見出し画像

ラグビーリーグワン・プレーオフ決勝。東芝ブレーブルーパス東京対パナソニック埼玉ワイルドナイツ。 これまでの東芝に欠けていた「上品さと知的スマートさ」をもたらしたモウンガとフリゼルについて。

 リーグワンプレーオフ決勝、東芝ブレーブルーパス東京対パナソニック埼玉ワイルドナイツ。

 サッカーでもなんでもスポーツを見るときは、そのとき一番、面白い、芸術度の高い内容のチームや選手を応援するという主義である。応援するチームは年によって変わる。浮気者なのである。

 とはいえ、わが子(2番目)が中学でラグビーを始めたのをきっかけに、僕がラグビーを本格的に見始めたころ、パナソニックの前身、サンヨーにトニー・ブラウンがいた。トニー・ブラウンのプレーに衝撃を受けて以来、サンヨー→パナソニックびいきが基本だった。

 泥臭い東芝のラグビーはずっと好きじゃなかったし、僕がラグビーを本格的に見始めた以降、東芝は下り坂の時代であった。サントリーとパナソニック二強、そこに神戸がからむ、そんな構図だった。

ところが、なのだな。

 今季、W杯を終えた世界の超一流選手が上位各チームに加入した。

 トヨタはボーデン・バレットにアーロン・スミス、そのうえピーターステフ・デュトイまで、これに姫野がいたら強いだろうというのは、読売グループ(巨人軍)的な「競技理解のない偉い人が金の力にものを言わせて口を出す」的なイヤーな感じがしたら案の定、チームは機能せずプレーオフに進めなかった。これは正直、ざまあみろな気分であった。

 そんな中、東芝の「リッチー・モウンガとシャノン・フリゼル」、オールブラックスの、W杯決勝スタメン二人は、恐ろしいほど活躍した。東芝に欠けていた何かを、それぞれがもたらして、もう東芝の試合が、突然、最高の芸術的美しさに溢れたものになった。みなさんが大谷翔平のホームランを楽しみにうっとりドジャース戦を見るような気持ちで、東芝の試合、リッチー・モウンガとシャノン・フリゼルを見ていたのである。外国のスーパースター10番で、日本でここまで芸術的プレーを毎試合見せたのは、神戸に来ていたときのダン・カーター以来だと思う。

 今季、僕のリーグワン観戦は、東芝とキャノンイーグルスと、あと地元の相模原ダイナボアーズを欠かさず見る、(まあパナソニックやサントリーやヤマハの試合も結局見てはいたのだが、)気持ちを込めて見るのはその3チームになっていた。キャノンの小倉順平と田村優の10番15番が大好きで、デクラークがいればこれはモウンガと並んで最高に機能しているスーパースターだし、クリエルはフリゼル並みに安定してスーパーだった。

 パナソニックは、僕の大好きな山沢拓也を15番にしちゃって、松田が10番というのがどうしても嫌、気にくわないので、今季は全く応援しなかった。というか、むしろアンチ・パナソニックであった。前半とろとろと試合をして、後半、なんだか結局勝ってしまうという試合展開も、アンチ視点で見ると腹が立って仕方がない。

 といわけで、東芝応援、アンチパナソニックで、この決勝は見ていたわけである。

 試合内容は、これは本当に素晴らしく面白い。パナソニックが開始早々から全力で攻めたてて、東芝がそれを松田のPG二本に押さえてトライを許さず前半の後ろの方でトライを取って逆転。

 それにしてもモウンガはあらゆるプレーが上品で上手いよなあ。ラグビーという激しいスポーツで「上品」という形容詞が似合うのは、かつてのダン・カーターとモウンガくらいだと思う。ハイボールを、キャッチしても、タッチキックを蹴っても、そういうひとつひとつが美しく知性に溢れているな。シャノン・フリゼルというフランカーも、フランカーという最も過酷にタックルや地上のボール奪取や密集に突っ込んでいくボールキャリーをするなかで、なんだかスマートで知的なのだな。

 そう、東芝に欠けていたのはこの上品さ、知的でスマートという要素だったのだよな。「泥臭くひたむき」「愚直に」というのが東芝の伝統、良さであったのだが、それだけではラグビーは勝てないのである。

 サッカーだと「愚直に泥臭くひたむきに」の反対概念を「ずる賢く狡猾に」と考えちゃう文化があるけれど(マリーシア、僕が嫌いなやつ)、ラグビーではそれは競技理解と創造性と美しく合理的な身体操作から生まれる「上品さ、スマートさ」なんだよな。ラグビーという最も暴力的コンタクトのある中でだからこそ、上品で知的なプレーが光を放つのだなあ。(そういえば、僕がパナソニックを好きだった頃のオーストラリア代表10番、ベーリック・バーンズも知的で上品な10番だったな。)

 現在のパナソニックでいちばんスマートで上品な山沢拓也を、それを発揮できる10番では使わずに、10番なのに愚直で泥臭くひたむきが売りの松田を使う、というのは、僕の考えるラグビー美学に反するのだよな。

 だから、松田10番のパナソニックに、モウンガの東芝が負けるなどということは、あってはならなかったのだ。

 ただ、モウンガの唯一弱点は、上品であるがゆえの、優しく知的なことと引換えの、ちょっとだけメンタルがもろいところがあって、後半、このPGを決めれば突き放せるところで今日はじめて失敗。そこから一旦はパナソニックに逆転を許してしまう。

 ああやはりパナソニックは後半最後に勝ってしまうのか。

 そこからの、TMO判定もありの何度も逆転再逆転のドラマは、見た人はもう御存知の通り。

 今日、2トライをし、かつ最後のジャッカルで試合を締めたナイカブラ選手も、人柄もプレーも、ひたむきなだけでなく、上品かつ知的だよな。2番の原田衛もそうだな。東芝の若い世代がモウンガやフリゼルからそういうことを吸収して、日本のラグビーがそういう美しい方向に進化していくといいなあ。

 そんなことを思ったプレーオフ決勝でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?