見出し画像

心理テストの種類と特徴(その3)

今回は「質問紙法」の代表的な心理テストであるロールシャッハテスト文章完成テストを取りあげます。(Mr.モグ)

ロールシャッハテストとは

ロールシャッハテストは、スイスの精神科医のRorschach.H.(ロールシャッハ)が、1921年に考案した投影法によるパーソナリティー検査の一つです。

スイスの子どもたちの「インクの染み」遊びを参考に、インクの「しみ模様」の図版10枚を被験者に見せて何に見えるかを答えさせたり、その理由や、そう見えた場所などについて質問をすることで、被験者の知的特性(思考力・分析能力・知的成熟など)、情緒的特性(衝動性・不安・抑圧など)、社会的特性(対人関心・防衛性など)等を分析するものです。

ロールシャッハテストの特徴

このロールシャッハテストの特徴は次のとおりです。

1. ロールシャッハによって作られた10種の図柄※のカードを裏返しにして、机(もしくは椅子)の上に置き、それぞれがどのように見えるかを被験者に聞き、被験者の反応をもとに診断します。

2. 被験者の反応は、記録用紙(カード番号、カードの向き、反応段階、質問段階などが記入できるようになっている)に詳細に記入され、分析に利用します。

3. カードを見ての被験者の反応については、特に、
①反応数、反応するまでの時間、拒否した回数など。
②被験者の反応が、図形についてか、色彩や動きに関するものか。
③図形の全体的に反応したのか、一部分に反応したのか。
④図は、何に見えていたのか。
について着目して、分析します。

4. (被験者がこの検査に否定的な印象をもたないように)最初のロールシャッハテストの説明にも時間をとることが重要とされ、その後、カード1枚ごとの反応を正確に記録し、その反応に対する質問を行っていくため、一般的な所要時間は、反応段階で20分、質問段階で少なくても30分程度かかり、被験者の条件によっては、一時間程度(もしくはそれ以上)の実施時間を必要とします。

※10種の図柄:すべて左右対称で、黒1色のものが5枚、黒と赤の2色のものが2枚、多色のものが3枚の合計10枚で構成されている。


ロールシャッハテストの結果の解釈

受験者(被験者)と専門家が一対一となり、静かで快適な部屋で、10種類の図形を被験者に見せて、次のような流れでテストが行われます。

1. 受検者は図版を見て、何に見えるかを自由に回答してもらいます。
2. 次に、「なぜそう思ったか」という追加の質問をします。
3. 図版の種類を変えながら、数回2~3を繰り返します。

この過程を繰り返すなかで、試験官は、受験者のカードを見たときの反応・態度などを記録し、「どのように見えたか」「なぜそう思ったか」という答えだけではなく、「好き・嫌い」といった感情的な反応や、回答にかかった時間の長さなども記録します。
正解があるテストではないので、カードをみて何にも見えない場合は「思い浮かばない(わからない)」ということが受験者の回答になります。また、カードの向きを変えたり、一部分に注目して回答してもらうことも可能です。

10枚の図柄それぞれに対する、平均的健常者の典型的な反応、統合失調症患者の典型的な反応などを整理した膨大な統計データをもとに、ロールシャッハテストの解釈に専門的な知識と技術を持った専門家(医師、臨床心理士)が解釈することになり、まだ発症してない精神疾患や神経症の兆候や、思考様式、感情状態、対人関係、行動パターン、自己認知、病理性(病気の原因や過程の根拠)など、多岐にわたる項目が診断できるとされています。

一方で、被験者の回答ぶりに個人差があることから、それらをもとに結果を解釈することに対して、普遍性に欠けるという主張や、(ロールシャッハテストは、解釈に専門的知識・経験が必要なことから)結果を解釈する専門家の技術・テクニックによって導かれる結果が異なるとの批判もあります※。

※村上宣寬、『「心理テスト」はウソでした。』、日経BP社、2005年4月


文書完成テスト(SCT)とは

文章完成テスト(Sentence Completion Test:SCT)は、Ebbinghaus.H(エビングハウス)が1897年に開発したものが始まりとされています。

文章の前半(すなわち「刺激文」)を呈示し、被験者に後半の文書を書き加えさせる(意味の通る文章を完成させる)ことを通じて、被験者の態度、信念、動機づけ、他の精神状態の徴候をみようとするもので、半構造化された投影法によるパーソナリティー検査の一つです。

文書完成テストの特徴

文書完成テストの特徴は次のようになります。
なお、ここでは我が国でよく用いられている「精研式文書完成テスト」を中心に説明します。

1.  次のような、短い刺激文に続く短文を書いてもらい、個人の性格をほぼ全領域にわたり診断することがでます。
(例 私の父      。  私はよく    。

2.  刺激文は、Part1、Part2の二部に分かれており、各30問、合計60問から構成されています。

3.  パーソナリティ検査の結果は、得点で示すのではなく、受検者の反応(言葉)そのものを重視して行われます。

4.  30~60分程度で実施でき、ロールシャッハ・テストなどの他の投影法と比べ実施が容易とされています。


文章完成テスト(SCT)の結果の解釈

受検者に自由に文章を記述させることで、その「内容」「表現振り」「筆跡」などを通じて受験者の印象を得ることができるため、全体を通読して人格的特徴や問題点を把握することができるとされています。

そのため、知能や性格、興味や生活史といった、パーソナリティの良い面も悪い面も等しく把握できますが、一方で評価者が完成された文書全体を読んで解釈することになるため、専門的な知識と経験や(生のデータから精度の高い評価を行うために)文書完成テストに習熟していることが必要になります。
(経験豊富な検査者であれば一読して問題点を把握できると行った効率の良さもありますが、検査者の主観や評価のバイアスの入り込む余地もあることに留意する必要があります。)

文章完成法の用途には、性格の分析、臨床への適用、態度の評価、達成動機づけ、その他、概念の測定などが挙げられるとともに、人材の発掘、育成、登用など、具体的には採用試験、管理職候補の適性評価、昇格試験などでも活用できるとされています。

なお、先行研究※によれば、文書完成テストでは、自己を素直に表出したくない受験者の場合は、完成させる文書の内容が自己開示をしない方向に働くため、そのことが評価結果に影響を与える可能性が指摘されています。

※熊野道子、『自己開示傾向の高低による文書完成法での反応の相違』、心理学研究、2006年、第77巻第4号、PP.360-365

次回は、「作業検査法」による心理テストの代表とも言われる内田クリペリン作業検査を取りあげて説明して行きたいと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。(Mr.モグ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?