3月25日・バイデン大統領、NATOサミットでの「NATOはかつてないほど結束している」発言を「じゃんけん・ぐーちょきぱー理論」でその意味するところを読む。

 戦争を「白か黒か」の善悪二項対立オセロゲームみたいにではなく、すくなくともグーチョキパー3つの立場、それぞれの強み弱み、それぞれの利益国益を追求する勢力の思惑の駆け引きとして、理解するようにしよう、というのが、一貫して僕がこの戦争について論じてること。もちろん3つなどでは括り切れるわけもなく、ひとつひとつの国、各国国内の複数政治勢力、経済的集団、その利害が複雑に絡み合っていて、それを細かく理解することを地道に積み重ねてきたわけなのだが、そういうことを細かく書いていると「でもロシアがずかずかと攻め込んでプーチンが子どもを殺してるんだ、ごちゃごちゃいうな」論が出てきてしまうので、その「白黒オセロ善悪論」に対して、せめて、「西側」といっている陣営を、NATOの中心でEUとは関係のない「米国・英国」のアングロサクソン2ヶ国と、EUの中心で、NATOではわき役と言うか消極的立場でしかない「ドイツ・フランス」が異なる利害を持つこと、それとロシアとの関係のなかでウクライナを考えましょう。

グー「米英」チョキ「独仏」パー「ロシア」

あれ、ウクライナはどこにいるんだ。グーの米英にあおられてNATOに入ろうとしたら、パーのロシアに攻めこまれて、チョキが仲裁しようとしている。ということだ。

 それを認識するために、ドイツDFテレビの論調がBBCやCNNとはずいぶん違う、ということをずっと書いてきたわけです。

 この基本認識構図から、ここ二日間のニュースを読み解こうというのか、このnote。

 ここ数日のBBC、CNNのニュースの流れ「ウクライナが反転攻勢に出た」「キエフ近郊から押し返した」は、バイデンの欧州でのNATOサミットに向けた「論調づくり」でもある。(その後のアゾフ海ベルジャンシク港でのロシア揚陸艦二隻沈没ニュースも同様)

 勝ちそうなのだから、もっとウクライナに武器を送って、ロシアを押し返せ。これが。バイデンがNATOサミットで言いたいことだ。停戦はまだ早い。せっかく反転攻勢になったのだから。ここからが戦争のいいところなんだから。戦争はやめないよ。

 軍事同盟のNATOにとって、戦争が続いてNATOの重要性を欧州各国の政府も国民も再認識することが大事。NATOの中心、米英はそれが望み。

 エネルギーと経済でロシアに日和ったドイツよりも、軍隊を派遣し兵器を売ってあげるアメリカこそが頼りになるぞ、と東欧NATO諸国を子分にするチャンス。

25日朝五時のNHKワールドニュースでのBBC。
 
NATOサミットではゼレンスキー大統領が「NATOが持っている戦闘機と戦車の1%をくれ。NATOの政治判断でできるだろ」と、参戦しないなら武器をくれ要求のビデオ演説をしている。

ゼレンスキーの戦略参謀には米英情報機関が張り付いている。バイデンの意図と呼応、合致している。

 ついで、NATOはウクライナに派兵はしないが、ウクライナに接する東欧諸国への増派すると決定。これ重要なニュースで、ポーランドを代表とする、ルーマニア、ハンガリーという国を、(ドイツよりももっと)親米的な国にして、米軍が大量に駐留し、そうした国の軍隊が米軍の実質指揮下に入るようなことを狙っていると思われます。と言うか、日本人にはわかりやすい話で、ポーランドを東欧の「日本的属国化」しようということです。朝鮮半島とか台湾とか、そういう危機があるので、日本の自衛隊は有事のときは米軍と共同作戦を取る。日本には世界最大の米軍が駐留している。ドイツとフランスが経済とエネルギーのつながりなどでロシアとの間でふらふらするのに対して、軍事的にはポーランド、お前の方が優等生だぞ、という扱いをすることを鮮明にした、ということですね。ドイツみたいになるな。米国に忠誠を誓えば軍事的にも経済的にも援助してやるぞ。

 そして、バイデンは「欧州のNATO諸国はもっと軍事費を増やせ、兵器を買え」とまず語ったわけです。露骨ですね。バイデン、にやにやが止まらない、兵器を買え。子分にしてやるぞです。

 バイデンの演説「プーチン大統領はNATOの分裂を望んでいます。昨年の12月と今年の1月、彼と話をしたとき、NATOが今の結束を保てるわけがない思っていたのは明らかでした。しかし、NATOはかつてないほど結束しています。プーチン大統領は全く逆の効果をもたらしました。」

 バイデンにやにやポイントその2ですね。エネルギーなどロシアとの経済的結びつきの強いドイツはじめNATO諸国は、対ロシアで結束できない。とプーチンが読んでいたのに対し、NATOは結束したぞ。バイデンの言う「ひとつになる」は、米英の戦争推進路線に、独仏も従ったぞ。バイデンさんの、これはロシアに対する勝利宣言の前に、まずは独仏への勝利宣言だということが分かるでしょうか。

 ついでニュースはG7サミット。「懸念されるのは中国がロシアを経済的、軍事的に支援すること」への警戒を語った上で「次の議題はヨーロッパがロシアからの石油とガスの依存をやめること」。と米国かドイツ・フランスに要求しているわけですね。ロシアとはきっぱり手を切れよと、米国がドイツに迫っているわけです。

では、同じタイミングのドイツZDFが何を報じていたか。

同じく朝六時からのNHKBSワールドニュースでのZDF。

G7首脳の記念写真撮影、「この集合写真こそいちばん重要な、G7各国は一致団結してプーチン大統領に反対するというメッセージです。」

ショルツ首相のあいさつ「世界が直面している喫緊の課題にG7各国が団結して立ち向かう」

バイデンと、岸田首相と握手するショルツ首相を映しつつ、アメリカがさらなる経済制裁を求めたことを伝えた後で、
「午後からのEU首脳会議では「ロシアへのこれ以上の経済制裁はほとんど不可能だということになりました。ガスや原油のボイコットをためらっているのはドイツだけではありません。オーストリアの首相『ロシアからのガスや原油の禁輸に加わりません。』」

はい、頭が混乱しますね。

グーチョキパー理論が頭にないと、ドイツZDFの報道を見てみないと、このドイツの態度というのは、日本国内では全然わからないですよね。世界中がバイデンに完全に一致しているようなイメージになるでしょう。

バイデン・アメリカと、イギリス・ボリス・ジョンソンは、「戦争を徹底的に続ける。ウクライナにも武器供与をするし、NATO各国にも武器をもっと買わせる。ドイツは言うことを聞かないから、ポーランドはじめ東欧各国での米軍を増強し、そこに武器をもっと買わせる。まだまだ戦争はやめない。」という宣言をしに、欧州訪問したわけですね。

 ドイツは、日本同様、敗戦国ですので、武器輸出ではありません。戦争継続に、何の経済的利益もありません。経済制裁の、ブーメランを、一番ひどく食らう国ですから、早く戦争が停戦にならないと、困るわけです。

 ちなみに、話はすこしズレますが、フランスは武器輸出国ですが、輸出先が幅広くて、例えば、主にロシア製武器で武装しているインド空軍の戦闘機は、ロシアのスーホイとフランスのミラージュが主力戦闘機です。エネルギーのこと、武器輸出のこと。フランスはNATOに属し、EUの中心国ですが、ドイツともまた異なる国益があります。マクロン大統領が停戦交渉でプーチンとも話を続けられるのも、そういうフランスの独自のポジションがあるからです。

 またまた話はずれますが、今回、ウクライナが予想外に善戦した要因として語られる「対戦車兵器」ですが、対戦車ミサイル「ジャベリン」は米国製、「NLAW」は英国製。そしてものすごい戦果を上げたドローン「バイラクタルTB2」はトルコ製。アゼルバイジャンとアルメニアの戦争で名を上げたのが昨年。今回のウクライナで、さらに評価を高めた。戦闘機の1/10以下の価格で、人的被害も出さず、対戦車、対装甲車なら圧倒的な効果がある。アジアアフリカの貧しい国に市場は広がる。

 トルコはロシア、ウクライナの仲介をする一方で、トルコ製兵器のアピールも世界にしている。したたかです。

 昼のNHKBSワールドニュースでは、アメリカABCが、バイデンのポーランド。ウクライナ国境訪問を報じていましたが。この「バイデンのポーランド重視」は、「ウクライナ領土内には踏み込まないが、バイデン政権は無責任、弱腰ではない」という姿勢を、欧州各国にも、米国内有権者にも見せる演出と読むのが正しいと思います。

 ロシアが予想より苦戦しているのは確かです。 化学兵器、戦術核兵器の使用をしないで、通常戦力でキエフ攻略をするのは難しくなっているのは本当かと思います。なので、ハリコフとマリオボリは制圧して、クリミアまでの陸路を通して、東部と南部の支配地域。ドネツク。ルバンスク両共和国としての実効支配領域を拡大した状態で停戦交渉に入るというのがロシアの狙う落としどころかと思います。

「キエフとオデッサを、取られなかったからウクライナが優勢」かというとそんなことはない。ドンバスのロシア実効支配エリアは拡大強化されたわけですから。ウクライナが、これプラス、クリミアロシア帰属を認めないとロシアは停戦しないと思う。

 「ロシアが、予定したほど勝たなかった」中で、「ウクライナが善戦した、やや押しかえしたタイミングで」「ロシア、ウクライナ双方が負けたわけではない、と国民がそれぞれ納得できる妥協点を見つけて停戦」に、本来は向かう、そういうタイミングだと思うのですが。

しかし、CNN、BBCの「ウクライナ反転攻勢」だからNATO戦争継続、米英の兵器を、ヨーロッパは買え、戦争は続けるぞ、論調では、停戦には向かわないですよね。

白黒オセロ頭から。じゃんけんグーチョキパー頭に切り替えて、冷静に考えて下さい。

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