ゲンロンカフェで語られた、鳩山由紀夫氏の「東アジア共同体」思想を踏み台に、安倍氏辞任への各国の反応から、「外交の安倍」について、考える。

「鳩山由紀夫氏の東アジア共同体」思想を踏み台に、安倍氏辞任への各国の反応から、「外交の安倍」について、考える。

 アンチ安倍の友人みなさんは、安倍首相の実績について、すべて否定というスタンスの方もいるようだが、私は、人格は人格、犯罪行為は犯罪行為、実行した政治行動政策については、それぞれ分けて、個別に評価していきたい。

 その中で、外交政策については、「長期政権だった」ということ自体がプラスなので、比較的好意的意見が多い。(それ以前は一年で首相が交代したので、信じられる相手と見なされないという状態が長く続いたのである。

 「長期政権」を除くと、どのような戦略で、どう評価されているのかを、冷静に考えたい。というのは、例えば、後継として国民的人気は石破氏に集まっているが、外交政策的に不安はないのか。また立憲への国民の合流で、旧・民主党勢力が集結しつつあるが、彼らの外交政策はどのようなものになるのか。それらとの比較の基準として、安倍政権の外交とは何だったのかを、考えてみたい。

 安倍政権の外交を語る前に、ひとつ、別の視点を挟んでおきたい。

一昨日、東浩紀氏のゲンロンカフェに、鳩山由紀夫氏が、茂木健一郎とともに登場。後半は茂木氏が酔っ払ってグダグダになったが、鳩山氏自身は、首相在任中から主張している東アジア共同体構想や、首相退任後の、中国、韓国やロシアでの行動の真意、AIIB(中国主導で作られたアジアインフラ投資銀行。日米が不参加だが、EU各国は参加している)の理事を務めた経緯など、外交についての鳩山氏の考えと行動をかなり詳細に語った。対韓国、対中国、台湾問題など、茂木氏、東氏が、普通ではできないようなダイレクトなつっこみを入れることで、鳩山氏の考えが引き出され、大変に興味深い鼎談となった。(茂木氏は、まず初めに鳩山氏の父親、鳩山一郎は自民党の創始者であり、いわばもともと自民党のオーナーみたいなもので、超お金持ちのおぼっちゃまであり、政治家のスタート時点では田中角栄の元からスタートした、リベラルとかパヨクとか言っているみんなは、鳩山さんが何者かわかっていないんだよ、と、言うところから対談を初め(初めは東氏はいなかった)、そういう鳩山氏が、米国べったりの外務官僚に裏切られて失脚した経緯など、赤裸々な告白をどんどん引き出した。
 鼎談終盤、酔っ払った茂木氏が「台湾と北朝鮮、同時承認っていうことをすれば、中国と米国、両方をうまくけんせいできるんじゃないか」というようなことを口走ると「台湾が中国に攻撃されるでしょう。そこは触つてはいけないところ」と真顔で冷静に諫めた。東アジア共同体構想を「お花畑」と言う人は多いが、実際に中国トップともロシアトップともパイプを持ち、常に行き来している鳩山氏が、そのリアリティの中で独自の外交政策ビジョンを持っていることが浮き彫りになった。

 理念は理念として理想論は語るが、現実の外交でできること、やっていいことと触ってはいけないところの区別は、きちんとわかって発言や行動をしている。「鳩山さんがリアルポリティクスの人だということがわかった」と東氏も語った。

 中国やロシアが非民主的だから警戒するという一般国民の 見方が多数派で、ニコ生コメントでもたくさんきているが、どう思うか、と東氏が聴くと、そうであっても、彼らに意見できる回路、場を作っておくことが必要だと、鳩山氏は答えた。辺野古基地移設の反対で、座り込みも行った体験も語っていた鳩山氏からすると、香港を弾圧する中国を悪、人権抑圧とする、それは確かに悪だが、沖縄で日本政府も同じようにデモに対して実力行使をしており、アメリカは国内でBLMのデモに軍が出動して実力排除もしている。政府に反対する活動を弾圧するということが日本でも米国でもあるけれど、米国とは対話できる。中国が危険でないといっているわけではなく、独裁国で人権抑圧があるとしても、だからこそ、対話できる関係、モノ申せる関係、相手が聞こうと思える関係を構築することが大事というのが友愛ということだ、という意味のことを語った。

 安倍外交は、親米を超えた従米路線で、中国との関係をひどく損ねた印象、韓国とは不要なほどに敵対的に出て関係を損ねた印象が安倍政権にはある。こうした安倍外交の対極にあるのが、鳩山氏の外交政策思想。「それが米国の不興を買って失脚したということですか?」と、これまたダイレクトに茂木氏、東氏が突っ込むと「米国が、というより、米国を忖度した外務官僚が、でしょうね」と鳩山氏は答えている。

 外交でできること、やっていいことと、親米派外務官僚が勝手に作っている「やっていいことと悪いこと」の間にはギャップがある。日本外交の変更可能幅はその範囲にはある、と鳩山氏は考えているのだろう。

 その鼎談の翌日に、安倍氏が首相辞任をし、それに対して、諸外国首脳や国民の反応が報じられた。それを読んでいて、安倍氏の外交というのは、国内では保守派タカ派の支持者向けに韓国や中国に厳しく出ている面ばかり強調され、対ロシアへの北方領土返還交渉大失敗ばかりがリベラル側からは批判されるが、実際には、中国が急激に経済的にも軍事的にも超大国化する中で、きわどいバランスを取りながら、現実的対応をしていたのではないかなあ、とも思えてきた。鳩山氏と、基本理念は正反対なのだが、現実にできること、やって大丈夫な範囲というのはかなり狭く限られているのが外交というもので、その範囲内でいちばん「従米」寄りだったことは確かだが。

 ここで報道された各国反応を引用。

オーストラリアのモリソン首相
安倍首相は、誠実で良識の人だ。地域、世界において高位の政治家であり続け、開放的な貿易の強力な推進者で日本にとって卓越した国際外交官でもある。地域の繁栄と安定を支持し、第一級の経験豊富な政治家としてリーダーシップを発揮した。われわれが新型コロナウイルス流行による健康・経済面の影響に対応する中、安倍首相は地域のリーダーとして、前例のない貢献をした。

台湾の蔡英文総統
安倍首相は台湾に常に友好的で、政策であれ、台湾住民の権利や利益であれ極めて前向きだった。彼の台湾に対する友好的な気持ちを高く評価し、健康を祈る。

韓国大統領府報道官
安倍首相は韓日関係に大きな役割を果たしてきた。突然の辞任は残念だ。
韓国は引き続き日本の新首相、新内閣と協力し、両国関係の改善を図る方針だ。

インドのモディ首相は28日、安倍晋三首相の辞任表明を受け、「親愛なる友人安倍晋三。あなたのリーダーシップと献身によって、インドと日本の連携はこれまでにないほど深く、強くなった。早い回復を祈っている」とツイートした。

ロシアのペスコフ大統領報道官は28日、安倍晋三首相の辞意について「極めて残念。後継者も両国関係のさらなる発展に向けた道を歩むことを期待する」と述べた。インタファクス通信が報じた。ペスコフ氏は安倍首相の回復を祈念した上で、首相は両国関係の発展に「多大な貢献」をしたと評価。「交渉と2国間関係の発展を通じて最も困難なものを含むあらゆる問題の解決を目指す(首相の)取り組みは、ロシア大統領と共有されている」と語り、プーチン大統領も首相との関係を「高く評価している」ことを明らかにした。

ドイツ
「辞任は残念だ。われわれは共によく働いた。安倍首相は常に、われわれにとって共通の価値と多国間主義を掲げてきた」と述べた。メルケル首相の報道官がツイッターで発信した。

中国CCTVは記者会見の様子をネットで生中継
中国ネットユーザーの「安倍評」が次々に投稿された。安倍首相の政治姿勢が、中国と対立を深めるアメリカ寄りだと批判する声もある一方で、評価する声も少なくない。

「安倍は優秀なライバルだった。トランプは、アメリカは強力なのに彼自身は大したことはなかった」

「日本人にとっていい首相だっただろう。複数の大国の狭間でバランスを取るのは決して簡単ではなかった」

「歴史問題は置いておくとして、彼は実利的な政治家だった。特に外交では国益のために平身低頭することも厭わなかった。前の何人かの意味のない首相より、彼はずっと良くやった」

日中関係は2010年の尖閣諸島沖の漁船衝突事件や、2012年の尖閣国有化などを契機に悪化したが、その後第2次安倍政権が発足。白紙状態となったものの習近平国家主席の国賓訪日を目指していたこともあり、ここ数年は比較的安定基調にあった。

そのためか「ここ数年は日中関係は20年来で最も良かった」「安倍さんの次は中国に強硬的な人ではないか」とする声も上がっている。

韓国

安倍総理の辞任意思公式表明に対する青瓦台の立場
日本の憲政史上、最長寿の首相として様々な意味ある成果を残し、特に長らく韓日両国の関係発展のために多くの役割をしてきた安倍首相の突然の辞任発表を残念に思います。安倍首相の早期の快癒をお祈りします。韓国政府は、新たに選出される日本の首相と新内閣とも韓日間の友好協力関係増進のために継続的に協力していくでしょう。

僕の感想。

軍事的には中国を周辺他国で包囲する連携づくりを熱心に行ったので、日本ではあまり取り上げられないが、「インド、オーストラリア、台湾、」の評価が高いのはそういうこと。ロシアも同様。ロシアにとって、NATOとの対立が高まる中で、中国とも日本とも、基本的にもめたくない。中国が一帯一路でカザフスタンなど旧ソ連の国との関係を深めるかで、米中対立の外に位置し、かつ中国に従属しないためには、日本とはそこそこ仲良くしておくのが大事。という意味で、安倍政権の対ロ外交は、ロシアにとっては嬉しかったのだと思う。

つまり、安倍外交というのは、「中国に従属したり、かといって鋭く対立もしたくない。かといって、米国に従属するのも嫌」という国にとって、アメリカとの間にワンクッションおいて、中国と対抗するネットワークを作るときのパートナーとして、好ましい国として評価された。というのが、最大の成果なのだと思う。

中国に従属したくない国に、アメリカそのものではなくその代理として、経済的だったり軍事的パワーを提供してくれる国、日本。

たとえば、台湾は、中国に侵攻されないために太平洋の米軍が頼りなのだが、なんといっても中国から見れば中国の一部だから、米軍基地はない。直接米軍基地は置けない。台湾を中国から軍事的に守るには、太平洋の米軍、その巨大基地の沖縄がすぐ近くにあることがとても大事。台湾にとって日本はその意味でとても大事。

安倍政権は「従米」の側面ばかり言われるが、米国の属国ではあるが米国自体ではないために、中国と対抗したい周辺各国にとって、日本は、いろいろ都合が良いのである。

鳩山氏の「東アジア共同体」は、中国を入れて、周辺国全体の共同体をつくる構想。安倍外交は、中国を抜きにして、中国に従属したくない周辺国と連携する「対・中国・共同体」を作る構想。と対置するとわかりやすい。

で、その安倍外交の路線だと、当然、中国との対立は先鋭化しやすいわけで、一時期、習近平が、安倍さんに会わない。会っても絶対笑わない、という態度を取ったのは、そういう理由。

日本が韓国とうまくいかないのは、韓国はダイレクトに米国と軍事的にも経済的にも結びついているから、日本と仲良くする必要が、インドや台湾やロシアと比較して、少ない。かつ、北朝鮮との統一を目指せば、中国とも、日本のように対立したくしない。日本と仲良くすることが国益上、優先順位が低くいのである。

この構図だと、日本は。中国とどんどん対立してしまう。そうすると、中国人観光客インバウンドとか日本企業の中国での活動がまずいということで、軍事外交的には「中国包囲連携」も維持しつつ、経済的には中国と関係改善を図るという、理念的には矛盾するが、現実には実行しなければいけない難易度の高い外交政策を、安倍首相はここ最近、遂行して成果を上げつつあった。新型コロナが来なければ、「春節に中国人観光客、大量にいらっしゃい」→「習近平、国賓として来日」ということで、関係改善を確かなものにする、という予定だったわけだ。その地ならしが進んでいたために、安倍首相辞任に対する中国の人たちの反応が、やたら好意的なんではないかと思う。

軍事面で中国も入れた東アジア共同体構想を取ろうとすると、台湾をどう扱うかが現実的には難しいことは、鳩山氏がいちばん分かっている。安倍外交は軍事的には、はっきりと中国包囲網連携を築きつつある。ロシアとも、「中国に従属しないための連携」という共通利害を確認し合っていたのだと思う。

こういう微妙な関係を、石破氏が後継になった時、この先、民主党系に政権交代が起きた時、どうしていくのか。引き継ぐのか、変更するのか。どう変更するのか。

安倍氏の辞任を契機に、きちんとまず認識し、議論していくことが大切だと思います。

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