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精神的自傷回想譚、自信のなさ故の自爆恋愛紀行1


友人の友人だった。
学部棟近くの食堂で見かけてはいた。彼はとても目立ったのだ。
全身真っ黒。変わったデザインの裾が広がった服。肩まで伸ばした黒髪をオールバックにした端正で怜悧な顔。鼻から顎、頬にかけての線がシャープで整っている。釣り上がり気味の目の下にはいつもクマがある。モデル顔、モード顔と言ったところか。女のような線の細さなのに、ゴツゴツしている。

色白細身で指輪ジャラジャラ、ガラが悪い。大学生にしてはものすごくオーラがある。中国人留学生だったから顔つきが少し日本人と違う。
彼の隣を歩っていると、道ゆく人が振り返った。本当だ。

彼と直接会ったのは3月の半ばだった。まだみんながコートを着ていた頃だ。
インスタで繋がってはいた彼が、DMで「一緒に飲まない?」と言ってきたのだ。共通の友人・莉子と、これまた彼の友人でもある、莉子の彼氏がいると聞いたので快諾。

2軒目でバーで飲んで「この人、横顔が綺麗だな。なんてお酒が似合う人なんだろう」
と思った1ヶ月後ぐらいになんやかんやあって付き合うことになった。(そんな大した経緯ではない)

そして交際とも言えない何かの一ヶ月は、我ながら情緒不安定であったとおもう。

久しぶりに抱いた「好き」「手放したくない」と言う感覚
「セックスしたい」と心から思う気持ち
うつ病の気があるところすら守りたくなる気持ち
片思いのような焦燥感
「私のような人でいいのだろうか」
「なぜオシャレでも可愛くもない私なんだろうか」
「綺麗って言ってくれるけど、綺麗じゃないよ。」

エキゾチックな魅力的な彼に耐えられなかった。
また、一緒にいて彼が私を好きだという気持ちが伝わってこなかった。
疑心暗鬼が募って、彼と一緒にいるとお腹が空かなくなった。

一度きりのホテル
私「セックス嫌い?」
「好き“だった”」
私「そうなんだ、なんで?」
「これ言ったら、たぶんみなこさん、私のこと嫌いになっちゃうよ」
私「嫌いになんて、なれないよ、聞くよ」


5年付き合って3年同棲したっていう彼女の話をずいぶん生々しく聞いてしまった。映像的だった。

そして私も、合いの手や質問が上手すぎる。
言っていたことが全部本当だとは思えなかったし、ずいぶん彼の視点で脚色しているのだろうけれど、それでも、聞いて色々と想像してしまうぐらいには、トークがうまかった。彼は小説家になる素養がある気がする。


ほぼ最後までいってた子がいたんだよね
中国にいた頃から付き合ってて、僕が日本に来た時も彼女はついてきて、同棲していた。
あの時は、ずっとこの生活が続くと思ってた

でも、17の時から付き合ってたから、お互いが試行錯誤で、嫌なことも色々あったんだよね
それで日本に来てお互い大学に進んだ。
そしてあの子、日本人の大学生に惚れちゃったんだよね
ある時、夜になっても帰ってこなくて、電話しても繋がらなくって、やっと繋がって

「何してんの早く帰ってきなよ」
「…………」
「ホテルにいんの?」
「…………」

あくる朝の14時まで彼女は帰ってこなかった。
帰ってきたら彼女は首の周りにびっしり跡がついてて……別人のように見えた
それでも僕は彼女を手放したくなくて、頑張ったけどダメだった。

向こうは僕と別れたがってた
でも彼女には家を出て行くお金がない

最終的にどうしたと思う?

家に警察を呼んだんだよ。
「私の家に知らない男の人がいる、追い出して」ってね。

日本で住む時、外国人は必ず「在留カード」というものを持つ。
僕たちは同棲するってなった時に、彼女の親戚が日本に住んでるっていう理由で彼女の名義で家を借りたんだ。
だから、僕は「他所者」ってわけだった。

あの子の家を引き払った秋のある日、ベランダで一緒にタバコを吸った。
なんて未練がましいんだ。
クローゼットから、見覚えのない001とローションが出てきたのを覚えている。

1月、母国に帰って久しぶりに我を忘れて友人と遊んでいた。
そしたら、着信があった。
何度も見た覚えがある、07から始まる番号。

「なに?なんか用?」
「死にたい」
「今の彼氏?クズなの?なんか嫌なことされた?」
「……」
「AVに出ろって言われたの?」
「そんなわけないじゃない、バカ!!手術、したのよ」

彼女は、今の彼氏の子を宿してしまって1人、中絶をしたのだった。

なんでバカなんだろう、ざまあみろ、変な男にひっかかるから、ろくでなし。
そんなこと言えるわけなかった。
純粋に可哀想だと思った。

「その時から、そういう「男」が嫌いになっちゃったんだよね……」


私もこの話を聞いてから想像が止まらなくなってしまった。
元カノってどんな子だったんだろう。
聞いてる限り、わがまま放題だったんだろうな。
でもそれが許せるぐらいベタ惚れだったんだね。
黒髪ショートだったのかな。綺麗だったんだろうな。胸があったのかな。スタイルいいんだろうな。韓国系のファッションの子だったのかな。中国語での会話は、どんな感じだったのかな。家で何を食べてたのかな。どんな笑顔だったのかな。どんなものを贈りあってたのかな。どんなセックスしてたのかな……。どんな出会いだったんだろう。彼女は彼の何が好きだったんだろう。

そんな生々しい話を、ホテルの天井見つめられながら話されてしまって以来、そういう“被害妄想”が止まらなくなってしまった。
私に自信が無いからだ。
自信があったら違ったのだろうけど、どうしても暇な時に考えてしまった。いや、私に暇な時など無かったのだがふとした時に物思いに沈む癖ができてしまって、病んで、別れた。

そんな回想譚

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