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TOUMEI ②
この何もかも吸い取ってくれるような朝の始まりは、
1ヶ月前と同じ世界に住んでいるとは思えない。
アラームに叩き起され、
身支度も早々に、コンビニで買ったサンドイッチを
齧りながら駅へ向かう。
人々が行き交い、会話が入り交じる中電車を待つ。
あの頃は見えない何かに追われながら
必死でもがいて、走って。
しかし、人は面白いもので
その日常から逃げたくてここへ来たと言うのに、
いざ自由に生きれるとなったら、
あの日常が少し恋しくなったりもするもので。
こうして、独り占めできる透明な時間も
嬉しいような、虚しいような…。
そんな事をぼーっと考えていたら
いつの間にか日は昇り、ここから見える海沿いの魚屋さんのおじさんも、忙しそうに働き出していた。
声は聞こえないが、近所のおばさん達が
魚屋さんと楽しそうに会話した後、サービスで魚が入っているであろう小袋を貰っている。
「…あんな風に生きられたらな。」
ぼそっと呟く。
いつの間にか天邪鬼に育ってしまっていた私は、
誰かに頼ったり、他愛もない会話をしたり、
悩み事を相談してみたり。
そんな事の必要性が分からなくなってしまっていた。
…もう帰ろう。
透明ではなくなってしまったこの場所には用がないから。
飲み切ったタンブラーを片手に足早に公園を去った。
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