全員死ね

自分はなぜこんなに繊細なのか、あるいは激昂しやすいのか。コンサートの帰り道。人がごった返し、前も後ろも右も左も、どこを見ても人、人、人。手を伸ばせば届きそうなほど……の距離だったらどんなによかっただろう。手など伸ばそうものなら、何人もの人にぶつぶつと当たってしまうほどの距離感だ。それでもまだ体すべてが人とぶつかっているわけではない。おのおのがしっかり前を見て、人とぶつかることを避けようとする意思があるのなら、誰とも激しくはぶつからず、あるいは触れる程度のぶつかりにおさまっただろう。しかし、なんだやつらは。人が目の前にいることなどお構いなしに突撃してくる。なんだ、あれは。目が見えないのか。耳が聞こえないのか。それならしょうがない。あきらめもつく。だが、やつらは違う。目も見え、耳も聞こえるにもかかわらず、ちゅうちょなく人に突撃してくる。なんだ、あれは。混雑しているからといって、人に突撃しといいのか。傷害罪じゃないのか。全員捕まれ。逮捕されろ。隣の友達としゃべりながらどしどしぶつかってくるばばあも、人を押し退け進もうとするじじいも、全員死ね。明日死ね。

人と接触することが異常に嫌いな私には無理だった。地獄だった。しかし、真っ先に感じる感情は怒り。不快感でも悲しみでもなく、怒り。怒りは爆発するから真っ先に感じるのだ。その怒りを真っ先に感じてしまう自分に悲しくなる。私はどうしてこんな人間なのだろう。他の人はこんなこときっと気にしていない。だから、平気で人を押し退けられるのだ。そんなやつらがいる世の中で、こんな私は生きてきた。生きていかないといけない。目の前に見えるのは絶望ではないだろうか。明るい未来が見えるわけがない。どうして。どうして、私はこんな人間に生まれてしまったのだ。のほほんと毎日を穏やかに過ごし、のほほんと一生を終えていく。そんな人生、あこがれる。きっと、ものすごくつまらないだろうけど、あこがれる。みんなと同じ、ふつうになってみたかった。ふつうの人間。ふつうに人を傷つける人間。ふつうに自分優先で生きていく人間。ふつうになんにも感じない人間。ふつうに……。そんなふつう人間に私はなりたかったのだ。なりたくないけど。本当はなりたくないけど、なりたかった。

こんな自分に誇りを持てるわけがない。こんな自分だからな、自分は。ふつうでなくても、自分に誇りを持っていて、こんな自分でも愛せる自分でありたかった。これからなれるだろうか。自分を愛せるだろうか。こんな自分を。こんな自分を愛せるのか、私は。君は愛してくれる? こんな私を。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?