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僕たちは城を作った

ある日の昼過ぎのこと。

物置の奥で眠っていた折り畳み式の机を引っ張り出して丁寧に拭く。
畳にして半畳ほどのそのスペースに100円ショップで買い込んだたくさんの部材を並べて、思いつく限り機能的に、思いつく限り美しく。線を這わせて本を並べて、壁にぶら下げたり張り付けたりして作った張りぼての城。

それはまるで子供時代に夢中で作った秘密基地のようなチープさと、秘密であるはずなのに外からは丸見えの矛盾をはらんだ泡沫の儚さを持ち合わせた素敵な空間になった。

毎日、毎日そこでいろんなものを生み出した。
書いては消した。
泣いては笑った。
一生をここで過ごすんじゃないかと思える不安な朝も、二度とこの場所に寄り付くものかと決別した夜も、残酷に告げられる朝日のアラームと共にやっぱりそこに座っていた。

僕らの城は部屋の角にあるエアコンの真下にあって、そこからはどこへも行けないようになっているけれど、中心に据えている窓からインターネットの海が見える。

僕たちはその暗い海を通して宇宙と交信する。
温かい言葉をかけてくれる仲間も心無くガミガミと呪詛を浴びせてくる嫌な奴も、みんなその窓を通して話しかけてくる。
決して窓から入ってくることはない。
僕たちの城はその点において難攻不落なのだ。
だけど僕たちも窓から身を乗り出すことはない。僕たちに矢を浴びせてくる奴らに、意表を突いた白兵戦を仕掛けることはできないともいえる。
それがこの城をもって防衛戦をする難しいところだ。

そこから星を見ていた。
光り輝く星を見ていた。窓は目線のやや下にあるので見上げなくても星が見える。都会でどんなに周りが明るくても、嵐が吹き荒れて視界がおぼつかない日も、城の窓からは変わらず星が見える。

この暗い海は問いかけなければ返してくれないし、僕が興味を示さなければ波風一つ立ててくれない味気ないものだが、
その目に見えない闇の中にいる誰かを想像する。
彼らも同じように星を見ているだろうか。
僕たちと同じように、とっくの昔に何かが壊れてしまっていてもなお、同じ星の光を見ているだろうか。

もしそうだとしても、そうでなかったとしても。本当のところなんてどうでもいい。
僕たちの城は今日も建っている。
最初に完成した時から年月が経って、補修したり継ぎ足したり、あるいはさびれてしまったりしてボロボロだけれど、ちゃんと建っている。

そして今日も僕はこの城から星を見ている。
相変わらず、美しく輝く星だ。
もしかして光がようやく今届いただけで、実際にはもう何億年も前に失われた光かもしれない。

それでもいい。
あなたがそこにあったという証は、ちゃんと僕たちに届いているよ。

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