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詩、文章

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2020年4月の記事一覧

ススキ野原について

ススキ野原について

ススキが光に透ける瞬間が好きで、私の彼岸にはススキがあると思う。

死の匂いが強くなるとき、私は古い電車に乗っているような気になる。そういう映像が流れる。その電車の行先、それを彼岸として、「ススキ野原」に出てくるのはその彼岸に行き着くまでに私の前に現れるもの。私を引き留めるもの。

ススキ野原は私の走馬灯だった。
もうそこにはいない人のことを思い出すときの、こういう深く淡く掴みどころのない、私の喉

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ススキ野原

ススキ野原

 あのとき、寝惚けている私の隣にほんとうにあの人がいたのだとしたら、あるいは、静かな終わりもあったのかもしれない。いつか話した夢の続きに、やさしい顔をしたあなたたちがいる。

 記憶がある。それは、水辺に走る古い電車。べロアの座席に腰かけてひっそりと居眠りをしている私は、車内に自分一人きりだと決め込んでいる。そうして、やわらかい日差しの中、友人の撮った山脈のススキ野原のことばかり考えて、時刻はわか

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