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うちゅうの目。

世の中がいくら混乱していても、私の日常は相変わらず続いている。平和ボケした日本の、おだやか過ぎると話題の岡山の隅っこで暮らす私の界隈では、毎日加賀さんが「やべーわ」と呟きR−1を買いに行っては「腸から元気出していこう!」と変な気合いを入れているし、さっちゃんは恋もしてないのに(多分)「ドキドキするー!」と謎の動悸とほてりを訴える。やべーわ、さすが先輩たちは疲れの出し方も私とは年季が違う。

そんな平均年齢高めなヒバリ照ラスにも、ついにテスト帰りの高校生が立ち寄るようになった。かわいらしい女の子二人が「ひばり弁当だってー!」と駆け寄る姿にはぐっとくるものがある。女子高生ほどそぼろが似合う生き物はいないと思った。話をしてみると3年生で進路を考えている真っ最中なのか、二人が互いを見る目が優しくてどこか寂しげで、ああ!青春を謳歌しているのですね!と、えも言われぬ甘酸っぱい気持ちがよみがえり、私もとある日の体育祭の放課後を思い出した。

だけどそんなことも束の間で、やっぱりおばあちゃんの来店率はすさまじい。「私はもう古い人間だから…」とか「足が悪いから…」を枕詞に、ズケズケズケー!と言いたいことだけ言って颯爽に帰っていく姿はさすが大・大・先輩である。今日は、来店2回目のおばあちゃんよりひばり弁当の忌憚なきご意見を頂戴していたところ、見知らぬおばあちゃんが通りかかった瞬間、ズケズケ言ってたおばあちゃんが「美味しそうだわ〜」なんて大きな声で演技を始めて弁当売りを手伝ってくれた。すると見知らぬおばあちゃんも乗り気になって、一緒に私のひばり弁当をけなしまくって意気投合、そのまま二人で弁当を食べてテラスでおしゃべりを始めた。初めて会った二人なのに「私たち、吉本なのよ。」なんて、定番のギャグをかましてくれた。

そうして「20代が来んなあ。」と加賀さんとぼやいて午後の店番をして、私はまたお弁当を運ぶカートをカラカラ引いてサウダーヂな夜へ戻る。するとイッセイ店長が「よっ!」と偉そうに挨拶をする。少しの世間話をしていたら、休みの日はデートへ行くという。(書いちゃった)なーにー!私がいつもの日常を過ごしているうちに、人のイロコイはしっかりと前進している。

デートかあ…と思いながら、私は自転車に乗って家へ帰り、ごそごそしているうちに気づけば眠たくなって、明日を迎える。

世の中には自分の知らない瞬間がたくさんある。その瞬間はちゃんと自分で選んでいる、なんて実感はまるでなく、私の一週間は一体誰が準備しているのかわからない。私の1日なんてあっという間に終わって、すれ違うことさえできなかった瞬間がこの世界には無数に、そして今この瞬間でも生まれ続けている。どうせならデートみたいに甘い瞬間を一つでも用意してくれてたらいいのに。世知辛いな。ただ、ある場所に立ち続けるということは色んな瞬間に立ち合うことだなあって思った。明日も誰かのそんな時に立ち会って、なんでもない私の日々がドラマチックになればいいなあって相変わらず他力本願な私です。

2017年05月24日


「サウダーヂな夜」という変わったカフェバーで創刊された「週刊私自身」がいつの間にか私の代名詞。岡山でひっそりといつも自分のことばかり書いてます。