0-2. CLOとMarvelous Designerの違い

CLOは現実世界の衣服向け、Marvelous DesignerはCG・アニメ・ゲーム向け

 CLOは現実世界の衣服向け、Marvelous DesignerはCG・アニメ・ゲーム向けで、いずれも、CLO Virtual Fashionという同じ会社が提供している。

 残念ながら、私はCLOしか使ったことがないので、実際に使ってみてどうか、というところまではわたしの所感は書いていない。ここでは私が集めてきた情報をもとにその差について整理しておく。

CLOのコミュニティ内やYoutubeでの議論

Q. CLO とMarvelous Designer の違いは何ですか?
 CLOVirtual FashionがCLOの公式サイトのFAQで以下のように回答しているのを確認している。

Question
What is the difference between CLO and Marvelous Designer?
(CLO とMarvelous Designer の違いは何ですか?)

Answer
Although the core technology behind the solutions are the same, Marvelous Designer is primarily used in the CG, animation, and gaming industries.
(コアとなる技術は同じです。Marvelous DesignerはCGやアニメーションやゲーム産業で使われます。)

CLO is a more robust solution geared towards the fashion and apparel industries with functions that can be applied to various stages of the garment design development process.
(一方、CLOは、ファッションやアパレル業界向けに機能が特化しており、衣服の製造プロセス様々なフェーズに適用することができます。)

The primary difference between the two solutions is that the import/export of DXF-AAMA or DXF-ASTM files in CLO, allows for production-ready patterns to be sent to your manufacturer.
(2つの一番の違いは、CLOの場合はDXF-AAMAやDXF-ASTMのインポート、エクスポートができ、生産準備が完了したパターンを工場に送ることができるということです。)


CLO .vs Marvelous Designer

Question
Does anyone know the differences between CLO and Marvelous?  when is it better to use clo , and when is it better to use Marvelous?
(どなたかCLOとMarvelousの違いをご存知でしょうか?どういうときにCLOを使い、どういうときにMarvelousを使うのが良いのでしょうか?)

Answer
Basically, if you need to use your patterns to produce an actual garment somewhere down the line, you should use CLO rather than MD. If you're going to be editing the garment in a program like Zbrush and then using it purely for digital presentation purposes, you should use MD.
(パターンを印刷して実際に服を作るということであれば、MDよりもCLOを使うべきです。後続作業でCGやアニメーションの作成を目的としてZbrush など使って服を編集したいのであれば、MDを使うべきです。

Marvelous Designerはパターンが出力できない

 このYoutubeの動画では、シンプルに答えを出している。

Question
Can I create patterns Marvelous Designer and then output them to create real world patterns for sewing ?
(Marvelous Designerでパターンを作ることができますか?それをつかって現実世界で服を作ることができますか?)

Answer
No, you can't.
(いいえ、できません)

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 動画によれば、Marvelous Designerの守備範囲は他のツールによって作られたパターンを取り込むところから始まると説明している。あくまでもMarvelous Designerは、パターンを取り込み、フィットさせ、それを調整するためのツールであるという表現をしている。

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 動画の中では、Marvelous Designerで現実世界の衣服をデザインしようと思ったときに何が起こるのかという観点で懸念あげている。

- 現実世界にあったフィット感を出すのが難しい
- パターンの印刷ができない
- 他のパターン作成ツールで現実世界に合わせたパターンを取り込んでも正確に取り込めない
- 現実世界のパターンで必要なノッチや縫い代が消失する

 ここまでのQAの中で出てきたように、Marvelous Designerはアニメ・CG・ゲーム業界向け、CLOは現実世界の衣服向け、ということがよくわかったと思う。アニメ・CG・ゲーム制作のために、各種専用ツールに取り込みたいならMarvelous Designerを選択し、現実世界の服を作るためのパターンを出力したいならCLOを選択する。ということである。

 歴史絵本からみるCLOとMarvelous Designerの違い

 CLOのことを調べているうちに面白い絵本を見つけた。CLOの会社の沿革をシンプルな絵本にしたものである。ここに、CLOとMarvelous Designerの違いを理解するヒントがあった。

Page. 1 :Jadenは大学の博士課程で布のシミュレーション技術を研究していました

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Jaden, a Ph.D. student of Computer Science, has a passion for cloth simulation technology. He develops the first prototype at school and is thrilled to see students having fun creating 3D garments with the program. Seeing how fun the program can be, Jaden decides to make it public so more people can enjoy it.

 Jadenはコンピュータサイエンスの博士課程の学生で、布のシミュレーション技術に情熱を注いでいます。彼は学校で最初のプロトタイプを開発し、学生がプログラムで3Dで表現された衣服を楽しんでいるのを見て興奮しています。 Jadenは、このプログラムがどれほど楽しいかを見て、より多くの人が楽しめるように公開することにしました。

Page. 2: このソフトウェアに関するコミュニティを立ち上げました

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One of the very first users, a cosplay artist, thinks this could be a game changer in his community of cosplay artists, and suggests to launch a community.

 最初のユーザーの1人であるコスプレアーティストは、このソフトウェアが自分のコスプレアーティストのコミュニティにおけるゲームチェンジャーになる可能性があると考え、コミュニティを立ち上げることを提案します。

Page. 3: ソフトウェアはたちまち人気となり、Marvelous Designerと名付けられました

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Surprisingly, gains enormous popularity from the community of over 2 million virtual cosplay artists. Realizing the market potential, creates a program specifically for this target group, and name it ‘Marvelous Designer’.
* 2009: First beta version of Marvelous Designer launches.

 驚くべきことに、200万人を超えるコスプレアーティストのコミュニティから絶大な人気を得ていました。市場がそこにあると確信し、この層に特化したプログラムを作成し、「Marvelous Designer」と名付けることにしました。
※ 2009年:Marvelous Designer ベータ版リリース


Page. 4:リリース後、Marvelous Designerの海賊版の使用に悩まされましたが、映画にも採用されるほど広く知られるようになりました

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Marvelous Designer, found there were many crack versions. Creates concern over whether the program can even be profitable. That is when Weta Digital, our first client, reaches out to us. They have heard about us through the numerous artists in the CG community who are using the crack. Similarly, crack users talking about us in online forums leads major companies to find out who we are, later becoming our partners.
* 2011: The first movie created using Marvelous Designer is ‘The Adventures of Tintin’.

 Marvelous Designerは多くの海賊版がの存在が確認されていました。これによって、このソフトウェアが利益を生むかどうかという懸念がありました。それは、最初のクライアントであるWeta Digitalが私たちにコンタクトを取ってきたときのことです。彼らは、海賊版を使用しているCGコミュニティの多数のアーティストを通じて私たちのことについて聞いているようでした。同様に、海賊版を使用しているユーザはオンラインフォーラムで私たちのことを話しており、そのことが、結果として大手企業にも伝わることになり、後にパートナーになることになります。
※2011:Marvelous Designerを使用して作成された最初の映画は「The Tintins of Tintin」

Page. 5:海賊版であったとしても私たちのユーザであることには変わりません。ユーザ中心の考え方は今も息づいています

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We realize that it is our users, including the ones that use cracked versions, that make us grow. It all started with a single artist who saw the potential of, growing to a community that embraced us, and finally to the industry leaders who heard about us from these individual users. Since then, the core of our company mindset has always been being user-focused, truly thinking from the users’ perspective.

 たとえ海賊版を使っていたとしても、彼らは私たちのユーザであり、私たちを成長させてくれると信じていました。すべては、一人ひとりのユーザから始まったのです。ユーザの一人ひとりが、私たちを支援してくれるコミュニティを盛り上げ、ついには、業界のリーダーへと私たちの思いを届けてくれたということがすべての始まりでした。それ以来、私たちの会社の考え方の中核は常にユーザー中心であり、常にユーザーの視点で考えています。

Page. 6 アパレル業界向けにカスタマイズを加えた結果、CLOが誕生しました

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While we are growing in the CG/gaming industry, we also want to fulfill what we initially envisioned and develop a program specifically for the apparel industry. We meet with numerous designers and pattern makers to do Proof of Concepts for our program, and receive valuable feedback from them that helps us develop the tools that cater to fashion designers’ needs. We create CLO to be as accurate and realistic as possible so that the virtual garments created in CLO look and act exactly the same as the physical garments.

 CGやゲーム業界で成長する一方で、当初想定していた、アパレル業界向けのプログラムを開発したいと考えています。数多くのデザイナーやパタンナーとお会いして、プログラムのPoC((概念検証。実際にプログラムを開発する前に、その効果やコスト感を確認するフェーズをのこと))を行い、ファッションデザイナーのニーズに応えられるようなツールにするために役立つ貴重なフィードバックを受けました。そして私たちは、コンピュータ上で作成された仮想衣服が、物理的な衣服とまったく同じに見え、同じように動作するように、可能な限り正確かつ現実的なものとしいました。これが、CLOの始まりです。

Page .7: CLOとMarvelous Designerは、現在もユーザに支えられ、進化を続けています

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Our users for both programs are growing constantly and we actively engage with them to hear their feedback. User feedback pushes us to work harder to make our programs better. As a result, Marvelous Designer and CLO have constantly been improving for the past 10 years, thanks to our users.

 両方のプログラムのユーザーは絶えず成長しており、フィードバックを得るために積極的に関わっています。ユーザーからのフィードバックが、より私たちのプログラムの改善を後押しするようになりました。その結果、Marvelous DesignerとCLOは、この10年間ユーザに支えられ、常に進化を続けています。

Page. 8: CLOで作った服をコンテンツとして扱うプラットフォーム、仮想試着へとその技術の進化は止まりません

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Leveraging 18 years of expertise in 3D garment simulation and virtual fitting, we develop more solutions. We launch CLO-SET (www.clo-set.com) and Benefit by CLO (www.benefitbyclo.com) to provide platforms for our users to use and interact with 3D garment contents.
* 2018 : CLOSET Beta launches. Over 30,000 messages in Beta service, we continue to add on features that users want to see.
* 2018 : Benefit by CLO Beta launches: A technology that enables you to try on clothing virtually.

 私たちは、3D衣服シミュレーションと仮想フィッティングにおける18年の専門知識を活用して、より多くのソリューションを開発しています。 CLO-SET(www.clo-set.com)およびBenefit by CLO(www.benefitbyclo.com)を開始して、ユーザーが3D衣服コンテンツを扱うことができるプラットフォームを提供します。
* 2018年:CLOSET β版開始。βサービス30,000を超えるメッセージがあり、ユーザーからの要件を追加し続けている。また、Benefitにより、服を仮想的に試着できるようになった。

Page. 9:CLOとMarvelous Designerの旅はまだまだ続きます

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And the journey continues. Until today, both CLO and Marvelous Designer have been used by experts in their each fields. Our team is constantly working on new projects. After all, our mindset has always been and will always be to focus on our users.

 そして私たちの旅はまだまだ続きます。今日まで、CLOとMarvelous Designerは、それぞれの分野の専門家によって使用されてきました。私たちのチームは常に新しいプロジェクトに取り組んでいます。結局のところ、私たちの考え方は、これまでも、これからも、常にユーザーの思いを大切にするということなのです。

個人的な解釈(正確さと誇張のバランス)

 歴史的な背景から、Marvelous DesignerとCLOはそれぞれの道を歩んできて、それぞれの進化を遂げてきたというのは納得感がある。なぜかというと、CG・アニメ・ゲームの世界で、必ずしも正確さを求められないからだ。

 例えば、よく知られているゲームとしてマリオを考えたとき、マリオが地面を蹴り上げてジャンプするその高さは、人間が地面を蹴り上げられる力やマリオの質量、重力加速度を考慮して計算されたものなのか?というところ考えれば自ずと答えは出てくるはずだ。

 当然、答えはNOである。マリオの質量は何[kg]?ブロックを叩くマリオの拳の質量は何[kg]で何[m/s]でたたくのか、ブロック跳ね返り係数は?空気抵抗はあり?なし?こんなことを計算してはいないし、する必要もない。ゲームにおいて正確さは不要なのである。いや、不要どころか、邪魔になることさえあるのである。

 一般に、ゲームを現実と同じような重力加速度で作ってしまうと、もったりとした動きになって、操作する人はストレスを感じることが知られている。

 人間の脳内で想像する重力加速度と、現実世界とでは乖離があるのである。それゆえ、ゲームクリエイターは、いかに人間が気持ちよく感じられる動きになるかということを日夜研究しているである。現実世界の動きが、脳内での動きとリンクするように誇張しながら、いかに気持ちよくプレイできるかということを追求するのである。

 いろいろと調べてみた結果、正確さのCLO、誇張のMarvelous Designerという理解を得た。

 このことを踏まえると、Marvelous DesignerとCLOがそれぞれ別の歴史を刻んできたということにも納得感がある。私の個人的な見解としては、この先もこの正確さと誇張の2軸が交わって一つになることはなく、それぞれが、それぞれのまま進化を遂げていくのだと想像している。

 あなたがやりたいことは、CG・アニメ・ゲームを作るMarvelous Designerか?それとも、現実世界の服をCLOか?どちらにあてはまるでしょうか?

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