ダルマが転んで幼な子は泣く　盆地の番犬便り⑤

こんにちは。盆地の番犬です。
去る一月九日、番犬は「温泉で温もりたい」と思いました。本物の犬ではないので自動車(中古の軽)を駆ってブイブイとドライブです。
番犬の住む県には至る所に温泉があり、東西南北どちらに向かおうともしばらくしたら温泉街に行き着きます。
番犬は取り敢えず北にハンドルを切り直進しました。雪山を眺めつつ畑の中の一本道を爆走、適当なところで曲がると、ある山の麓の立派な神社に行きつきました。
近所の氏神様に初詣では済ませておりましたが、強欲な番犬は今年の無事、事業の発展などをさらに祈念しよう、何しろ立派だからと思い、併設された駐車場に車を入れました。
松の内も過ぎたのに境内は随分と賑わっておりました。
賑わいに釣られ歩を進め、下心に見合わぬ少額の賽銭を放って景気良く柏手を打ち神に祈った後おみくじを引くと「吉大」と出ましたので気を良くして目立たぬようにスキップしたよ。
本殿に程近い広場に大きな焚き火を発見して、叩き過ぎてジンジンする掌を暖めようと近づいて行くと焚き火の燃料は色とりどり大小様々なダルマさん。
破魔矢や、書き初めと思しき紙も焚べられております。
「これはお焚き上げ？どんど焼き？我が故郷ではどんど焼きの火で餅を焼いて食すと一年間無病息災が保証されると言われていたがココでは誰も餅を焼いていない。やはりお焚き上げ？何にせよ中々にパンチの効いた光景だね」
写真に収めようとカバンを漁ってもスマホが見当たりません。
どうやら家に忘れてきたらしい。いつものことだ、目視しよ。

焚き火を囲む人だかりの中には、いたいけな幼な子たちも大勢いて、ほのぼのとした気持ちで掌を炙っていましたら、いたいけなギャン泣きが聴こえてきました。
声の主は、ウサ耳フードに全身モコモコのジャンプスーツで決めた性別不明のカワイコちゃん。
番犬、ウサ子の気持ち分からんでもないかもと思いました。

ダルマさんは縁起物。
購入したらば何かしらの必勝を祈願して家や事業所に祀り、願いが叶ったらグリグリと目の玉を描き神社にお返しする。叶わなくても新年には新しいダルマさんに取り替えるのがよろしい。古びたダルマさんをいつまでも所有するのはいじましい行為であり、そんな貧乏臭い心根では何事も達成出来ませんよ。さあ、煙と共に天に還し新たなダルマさんと共に心機一転頑張るぞー！オー気合いだー！！

などという大人の事情なんか知らんがな。
燃え盛るダルマに対しボクorアタシ、恐怖。もしくは憐憫。
そんな負の感情、幼な子の小さな胸には保持できないから泣きますね。オーイオイ。

番犬おばちゃんはウサ子の気持ちを勝手に推測&一方的に共感し、彼or彼女の心に直接語りかけました。
おばちゃんも、幼少のみぎりガッチャマンという五人グループのヒーローに追いかけられる夢を見て号泣しながら目覚めた事があるわ。ガッチャマンは鳥のトサカの様な被り物を身につけてマントの端はギザギザだった。鳥の羽を表現したつもり？
正義の味方である筈なのに、あんぱんマンとは似ても似つかぬ劇画調の強面は全身黒尽くめの敵方の数倍怖く視線一つで皆●ロシ、って感じ。
大人には大した事無くてもいたいけなチビッコにとっては恐ろしい事ってたくさんあるわよね巨大花火とか。全く、大人は解っちゃくれないぜ。

語り続ける番犬の脳髄にウサ子の声が届きました。
彼or彼女は声を振り絞り、全身全霊で

Happy  Birthday  to  You

を歌っていたよ。

な〜ぜ〜だあ〜〜〜？

君は誰に向けて泣きながら祝いの歌を歌っているの？
今この瞬間君にとってのユー、誰?
ねえウサ子(仮名)、君に何があったの！？
君はいつだって全力なの？泣く時も笑う時も歌う時も？
全力で複数の事をこなせるマルチタスクなキッズなの！？

尋ねたい事は色々ありました。
しかし彼or彼女の傍らに立つ若いお母様は、甘酒の紙コップを両手で胸の前に掲げて目を瞑り直立不動。
「無の境地に至る修行」を行なっていらっしゃるように見受けられます。
神聖な神社で修行者の邪魔をしてはならぬと感じた番犬はソッとその場を離れて蕎麦屋に落ち着き暖かい天麩羅蕎麦を神妙な顔して啜り上げました。

お詣りしたし腹も満たされた。さあ、温泉だ。
数キロ離れた所に前から行ってみたかった温泉郷がある。レッツゴー、おいら。

道路標識と看板を頼りに走り出しましたが左折するべき角を曲がり損ねた番犬。
「後戻りは好まない。前進あるのみ！」
前進の先はいつもの盆地ですけど？

うむ、近所の行きつけのスーパー銭湯に行こう。

行きつけの銭湯のいつもの湯船に身を沈めました。
その銭湯の露天風呂スペースには数種類のお風呂があり、両端に酸素風呂と水素風呂が設えてあります。
暗記するほど読み込んだ「酸素風呂の効能」と「水素風呂の効能」をそれぞれに再読。全ての病の原因は酸素不足と謳う風呂。悪玉活性酸素を駆逐すべく水素を吸い込めと謳う風呂。酸素と水素。活性酸素は酸素じゃない？「両方に浸かってプラマイゼロ？」と毎度首を捻る番犬、理科はすっごく苦手です。
そして表題の絵の上空を飛んでるヤツ、ガッチャマンにビタ一文字似ていません。
こんな画力の無さで堂々と「絵描き」を自称しています。