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仲良しだった犬のこと

昔から人見知りで、大人が苦手だった私が、幼い頃1人で泊まりに行っていた家があった。母の友人の家で、おばさんもおじさんも、2人居るおにいちゃんもお姉ちゃんもみんな優しくて大好きだったけど、私が一番仲良しだったのは犬だった。

黒くて大きい女の子のラブラドールで、名前はムーディー。賢く、人懐っこく、優しい犬だった。私の事も家族だと思っていたようで、遊びに行くととっても喜んでくれた。親友だった。その子が死んだのは、私が中学生の時くらいだったと思う。どこかに出かける途中で、ムーの家の近くを通る時、車の後部座席にいた私は、父に言われたのだ。「ムーちゃんは死にました」

ぐっと喉が重くなった。泣くのを堪えすぎて、喉の奥が痛くなった。一言も発しないまま、息を殺してぼろぼろ泣いた。ムーは病気だった。よぼよぼしていたし、最近は私も中学生になって忙しくなり、なかなか前のように会いに行けず、もうずっと姿を見ていなかった。もっと会えばよかった、最後に会いに行きたかった。その気持ちがぶわっと胸にひろがった。

何年もたって、私が成人式を終えて5日経った2020年の1月18日、夢を見た。私は振袖を着ていて、成人式の日にいるようだった。そこは広大な緑の草原が広がる丘で、すこし霧がかかっていて、湿地のようだった。美しいところだった。でも私や、私と一緒にいる人は、緑の草の上には行ってはいけないようで、そこの真ん中にある、コンクリートでできた車庫のような場所にいた。色んな人に振り袖を見せて回っていると、黒いラブラドールが、緑の丘から、元気に私の元へ走ってきた。「ムー!!!」私はおどろいて名前を呼んでわしゃわしゃと撫でた。わんこはあの頃のように、嬉しそうにはしゃぎ、身体をこすりつけた。

「着物はダメよ着物は。」私の着物の匂いをかぐわんこに向かって、私は笑って言っていた。ふんふんと鼻を鳴らしながらわんこが私にくっついて甘えていた。そこで目が覚めた。目が覚めた私は、泣いてすらいなかった。まだ寝ぼけていて、旧友との再開を喜ぶ気持ちで胸がいっぱいだった。久しぶりに会いに行きたいな、なんて思った。ムーがまだ生きていると勘違いをしてしまっていた。それほどリアルな夢だった。

そして我に返った。あの子は天国にいるのだったと思い出した。もう会えないんだったと思い出した。

成人を迎えた私に、夢でお祝いをしに逢いに来てくれたのだとすぐに分かった。ムーの飼い主が以前、「多分わたしちゃんのこと、遠くに住んでる家族だと思っとるわ、この子」と笑っていた。心の奥に仕舞い込んだと思っていた暖かい記憶が、いとも簡単に戻ってきた。

夢であの子を撫でたように、現実で空を撫でた。ありがとう、ありがとう、ムー。そう言うと涙が出てきてしまった。私が天国に行った時には、絶対にあの子に会いに行こう。あの子がくれた優しい成人祝いを胸に、優しく、自分らしく、成長していくと決めた。

後日、亡くなったペットのその後の物語である、虹の橋というお話を思い出した。

天国のちょっと前にあるとされる橋で、ペットたちはそこで愛する飼い主を待っているというお話。

そこには、草地や丘があって、病気だったペットたちは1番楽しく活発だった時に戻って、遊んで暮らしているらしい。

私の最愛の猫も、仲良しの犬も、そこで待っていてくれていると、あの夢を見た事で、私は確信している。

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