[3] 夢はあるけど、華やかな業務ばかりじゃないってこと - F1エンジニアについて

F1エンジニアに憧れる人へ。実際に目指してきた経験を元に、F1に憧れる人へ連載を始めました。筆者は:日本の高校→イギリスの大学→英F1チームインターン(2017-18)等してました。
・収録マガジン:「F1で働く
・前回記事「[2] F1エンジニアにも種類がたくさんある
・毎週日曜更新予定!

こんにちは、わたぽんです。

F1エンジニアについて書く時に、どうしても楽しい一辺倒で描いてしまうのが悪い癖です。

二週間に一度、世界のどこかでレースがある。そこで勝つために、物凄いスピードでマシンの開発が進められるF1。世界に二台しかない自分達のF1マシン。お金を湯水のように使ってでも、世界最速の物を作り上げる…。

ほら、また書いてしまった。F1エンジニアについて紹介するってなると、こうなっちゃう。

いや、F1で働くってほんまに楽しいんです。上記のことも、全て事実を書いたまで。でも、人によってはそうじゃないってこともちゃんと伝えないとな、と。

なので今週は、F1エンジニアとして働く時に、もしかしたら華やかじゃないかもよって部分を書いておきます。これが自分の憧れる世界なのかな~って、自分の想像とすり合わせてもらえたらなって思います。


地味で細かい作業の積み重ね

F1マシンの開発は、華やかそうに見えます。が、実際は地味で細かい作業の積み重ね。

ちょっと修正して、シミュレーションしてみて、「あれれ、ちょっと違うな」と思ってまた修正して…。そんなことを、毎日ひたすら繰り返していく。

F1に憧れる人の中には、F1は一般車開発やその他エンジニアリング業務と違い、華やかな仕事ができると思う方もいるかもしれません。でもF1に行けば華やかな開発が出来るかというと、そういうわけじゃない。ただ基礎を積み重ねていく。

たしかに、レースエンジニアになれば、華やかにはなるかもしれません。無線でドライバーとやり取りし、レース中の戦略を考え、伝えていく。でもそれは仕事の一端で、裏で行われているのは基礎の積み重ね。ドライバーのフィードバックや走行データをこれでもかと細かく分析し、それを元に最善の方策を考え抜く。

それに、誰にもできる仕事ではない。F1レースエンジニアの職に就くまでに、どれだけの基礎の積み重ねが必要か。彼らは大学院で工学や数学系のMasterやPhDを取得したような人達。それについて、本気で考えを巡らせたことはありますか? 

僕の学んでいるエアロだって、突飛な発想ばかりで開発していたわけじゃありません。設計を定量的に分析し、改良を積み重ねていく。だからその手のことが好きでないと、簡単に心が折れちゃう。

F1チームに入って初めてのパーツ開発に関わった時に言われました。

「今やってること、当たり前に見えるだろ? 小さくて些細な改善に見えるかもしれない。でも信じてほしい。小さな当たり前の改善の積み重ねが、でかい結果になるんだ。」


ストレスとの戦い

ただ当たり前を積み重ねていくだけなら、他の業界と同じかもしれません。でも、F1は二週間ごとにレースがあります。二週間ごとに、結果が出ます。試されます。自分達は速くなったのか? それともライバルチームに後れを取っているのか?

開発スピードが早い。だから、開発にかかるストレスも小さいものではありません。車をなんとしてでも速くしなきゃいけないのに、時間は限られるときたのです。

だから、休まる暇なんてあんまりないです。強いて言うなら、設計職の場合、新しいパーツを出した直後でしょうか。それでも次の日から、また新しいパーツやレースでの性能チェックのために、せかせかと動きます。

レースでは結果が出て、自分達の力が具体的な数字となって現れます。F1チームでインターンしてた時は、やっぱり気になりました。他チームとのタイム差や、新しいパーツを投入した時の上り幅。自分が担当してたパーツが投入された時なんて、「いやー、頼むで」って、ちょっとビクビクしながら見てた。

F1はスタートを待ってくれない。刻一刻と迫る期限に対し、如何に最善の結果を出せるか。そこにかかるストレスは大きいです。


長い就労時間

また、就労時間も決して短くないことも、断っておかなきゃいけません。

時間が限られてるのにすることは膨大にあるんだから、そりゃ定時に帰ってたら速い車は作れません。あるいは、君が定時に帰ってる間に、ライバルチームは+2時間残って開発してるとしたら? (単純に就労時間が増えれば速くなるってものでもないんですけど。)

例えば某F1チームのエアロダイナミシストは、毎日12時間拘束されてると話してました。(その代わりランチタイムにスキーできるけどって。)

まあ、日本における金融やコンサルという、いわゆる激務と呼ばれる仕事に比べたら、全然余裕なのかもしれませんけどね。笑 また、チームや職種、時期によっても違ってくるので、12時間拘束が当たり前かと聞かれれば、否定しますが…。


多忙の割に給料は見合ってないかも

忙しい。
それでも、給料が高ければいいじゃないか。

そう考えても、F1は決して給料が高い世界ではありません。(というか、給料のために仕事をしているという感覚がないのですが。)

ハイレベルでストレスレベルも高いというのに、別業界の同職種に比べると給料では劣ることが多い。
勘違いを防ぐために付け加えると、一般的に見たらやはり高いとは言えます。でも世界最高峰のレースで高いレベルの技術を取り扱ってる割には低い。そういうことです。

確かに一部のエンジニアの給料が高いことはあります。トップレベルのエンジニア、あるいは世界中を転戦する職にあるエンジニア等にも、特別手当がつきます。それを考えれば、給料は悪くないのかもしれない。

でもオフィスで開発等を進める他の多くのエンジニアは、別に給料高くないんだよってことをお忘れなく。

中の人が言ってました。

「高い給料もらって退屈な普通車開発するか、給料は低いかもしれないけどエキサイティングなF1開発をするか、どっちが良い?」

(まっ、給料上げたい人は他のF1チームにどんどん〇職しちゃうんですけどね。笑)


それでもエンジニアは主人公ではない

それでもそれでも、やりがいを感じられれば良いはず。それは正しいです。だから、自分がどこにやりがいを感じるのかは、しっかり分かっておいた方が良い。

もし自分のやりがいが、「自分が立役者として」たたえられることであれば、F1は必ずしもベストな場所とは言えません。だって、F1エンジニアというのは、F1において主人公ではないからです。

[2] F1エンジニアにも種類がたくさんある』でも書いた通り、F1の主人公はいつだってドライバー。F1エンジニアというのは、その裏方。それが基本であることを、忘れてはいけません。

また、最近のF1開発は、一人のスターエンジニアに頼る開発ではなくなってきています。これは他業界でも同じ流れですね。かつて航空機のボーイング社は、故ジョー・サッター氏主導でBOEING 747をデザインしました。しかし現在世界の空を飛んでいるBOEING 777や787は、合議制の元に決められた設計。一人の天才エンジニア・デザイナーに頼るのではなく、複数の優秀なエンジニアのアイデアを持ち寄り、作る。それが最近の工学系でのトレンド。

F1ではレッドブルが、エイドリアン・ニューウェイ氏を筆頭に開発を進めているにはいるけれど、実際、ワールドチャンピオンに近いのはメルセデスやフェラーリ。(とはいえ、合議制で有名なマクラーレンはご存じの状態なんですけど…。)

誰もが羨むスターエンジニア目指して頑張る…これは現在のレースカー開発においては危ない賭けかもしれません。


チーム解散の可能性

もう一つ付け加えておくとすれば、チームがなくなる可能性について。

2019年現在、10チームあるF1。
しかし数年前にはもう一つ、いや二つ、いや三つか…? もっとチームがあったことを考えると、働いてるF1チームがなくなってしまう可能性だって、他業界に比べたら高いのかも。安定した職ってわけじゃありません。

「F1チームからオファーもらったのに、潰れた」って話も複数聞いたことがあります。考えたってしょうがない部分もあるんですけどね。



F1を目指す人へのまとめTips

今回は、

・F1は地味で細かい作業の積み重ね
・ストレスとの戦い
・多忙の割に給料は見合ってないかも
・それでもエンジニアは主人公ではない
・チーム解散の可能性

について書きました。ようは、F1エンジニアとして働くにあたって、必ずしも待遇や環境は、全ての人にとってベストではないということです。

僕としては「全て華やかでキラキラしてるわけじゃないよ」ということを伝えたかったのですが、どうかな、論調に気分悪くされてたら、ごめんなさい。


次回は、じゃあなぜその中でもF1を目指そうと思うのか? その点についてしっかりと、深く深く一緒に考えていけたらなと思います。

お楽しみに!


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