑性の高い日本の経済は、グローバリゼーションの時代には弱点とされていたが、このような危機の時代、様々な産業の国内回帰が進む中では、回復性・弾力性という長所になりうる、と日本をヨイショしてくれている。まあ、NHKの取材だから。ヨイショしてくれたの半分だと思う。でもまあ、鎖国するなら、複雑性は高い方が有利なんだよな。たしかに。

さて、メーリング氏のまとめは、なかなか深くて良かった。どうやって鎖国化への傾斜を乗り越えて、新しいグローバリゼーションに向かうか。
全面的に賛成。このメーリング氏へのインタビューだけで、番組を組んでも良かったぐらいだな。

「以前よりも、より多くの人にとって有効な、新しいグローバリゼションを築いていくためには、経済的なパラダイムシフトと同様に、社会的なパラダイムシフトが必要です。それが出来なければ、新しいグローバリゼーションは実現しません。それが出来なければ、国民から反対され、結果的に国際分業や国際貿易のメリットを失うことなるので、ですので、誰もが損をするような経済的自立政策に逆戻りすることになるでしょう。ですので、大きな危険をはらんでいます。パラダイムシフトが必要なのです。「この状況から抜け出してどうにかするのだ」と賭けるしかないのだと思います。私はパラダイムシフトがすでに起きたものとして、自分の人生を生きていきたいと思っています。ポジティブなことに、自分もその一部であると感じています。実際に何が可能なのかを知る唯一の方法は、計画を立てるのではなく、何かを作り始めることです。この新しいポストコロナウイルスの世界の一部になるにはどうしたらいいのかを、ぜひ考えてみてください。それはトップダウン方式で浮かび上がるものではありません。これは専門家たちが集まって明らかになることではなく、各国がお互いの取り組みを見て「それはいいアイデアだ」とか「それは考えても見なかった」と言いながら、各国がそれぞれ進化していくということです。新しい世界を私たちで連携して作っていくのです。政治的に関与していくことが重要な意味を持つと思います。これはエリートの課題ではなく、みんなの課題です。」

ほっておくと、自然にしていると、鎖国状態になるよ。ひどい世界になるよ。新しいグローバリズムに移行するには、経済だけではなく、社会のパラダイムシフトも必要だよ。それはエリートだけにまかせるのではなく、一人一人が考え、工夫して、生み出し、それを各国でお互いに刺激し合いながら進化させていくものだよ。いいですね。

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