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#40 白河の清きに

京都大学の霊長類研究所が事実上の解体だという。僕が研究者を目指すきっかけとなった場所でもあるので、残念な気持ちが強い。

その原因の一つが研究費の不正利用にある。

様々な議論があろう。が、今回は現役の研究者として、僕がついつい研究費を不正利用したくなる瞬間を紹介したい。

その1、新しい研究を始めたいとき。

研究費を獲得するコツとしてよく聞かされるのは、あと一息で研究が終わる段階で申請するというものだ。お金を出す側の心理からしたら成果を出してもらう必要があるので、確実な所に託したいのだろう。となると定石になるのが、今の研究費で次の研究費を取るための実験を進め、正のフィードバックを起こす手段だ。これ自体は悪ではないが、この方法は同じ研究を続ける場合にしか使えない。すなわち、まったく別の研究を始める場合にはこの手が使えない。そんな時、今の研究費を関係ない予算のついてない研究に使ってしまいたい気持ちが出てくる。これは不正だ。

その2、書類を書くのが面倒臭い。

それは、怠慢だ!とお怒りになる前に状況を聞いて欲しい。大抵の研究費の申請は10月くらいだ。そこで次年度以降3年分くらいの予算案を作らなくてはならず、ざっくりとした金額を書かざるを得ないこともある。特に、今回問題になった大規模な工事などは3年後に使う細かい数字をはじき出すのが困難だろう。その結果、適当な数字をまずは入れて後で帳尻を合わせることになる。本来は変更届を出せばよいだけだが、書類が増えるほど研究とは関係のない仕事をすることになるので、できれば書きたくないというのが本音だ。

この手の問題で私腹を肥やしている研究者はほとんどいない(体感)ことを付け加えたい。だから赦せというつもりもなく、不正は不正なのだが、「解る解る」という気持ちが先に出てきてしまうことはよくあるのだ…。

(2021/10/20)

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