舞台付箋 Studio Life『トーマの心臓』2022

舞台観劇仲間の先輩に誘われて昨年の『ヴェニスに死す』以来のスタジオライフ公演を観劇してきました。9/19、Cool team観劇。
本日9/25、大千秋楽の終演、おめでとうございます。

■公演概要

原作:萩尾望都『トーマの心臓』(小学館文庫刊)
脚本・演出:倉田淳

公演期間
2022年9月15日(木)〜9月25日(日)
シアターサンモール
http://theatersunmall.server-shared.com/
・グッズ
劇場販売のみ。舞台写真販売追加あり。

・チケット
一般:¥8,500
club LIFE会員:¥8,200
club LIFE会員優先予約:¥8,000
イブニングシート:¥5,000
(9/15-22の夜公演・席数限定・後方列限定・当日引換)
学生:¥3,000
高校生以下:¥2,500
(各税込 前売・当日共 全席指定席※)

■出演

Legend(レジェンド)
ユーリ:山本芳樹
オスカー:笠原浩夫
エーリク:松本慎也
アンテ:宇佐見輝
レドヴィ:青木隆敏
バッカス:船戸慎士
サイフリート:曽世海司
ヘルベルト:関戸博一
リーベ:前木健太郎
イグー:牛島祥太
ブッシュ:楢原秀佳
シェリー:伊藤清之
エリザ:緒方和也
シュヴァルツ:緒方和也
ヴェルナー:楢原秀佳
アデール:大村浩司
ミュラー校長:藤原啓児

ユーリ:青木隆敏
オスカー:曽世海司
エーリク:関戸博一
アンテ:伊藤清之
レドヴィ:山本芳樹
バッカス:緒方和也
サイフリート:笠原浩夫
ヘルベルト:松本慎也
リーベ:前木健太郎
イグー:牛島祥太
ブッシュ:楢原秀佳
シェリー:宇佐見輝
エリザ:大村浩司
シュヴァルツ:船戸慎士
ヴェルナー:楢原秀佳
アデール:大村浩司
ミュラー校長:藤原啓児

■作品概要

冬の終わりのその朝、1人の少年が死んだ。トーマ・ヴェルナー。そして、ユーリに残された1通の手紙。「これがぼくの愛、これがぼくの心臓の音」。信仰の暗い淵でもがくユーリ、父とユーリへの想いを秘めるオスカー、トーマに生き写しの転入生エーリク……。透明な季節を過ごすギムナジウムの少年たちに投げかけられた愛と試練と恩籠。今もなお光彩を放ち続ける萩尾望都初期の大傑作。

https://www.shogakukan.co.jp/books/09191013

日本の漫画家、萩尾望都先生による1974年に連載された漫画作品が原作。ドイツのギムナジウムという寮付きの高等中学の学園内という環境で、一人の少年の死から始まる、少年達が抱く複雑な感情のやりとりと衝突と、愛とはどんなものなのか、を描く物語。……と頑張ってまとめてみたものの、一言では表現しきれない漫画作品です。ひとを愛する、ということはどういうことなのだろうかと自分の内側に問いかけてくるもの。是非ともコミック文庫あたりを手にとって読んで欲しい。
この『トーマの心臓』はStudio Lifeが1996年に初めて舞台化して以来、何度も再演がされている。wikipediaによると今回は11回目の公演に当たる模様。

ABOUT
●「トーマの心臓」上演によせて
倉田 淳
1974年に発表され、今尚、読み継がれ、愛され続けている萩尾望都作品「トーマの心臓」。
劇団スタジオライフは1996年に初舞台化させていただいてから繰り返し上演を重ねて参りました。稽古の度毎に新しい発見があり、上演の度毎に更なる深淵へ導かれる思いです。そして真摯に作品と向き合うことの大切さを教えてくれます。最早、「トーマの心臓」は劇団スタジオライフのバイブルと言っても過言ではないと思います。

ドイツのギムナジウム、シュロッタ―ベッツ学院とその寄宿舎を舞台に繰り広げられる少年たちの物語。瑞々しい感受性と痛々しい程の純粋さが、図書室の一隅で、礼拝堂の片隅で、寄宿舎の高窓の下で交錯してゆきます。黒髪の優等生ユーリ、複雑な家庭環境を持つオスカー、美しい母への愛が総てのエーリク、彼らは出会い、傷付き、許し、次なる未来への扉を開いてゆきます。10回目の上演となる今秋、この美しく深い物語を大切に丁寧に舞台の上に展開させていただきたく思っています。

●「スタジオライフ」という宝物
2022年 7月 1日 萩尾望都
「スタジオライフ」が再び「トーマの心臓」を上演すると聞きました。1996年の初演は見ていませんが1997年の再演からは欠かさず見てきました。公演ごとに舞台に変化があり役者が成長していく姿を見てきました。一歩また一歩と演出家の倉田淳がその舞台を大切に大切に育てていく様が感じられました。忍耐と愛。期待と愛。倉田淳の創作が美しいものへ向かって結実していく過程を見てきました。

河内喜一朗選曲の音楽が舞台に流れ出すと、一気に「トーマ」のギムナジウムに引き込まれます。たくさんの役者が思い浮かびます。初演の頃エーリクを演じてくれた児玉信夫さん、深山洋貴さん、目の大きな及川健さん。曽世海司さんは公演ごとに色々な役を演じていましたが私は包容力のあるバッカス役が忘れられません。山﨑康一さんのユリスモールは立った足の角度まで漫画そっくりだったと友人が言っていました。山本芳樹さんのユリスモールは本を抱きしめて止まらない涙を流していました。細い笠原浩夫さんのビジュアルは本当にオスカーがいたのかと思わせるほどでした。鞭を振るうサイフリート役の澤圭一さんは色っぽく、なのに場面転換の時は図書室の本棚を動かして裏方をやっていました。レドヴィ役の石飛幸治さん、林勇輔さんが、トーマの思い出を語るとしみじみとしました。河内喜一朗さんがトーマの父親役で舞台の上の笑顔を思い出します。
シドを演じた楢原秀佳さん、ミュラー校長を演じた藤原啓児さん。学園の生徒たちやユリスモールの家族。「トーマの心臓」の番外編「訪問者」であの背の高い岩﨑大さんがチビのオスカーを演じました。グスタフを演じた甲斐政彦さんの不思議な色気も忘れられません。青木隆敏さん、関戸博一さん、奥田努さん、松本慎也さん、多くのシーンが浮かびます。倉本徹さん。どのシーンも、大切な宝物です。全ての役者さんに、感謝いたします。

倉田さん、いつも心に残る舞台に感動しています。終演後の打ち上げでいつも、ありがとう、お疲れ様と言っていますが、言葉に出す以上に感謝しています。「スタジオライフ」に出会えたことは私の大きな喜びですし、舞台に関わるスタッフや役者さんたちの熱意が、誠実さが、毎日の励みになっています。
9月から上演される「トーマの心臓」を楽しみにしています。1960年代から70年にかけての、まだ学生が粋がってタバコを吸い、どこかでは蒸気機関車が走っていたアナログな世界、私の好きなヘッセがどこかにいるドイツの世界に、今回も連れて行ってもらえると思います。
歳月は過ぎてゆくものですね。でも全てが消え去っても思い出は残る。これまでの「スタジオライフ」と共に、9月の舞台も大切に抱きしめて、宝物にしたいと思います。

http://www.studio-life.com/stage/thoma2022/

■舞台付箋

個人的な観劇歴からすると、『ヴェニスに死す』1年振りのスタジオライフ公演は『トーマの心臓』でした。思えば、観劇仲間の先輩から『LILIES』の公演DVD(何年の公演か失念してしまいましたが……)をお借りして観たのが始まりだったような。先輩に誘われて中野へ本当に現実が疑うような一夜の夢だったような『真夏の夜の夢』(2015年)を観たり、紀伊國屋ホールで『トーマの心臓』『訪問者』『湖畔にて』(多分2016年)を観たり、紀伊國屋ホールで『11人いる!』『続・11人いる!東の地平 西の永遠』(2013)を観たり、池袋のあうるすぽっとで音楽劇『11人いる!』(2019年)を観たり、ああそうだ、シアターモリエールで『卒塔婆小町』(2017年)の夢とも現実ともつかない歌声の中でうっとりしたりしたことも思い出しました。

今作『トーマの心臓』は何度もスタジオライフ公演では再演がされている作品で、スタジオライフとは数年しか観劇経験がない自分でもまたいつかどこかで出会えると思わせてくれるのですが、再演は即ち過去公演の再生ではない、と教えてくれる作品でもあります。
一緒に観劇した先輩曰く、大分大胆に変えていたね、とのことで。
たしかに今まで休憩をいれて上演していたこともあった『トーマの心臓』。今回2022版では休憩なしの140分ほど。言われてみれば登場人物も同じ寮の学友の人数が減っていました。ですが原作漫画・舞台作品ともに久しぶりの『トーマの心臓』体験だったので違和を覚えず、感じたのはシアタサンモールに美しい景色があった、ということでした。
けれど、ただ美しいだけではない。知らなければ、押し付けがましいとも思える自死を選んだ少年「トーマ」が遺したもの。忘れようにも難しい、まだ子供の領域を生きる少年たちが受け入れるには重すぎるものだと思う、それ。けれどそれを転入生のトーマそっくりの「エーリク」が現れ、ギムナジウムの少年達に「トーマ」をなかったことにさせてくれない。目を逸らすことをさせない不思議な運命のようなものに振り回されながら、少年たちはそれぞれ、自分の中の気持ち、感情……愛を抱き、傷つけ、向き合っていく。
『トーマの心臓』に於けるトーマの 愛 がどういうものなのかは、冒頭の彼の遺書ですべてが詳らかになっていた訳ですが、それでも冒頭でそれを聞いても何もわからなかった。彼と彼らに関わるすべての人びとの あい が何たるかをそれぞれが見つめていくことで、トーマの愛がなんだったのか観客(読者)も最後に気づくことができた。

トーマの愛は途中で感じたとおり決して美しいだけのものではないと思っている。どうしたって押し付けている、自死を選んだ時点でもうそれは覆せない、何せ受け取るだけで返すことができない愛になってしまった。そう思うともう観劇途中の自分は腹立たしくて腹立たしくて、ユーリことユリスモールの苛立ちと戸惑いに寄り添ってしまいたくなる。死んだ人間のことなんて忘れろと言いたくなる。けれどユーリの周りの人間はそれができないことを知っている者がいて、知らずともユーリに想いを寄せる者がいて、ユーリ自身が目を逸らしていた出来事があり、簡単でない、これからそれぞれが見つめて、抱き続けなければならないそれぞれの感情、愛情があることがわかっていくのが、静かに、丁寧に描かれていました。

何度も再演されてきたスタジオライフの舞台『トーマの心臓』。同じ俳優が年を越えて同じ役を、或いは別の役を、ときには客演を交えて、何度も。その度に『トーマの心臓』は、少年たちの愛のかたちは呼び起こされ、以前と同じような、けれど公演ごとに輝きを変えて、その美しさを板の上で表現してくれるのが、とても眩しい舞台だと思っています。

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