比企能員の変_02 千葉純胤の時空移動
成胤は千葉館の奥にいた。
そこにはもう一人いた。
千葉一族の子孫である純胤だ。
「またまたお呼びいただき恐縮です」
いつもとおり純胤は微笑んでいた。純胤はいまはいつと尋ね、成胤は建仁三年の秋と答えた。
「なるほど。では比企家と北条家の顛末は」
「ついたよ。まさかこんなことになるとはな」
純胤はやはりと声を漏らした。純胤は成胤へ事の顛末を聞かせてほしいと問いかけた。
「そうだな。どこから話すか。阿野全成殿が補足された。これが始まりだった」
純胤は「あの源義経の同母兄の?」と問うたので左様と成胤は返した。
「阿野殿は足らぬ咎を理由に謀反人として補足され配流先で殺された。一幡様を支える有力な御家人を削りにいった。北条家も謀反の連座に遭うところであったが辛うじて避けれた」
「本来ならこの時点で頼家様と比企家の天下だ。しかしそうはならなかった」
成胤は純胤に分かり切ってることだろうと目配せした。
「突然の頼家様の危篤だ。これには驚いたよ」
つかさず純胤は何者かが毒を盛ったとかはないのか聞くも、成胤は周りを比企家で守られている頼家様にそのような事は出来ようもないだろうなと返した。成胤は話を続けた。
「ここから驚愕の連続だ。頼家様が危篤で或る以上、だれが継ぐのかの話となる。順当であれば一幡様。そうなるはずだった」
「しかし関東二十八国の地頭職並びに守護職を一幡様、関西三十八国の地頭職を千幡様という御二人で割譲という措置となった」
「どうも北条時政殿が進めたらしい。これには比企能員殿も憤った。かような事態に北条殿は『薬師如来の供養』と称して北条邸へ比企殿を呼び寄せた」
「比企殿は北条殿の誘いに答え、軽装で共の者も幾人かしか連れずに北条邸へ向かった。そこで無残に殺されてしまった」
「共の者がほうほうのていで比企邸に戻り、急ぎ比企一族は一幡様のいる小御所に立て籠もった」
「そうしたらこれを謀反とし、三浦義村殿や和田義盛殿など多数の御家人が小御所へ攻め入り、一幡様もろとも比企一族を抹殺してしまった」
「危篤であった頼家様は全快まではいかないが辛うじて死地から脱したが、もうその時には一幡様も比企家もこの世になく、千幡様が新しい征夷大将軍に就かれた」
「そして頼家様自身は政子様の命により修善寺へと幽閉された」
成胤は純胤へ一連の急展開な事象を語った。純胤は成胤へお礼を述べつつ返した。
「確かに摩訶不思議なことがこうもてんこ盛りに次から次へと」
「いってしまえば鮮やかな北条時政による大逆転劇です。北条時政は比企能員を誘い出し、比企能員はまんまと殺さました。でもここに謎がある」
純胤は目を輝かせて言い放った。