元に戻さない

伸ばしていた前髪を切った。
今までは好きなアーティストの影響でセンターパートにしていたが、五月に開催される彼のライブが終わったらやめようと思っていたため、ようやく切ることができてすっきりした。

元々の私のヘアスタイルは、センターパートとは正反対の重めの前髪だ。この髪型が好きというわけでも嫌いというわけでもなかったが、額を隠すのにはちょうど良かった。

私の額には、凹みのような傷跡がある。両親いわく、一歳の頃に物か何かにぶつかってできたものらしい。幼年期の頃はそこまで気にしていなかったが、学校に通うになってからは傷跡がコンプレックスになり、額を隠すようにずっと前髪を作っていた。
中学生の頃、頭髪点検か何かのタイミングで友人に急に前髪をあげられたときは狼狽した。傷を見て出た発言かは知らないが、「あー、そういうタイプね」と言われたことは今でも覚えている。

このように、生まれてからほぼずっとこの傷跡と前髪で生きてきたわけだが、なぜか眼瞼下垂の手術をしてからは傷跡が目立たなくなった。よく見ればうっすらと傷跡が残っているのが分かるが、片親は私の額を見て「傷がなくなった」と喜んでいたので、他人からは全く分からないようだ。

しかし当然だが、眼瞼下垂の手術をすれば目の形が変わる。正直、今度はそれを隠すためにさらに前髪を伸ばそうとも思ったが、さすがにそれは目に悪いし見た目も不気味なのでやめた。
だが、元の前髪に戻すのも嫌だった。というより怖かった。

認めたくないが、私の顔は変わった。手術してから日が浅いうちは特にそうだが、今でも自分の目の形に対する違和感は消えずにいる。もしこれで前髪を戻したとしても「自分の顔だ」と思えるかが不安だったので、元のヘアスタイルに戻さないことで「自分の顔に違和感を覚えたとしても仕方ない」状況をつくることにした。

そして今回も、あえて別の髪型にした。
前髪は作ったが、額と眉が見えるシースルーバングに変更した。センターパートと比べて少しだけセットの手間が増えたが、自分の目に対する違和感が消えるまではしばらく元に戻さないつもりだ。

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