引き継げない!

こんばんは。年の瀬ですね。
いろいろ各地に行ってワークショップをしたり、長年やってきたプロジェクトの締めくくりをひとつひとつ行っています。2021年はそういう年だなと。たまたまそういう年になったのもあるし、継続的な文化事業の区切りにあたっている年でもあるし、足立区の東京藝大や福島いわき市の復興団地でやってきた音楽プロジェクトも、今年がっつり関わった世田谷区ハーモニーでの福祉とアートのプロジェクトも、コンサートの演出CDのリリース(来年3月予定)、映像作品の上映など、様々な形でアウトプット。このコロナ禍“でも”できるというより、コロナ禍“だからこそ”できる表現で、その土地に住む住民、障害のある人もない人も混ざり合っていろいろやってきて、また執筆を通じて言葉にしながら先に進めたらと思っています。

さて、いろんなお仕事をさせていただいている中で、僕にとってとりわけコミットメントの度合いが強いのが、品川区立障害児者総合支援施設ぐるっぽという場所でのコミュニティアートディレクターとしての業務。2019年4月の事業スタートから関わって、かれこれ丸3年になります。最初の二年間は指定管理者のひとつである、社会福祉法人愛成会と雇用関係(特別任用の非常勤職)を結んで、今年は他の仕事と同様にフリーランスでの委託契約で関わってきました。しかし、愛成会を含めた3法人での指定管理事業が次期公募において不採択となり、2022年10月から別の法人さんが採択(リンク先のP41「第29号議案 指定管理者の指定について
」参照)されたんですね。

そこで、大事なのは引き継ぎです。2022年4月からその法人さんからスタッフが来て、愛成会のスタッフと共に働きながら引き継ぎをしていく、ということになっています。で、ならばそれまでに「何をどのように引き継ぐのか」ということを、僕の感覚ではその4月までに、つまり今年度内に(もっと言えば年内に)ちゃんと協議して課題点を洗い出して、引き継ぐ方(われわれ)も引き継がれる方(その法人さん)もお互い方向性を確認しながら進んでいってこそ、4月からの実務レベルでの引き継ぎが可能になるのでは?って思う。そして、はっきり言って、いまの愛成会のスタッフが果たして4月以降もどこまで残るのかという問題がシビアにある。いずれにせよ10月には次期法人に完全に入れ替わるのだから、春転職の可能性を考えればタイミング的にこの3末で退職する人も一定数出るだろう。ちなみに、僕もそもそも請け負い契約ではあるが現場にいまの頻度や立場で関わるのは3月末迄だ。そういうこともあり、できるだけよい引き継ぎをしたいとこの数ヶ月いろいろ提案してきたのだけど、非常に難航している。

簡単に言えば、全然取り合ってくれない。なのに、先方は「愛成会さんがやってきたことをそのまま引き継ぎます」と言う。愛成会の支援(サービス)の特徴のひとつとして「表現(アート)活動」を重視している点がある。それは利用者さん本人やご家族からの評判もよく(口頭でのやりとりやアンケートなどからもわかるし、親御さんたちの現法人での事業維持の陳情書からもわかる)、また協力してくださっている地域の方々(商店主やまちづくり団体など)からも多大に応援いただいている。だからその次期法人さんも「そのまま引き継ぎたい」と考えてはいるようだ。しかし、はっきり言うが、「そのまま」なんて引き継げるわけがない。

僕は一応、「表現によるケア/コミュニティづくり」の専門家です。これまで10年以上にわたっていろんな現場で実践してきたし、研究もしてきた。そして、僕が担当している福祉サービス「地域活動支援センターしゅく」のスタッフは、もともと文化事業を軸に働いてきたスタッフが多く、そういった文化の専門性も持ち合わせているチームだ。そのチームが、多機能型事業(生活介護・就労継続支援B型)と密に連携しながらやっているのが、表現プログラムであり、福祉の専門的な視点はもちろんのこと、こうやって異分野の視点も踏まえて、多角的に利用者さんの特性を見つめながら支援の方向性を考えることを愛成会品川チームはこの現場でやってきた。でも、次期法人さんが一言目に言うのは「講師との顔つなぎをしてほしい(名刺交換)」。講師というのは、僕らの地域活動支援センターチームが5組(ダンス、紙芝居、DIY、園芸、写真)のクリエイターに月一回のワークショップを依頼しているのだけど、そもそもその方々のことは便宜上「講師」と呼ぶときはあるけど、基本は利用者さんの個性をよりいい形で社会化する「コラボレーター(外部協働者)」という位置付けだ。まぁその言葉の問題はいいとして、「顔つなぎ」したから引き継ぎが完了するわけでなく、まず現場でやっていることを今の時期からしっかり見学に来ていただき、僕らが何をここでやってきたかを見たうえで、コラボレーターとしっかり話をしてほしいと思っている。それが叶っていない。確かに見学は3回あった。ダンスと、写真と、僕がファシリテーターをしている音楽と。でも最後まで見ずに中座する上に、僕のワークショップのときに見学者であるその法人の事業担当者が最初に言った感想は「利用者さん、みなさん楽しそうでいいですね」と。いやはや、ありがとうございます。でも、それだけですか? さらに次に聞いてきた質問は「この楽器は、スタッフの私物ですか?」と。いやいや、ほとんどこのサービスのために揃えたし、もちろんそれは皆さんがこれから活用していくことになるんですよとお答えしたら、「そうなんですね」と。いや、どのポイント聞いてるんだよって話ですよ、それは。

ちなみにこれは10月時点のことで。まだ見学に来てくれるだけ希望があるかなと思っていたけど、そもそも事業担当者が3名ほど来られるのだが基本的に理事の方や事務の方で、「現場の方」がお越しにならないんですよね。コラボレーターともこの間、今後の引き継ぎに関してたびたび相談しているのですが、一番の問題は現場でちゃんとコラボレーターと定期的にやりとりができて、利用者さんの様子や最近こんな変化がありました的な情報などを丁寧に共有できる担当スタッフが先方に就くのかどうか、これによって仕事を継続的にうけられるかどうか、という話。僕は逆の立場、つまり現場に月1回などワークショップに呼ばれる側としての方がむしろ経験値が高いので、その意見にはまったく同意します。外部の人間がスタッフから「はい、どうぞワークショップやってください」と丸投げされるのは、やる側も辛いし、そもそもその環境が丁寧でないと一番不利益をうけるのは利用者さんだ。

10月末に、ようやく、愛成会と次期法人さんと品川区障害福祉課との3者の間で地域活動支援センターを軸としたプログラムの引き継ぎ会議が設けられ、サービスの現場責任者として出席した。こちらからのお願いは2点。あくまで先方が「そのまま引き継ぎたい」と言ってくれているからである要望だ。一点目は、前述した通り。「現場担当スタッフ」を早いところ決めていただき、その方とコラボレーターを交えたミーティングを年度内に行わせてほしいということ。もう一点はやや込み入った話になるが、様々な表現プログラムは、地域活動支援センターが企画運営しているが、多機能型サービスの利用者も参加できるような工夫を施してきたので、そういったサービスの柔軟な運用のあり方についての希望を聞きたいという点。二点目は「どの部分をどこまで引き継ぐか」という意味では、4月に入る前にやはり方向性は知っておきたいだと思っているのでうかがった。最終的に決められるのは僕らではなく先方。で、一応こちらの要望の意味は理解していただき「検討します」とのこと。よかった、これでちょっとは前に進むかなと思った。

11月末、会議から一ヶ月経過。先方から何の音沙汰もないので、嫌な予感がして、うちの管理者(施設長)を通じて区経由で確認したところ、進展なし。というか、特に何か答えるというような心持ちでいないのでは?というニュアンスの話になって、「ボールを渡したつもりが、向こうはパスされているつもりすらなかった」的な話に愕然とする。これは、もう対話自体、成立してないじゃないかと。だって「検討します」って話だったよね。

12月上旬、文書化しないと伝わらないかと思って、前述した2点の要望を軸に、より良き引き継ぎをすべく「とりあえず現時点でわかっている回答をください」という叩き台を書く。この間に、3末でコラボレーターを辞退する申し出も5組中2組。もちろん残念だが、僕らスタッフもどのように引き継がれるかという状況もわかっていないし、僕個人的なことで言えばいまのように現場に関われないのでもう僕の立場からも何も言えない。はっきり言ってもうこの時点で利用者さんに不利益が出ている。感情的には大変申し訳ない気持ちだが、冷静にそう捉える。だから「講師の方のうち、辞退者も出てきているので、早めに現場担当者との顔合わせをするなどぜひ検討してほしい」とのニュアンスも含めて書いた。次期法人さんには年内の回答期限をつけた。また流されるかもしれないので。そしてそれを管理者から区に提出。

いくつかのパターンが考えられた。「次期法人さんが何か答えてくれるパターン」、「次期法人さんが文書を読んだけどスルーするパターン」、あと一番避けたいのが「そもそも文書自体が区の障害福祉課のデスクで止まるパターン」。三つ目だった。つい先日、そのことが判明。区の回答はざっくり「引き継ぎ時期はあくまで来年の4月からだからそのときにまた」ということ。つまり今の段階から次期法人にこのことを伝えても、回答義務もないし(そんなことわかっているけど)的なことなんだろうと。いや、そういうことじゃないんだよ、その超お役所的な理由はわかるけど、引き継ぎがそういう役所的なモードでなされないように、かつ「そのまま引き継ぎたい」と言ってくれているからこそ「引き継ぎ前の引き継ぎ」をしようぜ、それが利用者さんの不利益をできるだけ軽減することになるでしょって話をしてるのに、なんなんでしょうねこれは。

邪推だが、区としたら多分、この文書が存在していること自体、具合が悪いのだろうなと思います。だってこっちはちゃんと引き継ごうとしているんだから。これが次期法人さんになってまったく支援の方向性(や具体的なプログラムのあり方)が変わってしまったとして、利用者さんやご家族からクレームが来たとしてら、「愛成会がちゃんと引き継がなかったからだ」なんて言われたらはっきり言ってほんと辛いですよ。でも、こういう僕が書いたようなやりとりがなかったことにされるのなら、まぁここに書きますよ(そのために雇用関係ほどいてフリーランスとして契約してるのもあるし)

何歩か譲って「これが指定管理という制度上の問題なんだよ」という言い方もあるかもしれないけど、制度に魂を込めるのは人だから。年末までこんな投稿を……。でも大事。でも明るいことも書きたい!


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