【ダイレクターズ】『夜明けのすべて』【HOME】
【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。
ダイレクターズ第三弾は、2/9㈮公開の三宅唱監督『夜明けのすべて』です。
『夜明けのすべて』
2024 | 監督:三宅唱
2024/2/9(金)より
全国ロードショー
原作モノを映画化すること
瀬尾まいこさんの小説「夜明けのすべて」を映画化した作品です。
PMS(月経前症候群)に悩む女性とパニック障害を患う男性の交流を描いており、単なる友人とも恋愛関係とも違う、人と人の繋がりの形を繊細に表現しています。
濱口竜介監督と並んで、日本の若手監督の中ではトップランナーと目されている三宅唱監督ですが、実は商業映画作品では原作モノが多いことに気付きます。
『きみの鳥はうたえる』『ケイコ 目を澄ませて』と続いて、今作です。
もちろん様々な要因や巡り合わせが重なってそうなったのだとは思いますが、原作モノとの相性の良さは間違いありません。
その理由の一つとして考えられるのは、三宅監督が作り出す空間の素晴らしさではないでしょうか。
これは作り込まれたセットで独自の世界観を演出するというものではありません。
何気ないシーンでも、そこに登場人物たちが生きていて、観客も同じ時間を共有していると思える瞬間があるということです。
例えば『きみの鳥はうたえる』でのクラブシーン。
メインキャスト3人のフロアでの過ごし方でその人となりを表しつつ、クラブ独特の心地よい退屈感を見事に映像として再現しています。
文字情報のみなら、各々の記憶や経験と直結させて感じられるシーンも、映像として見せられるとどうしても答え合わせのように表面の差異を追いかけてしまいがちです。
三宅監督の演出は、この答え合わせから抜け出すように説得力のある空間を提示してくれます。
もちろん『夜明けのすべて』でもこの演出力が大いに発揮されています。
主人公たちが勤める会社の雰囲気などがまさにそうなので、是非とも映画本編で確認していただきたいです。
フィクションにおける“自然さ”とは?
三宅監督の作品に出演する俳優陣は、演技の質感がこれまでとは変化する傾向にあるように思えます。
NHKの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で夫婦を演じた上白石萌音さんと松村北斗さんですが、今作では新たな関係性を模索する人物として共演しています。
これまでに見たことがないようなキャラクターを演じながらも、本当にそういう人であるような錯覚を起こすほどの自然さがあります。
フィクションにおける自然さとは、リアリズムとはまた別の観点です。
アドリブやエチュードとも異なる自然さの正体は、三宅監督の『ワイルドツアー』を観て、その成り立ちを知ると掴めるかもしれません。
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
2023 | 監督:金子由里奈
こちらの作品も、人と人との関係性について改めて考えさせられる映画です。
心の問題は時として本人でさえどう扱えばよいか分からなくなります。
それを周りが自分の経験則や常識と呼ばれる形を押し付けてしまうことで、どれだけ当事者を苦しめてしまうのか。
ただその苦しさだけを表現するのではなく、より良い在り方への模索や提案が盛り込まれた内容に『夜明けのすべて』との共通性を感じます。
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