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新体操ルール解説(5) 禁止技について

こんにちは!
こちらは7月29日17時です!

先日、ツイッターで告知をさせていただきましたが、本日は男子新体操における禁止技についてまとめていきます。

まずは技紹介から!

「ダイビングきりもみ」
ロンダートからの捻り飛び込み前転(ダイビング)に1回捻りを加えたものです。

「タイム」(ダイビング前宙転)
捻り飛び前方宙返り(ダイビング前宙)に縦回転を半分プラスして、手で支持をしながら背中で着地する技です。
縦回転を1回半回し、手で支持しながら背中で着地する技のことを、選手間の会話では「転」(てん)と呼びます。
本来は「宙返り転」という名称だったと思います。

「ハーフ転」
伸身の宙返りの半分捻りから転をとる技です。
ダイナミックでとっても綺麗。
ちなみに僕は大学時代はこれしか演技に入っていませんでした。
転の中では一番得意です。

「トーマス」(抱え込み1回半捻り転)
抱え込み1回半捻りから転をとる技です。
この技の名前に関しては器械体操からきているので、全世界共通です。
あの内村航平選手も床の演技に取り入れていた技です。

「伸身トーマス」
先ほどのトーマスを伸身(体を伸ばしきった状態)で行ったものです。
この技は見かけることが少ないレアな技でしたが、生でみると迫力がすごいです。

僕が持っている映像だとこのくらいになってしまいますが、このほかにも「リゲッキュウ」と呼ばれる側方宙返り転も僕より前の世代の新体操ではよく使われていました。

禁止になった背景

器械体操で転系統の技が禁止になったことを受けて、男子新体操でも2018年度よりルール改正が行われ、禁止になりました。これらの技が禁止になった背景には、やはり怪我の危険性が一番にあります。

頭から着地を取りに行く技なので、一歩間違えば脳震盪や頸椎損傷など、重大な後遺症が残る怪我を負うリスクが高い技です。(具体的には、下半身不随などにつながります)

我々の競技は、常にミスによる減点と戦う競技なので、当然タンブリングでの減点も0が理想です。
転における減点箇所は着地なのですが、この着地がまた難しい。
体を回しすぎて、足が地面に打ち付けられて少し浮いただけも減点。
この状態を「打たれる」と言います。
(大げさな例ですが、先ほどの伸身トーマスの動画のような感じです)
(ちなみにハーフ転の動画の着地も減点)

しかしながら、減点を恐れて体を回さなさすぎると、今度は背中ではなく頭から着地してしまいます。
この状態を「刺さる」と言います。

打たれる分にはまだいいのですが、刺さることが大きな問題。
タンブリングにおける体への負荷は、体重の何10倍と言われていますが、それプラス回転の勢いと、落下するスピード。
それが一気に細い首にかかるわけです。
実際、練習していて、刺さってしばらく立ち上がれないような人も見たことありますし、救急車で搬送された選手もいます。
(幸い、僕の周りでは大事に至る人はいませんでしたが)

本当に極めた選手であれば、完璧なコントロールで音も立たないような着地ができますが、練習の過程で刺さった経験がない選手はいないと思います。
もちろん僕も何度も経験しています。

そのくらい、誰もが経験することにも関わらず、怪我のリスクが高い。
ということで徐々に徐々に廃止に向かっていき、完全に禁止になりました。
(確か2002年までは、演技中に転を何度入れてもよかったと思います。2003年以降は転は演技の中で1度のみという制限がつき、2018年から禁止になりました)

憧れの技だった

転が許可されていた頃、男子新体操のルールでは、転を演技に取り入れていいのは大学生、社会人のみでした。
なので、中学生以下のジュニア選手、高体連(高校体育連盟)ルールの高校生はもともと禁止だったわけです。
転でなくとも、体を2回転回す技(2回宙返りやムーンサルトなど)も禁止です。
これは今も昔も変わりません。
(全日本選手権や、団体選手権など、一部許可されている大会もあります)

なので、転という技は多くの選手の憧れだったのです。
転がしたいから大学で新体操を続けることを決めた選手もいるほど…。
僕も憧れている一人だったので、禁止されてしまうのはすごく寂しく感じていました。

また、そのルール改正の影響を大きく受け、困ったのは大学生でした。
転が入っているだけで、「ザ・大学生の演技」になり、中高生の選手たちの演技と差別化ができていたのですが、転がなくなったことによって、高校生と差をつける手段がなくなってしまったのです。
ちなみに、ルール改正が行われた2018年度は、僕が大学4年生の年。
大学で通用するために高校生のうちから必死で磨いてきた技が使えなくなってしまい、僕も非常に苦労しました…。

最近では2回宙返りや、捻りを取り入れるチームが多くなってきていますね。

きりもみは完全に禁止ではない?

そうなんです。
飛び込み前転から1回捻りを行う「きりもみ」は完全に禁止ではないのです。

これは、禁止になっている転の定義が関係しています。
「1回半の回転を伴う転が禁止」

タイム、トーマス、ハーフ転などは、縦回転が1回半回っているので禁止。
ロンダートから入る後方系のきりもみ(一番最初の動画参照)は、【きりもみの1回捻り】+【ロンダート→飛び込み前転までの半分捻り】が合わさっているので、合計1回半捻りとなり、禁止技になります。

では、許可されているきりもみとは?

例:ハーフ→きりもみ
(失敗している動画しかありませんでした…すみません)
この場合、きりもみの回転数は飛び込み前転中の1回捻りのみなので、ルール上問題ありません。
このように、連続技として使用するきりもみ(前方系のきりもみ)は1回半の回転を伴わないので禁止ではありません。

僕の大好きなきりもみが生き残る道が残っていて本当によかったです😊
この技、ちゃんとできればどの技よりも簡単でカッコよく省エネにできるお得技なんです笑

まとめ

久しぶりにこんなに長く書きましたが、いかがでしたでしょうか?
転がなくなるのは寂しいことでしたが、ここ最近は、より速い、より美しいタンブリングが見られるようになってきており、器械体操競技との差別化もできてきているのかなと個人的には感じています!

どんどん進化する新体操、これからも楽しみですね!
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ではまた次回!

井藤 亘(いとう わたる)
・シルクドゥソレイユアーティスト(Cirque du Soleil)

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個人HP:男子新体操/井藤 亘Wataru Ito

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