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トーキョー

私は田舎から上京してきた身だ。トーキョーという場所はテレビの中の場所だった。家から出たい、もっと遠いところに行きたい、一人で生きていきたい、そう考えていた中学生の私。そんなときに出会った辻村深月さんの短編集「ロードムービー」。初めて手に取ってからもう何十回と読んだ。あの頃の私の心を軽くしてくれて、今の私を認めてくれる素敵な言葉たちが詰まっている。

あの頃学校が辛かったこと。家に帰ってもお母さんと喧嘩しちゃうこと。自分の見た目も性格も何もかも嫌いと思ってしまうこと。そんな卑下する自分がもっと嫌だった。だから、自分を変えたくて。自分のことを誰一人として知らないところに行けば、何か変わるんじゃないかって思ってた。そんな私を包み込んでくれた「道の先」。

「ここじゃない、どこか遠くへ行きたい。だけど、それがどこにもないんだってこと。」

「だけど、大丈夫なんだ。」

「気づいた頃には、知らないうちに望んでいた”遠く”を自分が手にできたことを知る、そんな時が来る。」

「だから安心していい。心配しなくていいんだ」

この言葉に何度救われただろう。何度この文章を目に焼き付けただろう。きっと今の私は中学生の私からみたら”遠く”を手に入れている。本当に気付かないうちに遠くへ来てしまった。色々あった。色々あって実家は引っ越しをしたし、高校時代は将来のことですごく悩んだ。あんなに悩みまくったのに大学受験には失敗し、考えてもいなかった道を選んでしまった。でも後悔はしていないし、きっと間違っていない。そう思うしか自分が報われないから。

トーキョーが東京に変わった。外から見るよりもキラキラしてないことを知っちゃったし、都会に行けば行くほど汚いことも知ってしまった。でも大丈夫。私には素敵な友達がいて帰る場所がある。優しい人がいることも知っている。空は高いし、月が綺麗なことも知っている。あの頃の自分がいるから今の私がいること、ちゃんとわかっている。

「だから、安心していいんだよ」

私にはこの本がある。いつだって勇気をくれて背中を押してくれる。

#読書の秋2021

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