舞台付箋 DisGOONie Presents Vol.9『GHOST WRITER』

本日2/7大千秋楽、おめでとうございます。良き物語を受け取りました。
そして、きっと朧げに、薄れたとしても、忘れないでしょう。今日この日までに途切れることなく無事楽日を迎えられた、この美しい船旅があったことを。

■公演概要

作・演出・プロデュース:西田大輔
公演期間
大阪 2021年1月22日(金)~1月24日(日)
COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
東京 2021年1月29日(金)〜2月7日(日)
EX THEATER ROPPONGI
https://disgoonie.jp/stage/vol9/

・グッズは通販のみ
DisGOONie Online Shop

・チケット
特典付きチケット 12,000円(全席指定・税込)
(特典はdisgoonie印のマスク、故・窪寺昭さんデザインによる)
千穐楽配信 視聴チケット 4,500円(税込)(Streaming+)
公演協力|ゼクシード
主催|ディスグーニー/テレビ朝日

■出演

※パンフレット通販購入で正式名称未確認の為配役は後日訂正予定
ダルタニアン:猪野広樹
ミレディ:生駒里奈
アトス:山本涼介
ポルトス:定本楓馬
アラミス:青木玄徳
マリー:楠田亜衣奈
コンスタンス:伊波杏樹
オーギュスト・マケ:安西慎太郎(代役:一内侑)
ルイ/鉄仮面:橋本祥平
リリス(死神/アンネ・ドートリッシュ):田中良子
銃士長トレヴィル:萩野崇
枢機卿マザラン:谷口賢志
パンニャ(片割れの本):長友光弘(響)
アレクサンドル・ドュマ:村田洋二郎
アルマン:伊崎龍次郎
元帥テュレンヌ:的場浩司
石井寛人 本間健大 書川勇輝 高士幸也 和田啓太 田上健太 辻村晃慶 海本博章 向有美 中野紗耶可 岡本麻海 植竹奈津美 小林礼佳 寺澤佑紀(MKMDC)
thanks: 窪寺昭
(敬称略)

■作品概要

disgoonie presents vol.9の今作は、作者である三銃士と鉄仮面をベースにしたファンタジーのような、そうでないような、メタフィクション溢れる物語を物語る物語。

暗い石階段を降り続け――地下奥深くに歩みを進める若き銃士――「ダルタニアン」。
蝋燭の火だけが揺らめき、その古き城には、他に誰もいないことが一目でわかる。
扉を開けると――そこには約束の相手である、作家の「オーギュスト・マケ」がいた。
マケは作家といっても名ばかりで、いま著名な作家の代筆で日銭を稼いでいた。
最近では悪魔崇拝の教会に入り浸り、良からぬ噂も耳にしている。
だがダルタニアンにとって、マケは昔なじみの親友。
幼き頃に、命を助けてもらった過去がある。頼みは「命に代えて」も、守ると決めている。
マケからの頼みは一つ―――
「奪われたこの本の片割れを、取り返してほしい」

公式ウェブサイトより引用

マケの頼みによりダルタニアンは、世界を変えることができるという本の持ち去られた半分……本の片割れを探すために、ルイ14世の治世の王家へ近づくことを目論む。協力者の一人は、バスティーユ牢獄の地下深くに、もう一人は――死神。その女はミレディと呼ばれた。
ダルタニアンとミレディは街の酒場へ潜入し、三銃士の一人と出会う――。
ダルタニアンと三銃士、そして鉄仮面の物語をベースにしながら、いわゆるデュマ・マケ原作の『二十年後』には存在しないミレディとともに、死神の足音が聞こる三銃士の三人と、劣悪な政治を行う太陽王ルイ14世と鉄仮面の関係、そして死期が近づくとその全容を目にすることができるようになる死神の存在。亡くなった王妃が残した物語と、二人のゴーストライター。或いはゴースト(幽霊)と世界に在る物語たちが、今、動き出す。

■舞台付箋

今回、感想としては上手く纏められない感じがする。
初見1回だけでは情報量が多く、話が飛ぶ、或いは人物の関係性が複雑で捉えにくい等があると思われる。2回くらい見ると丁度良い感じ。

三銃士がテーマと聞いて、三銃士の物語に作者デュマが絡んでくる話だと思っていたら、ゴーストライター・マケとゴーストライター・デュマのゴーストライター合戦だったし、三銃士+三銃士vs三銃士だったし、最終的にゴーストライターのゴーストが出てくるみたいなファンタジー三銃士だった今作。死人だって死神だって出てくるよ。
他ディスグニ作品と比較して、虚実の境目が分からなくなるし、他の作品よりはこれは虚実が曖昧ですよとわかりやすく教えてくれる舞台だとは思われる。(ただし何が虚で何が実かはわかりにくい。なんでもありだな、とは枢機卿の台詞より)
それでも見えた世界は、とても美しいものでした。

・一幕冒頭と二幕冒頭の対比。
一幕冒頭は古城の扉を空けると、一心不乱に何かを書き散らすマケ(一内侑)、二幕冒頭はルイ14世の城の中で今描かれる物語を書き散らすデュマという対比が面白い。互いに嫌っているのに、デュマのちょっと余裕そうなところだとか、マケの人を食らいそうな熱量と、同時に競いながら目指す場所が同じならばと互いの策を利用しながら目的の完遂を目指す策略家のような。物語を殺す作家と、物語を死に向かわせながらも生きることを終わりとする作家。軍師が二人いる合戦場のようにもみえたのが面白い。“どこからが現実でどこからが物語なのか。はたまた、どこからが事実でどこからが物語なのか。分かるのは最後、死ぬ時です”

・ルイ14世の二面性、或いは一人二役
今作ルイ14世と鉄仮面役を一人で二役担っていた橋本祥平さんの怪演が素晴らしかった。気持ち悪いくらいの切り替え様が本当に気持ち悪い(褒めてます)、何しろほぼ暗転もなく二人目の役に切り替える場面が何度かあり、そのどれもが誰がどれなのか分かるという演じ分け。ルイ14世自体も頭の切れる悪いやつという役柄で機嫌の良い時と悪い時の差が……こう……気持ち悪い(褒めてry)
彼の芝居を見ながら、この作品がdisgoonieではなくandendlessで作られたなら、10年前ならきっとこの役は窪寺昭さんがやっていたかもしれない、などと千秋楽を終えてふと思ったりもした。

・美しい死神たち、或いは死者
死神の名前で登場した田中良子さん。冒頭の自己紹介OPで、どうもLilithと名前があった彼女は亡くなった王太后・アンネ・ドートリッシュである。それが蜘蛛のような黒い異物を背負った真っ黒のドレスを着こなすヤギ角のある女性の姿で現れたら目を奪われないなんてことがあるだろうか、いやない(反語)美しいのでブロマイド3セット買いました。
二幕以降は少しだけ装いを変えて黒いボリュームのあるドレスになり、過去の王妃の思い出としても登場。シルエットが更に美しくなるなんという罠! 好きです。田中良子さんいつもどの役も好きですが今作のデザイン含めてめっちゃ好きです。
「物語の最後のページをめくるのが怖いですか」と語りかけるのもこの方。あれは本当に、愛しい人への言葉で、思いやりで、心配で、背中を押したいという気持ちだったんだよなあ。

・狂気にも見える作家達の世界のぶつけ合いと、生きる人の熱量と、終わったはずの物語からまた生まれるものの美しさがそこにある。
すっげぇ、キラキラ輝いているんだ。
今作もライティングが美しく、音楽も素晴らしい。(毎度のことだが既存楽曲が公開されないので曲を探すのがとても辛い。yaeさんか笹川美和さんの楽曲がなかったか???)
そしてその音楽を食らうようにして吐き出される台詞回しが、胸に刺さる。それは親子の愛情であったり、主従の誓いであったり、兄弟の愛情であったり、親愛であったり、作家への物語からの反逆であったり。

・残った言葉の話。
二幕中盤~終盤の、元帥と死神のやりとり。「物語の最後のページをめくるのが怖いですか」という問いかけ。最後のページをめくってしまえば、物語が終わってしまうことがわかっていると、ページをめくることが恐ろしくなって前に進めないこと。変わることを拒むこと。
それでも、だからこそ、物語のページをめくること。
この辺りが、自分には刺さる。それでも前に進めというのがディスグーニー。

・代役の話。
今回、マケ役であろう安西さんが体調不良の為に降板された為、一内さんが代役として出演されることとなった。一内さんの冒頭の迫力は最高だ。あの辺りはnew worldを思い出すほど、自分の命を天秤に乗せてでも人間の感情を書こうとする作家の狂気を怪演されていた。

・代役のない、舞台に溶けこんだ空白の話。
もうひとり、見えない舞台の中に溶け込んだ空白が、この舞台には、あった。2020年11月に亡くなられた、窪寺昭さんの場所だ。2/7千秋楽公演の脚本・演出の西田氏のコメントにより、亡くなられた後、今作の脚本は11月以降に書かれ、どう描こうか考えて、このような物語になったという。(最初は三銃士と幽霊が戦う筈だったとか)
故に、千秋楽公演まで観れば、別段、誰かがいた筈の空白・穴のようなものは基本的には、ない。だから代役が立つことにもならなかった。

けれど、一番最初の西田脚本演出作品によくあるop部分と、一番最後の「聞いてるか、忘れんなよ」の台詞時に、誰の存在もなく、ただピンスポットライトが当たる場面がある。
そしてカーテンコールにて、上手寄りの右から数えて本来は3人目の田中良子さん、谷口賢志さんの間に、一人分の空白があった。
お辞儀をして演者が捌ける際、良子さんはふ、とそちらを見てから退場していくように見えた。まるでいつもの仲間がそこに立っているかのように。終わったねと気軽な挨拶を目で交わすように。だからきっと、この舞台には窪寺さんもいたんだな、とカーテンコールで拍手しながら思うのだ。此処にいるんだと。そんな気遣いが、とても細やかで、寂しくて、優しく、胸に残る瞬間だった。

作中のセリフで、残る言葉がある。
”生きてさえいれば、苦しいことも悲しいこともある。やり直せることもある。逃げ出すこともできる。”
”物語は終わっても、今度は終わらない物語を始めることができる。”

物語の中に、生きてる。

「聞いてたか、忘れんなよ」
ずっと、仲間だ。

この作品はきっと叫んでいる。これからも、物語は終わり、終わってもそこから始まって、生きていくからと、いつかそこに届くように演者が、作品が、disgoonieが叫んでいる気がしている。

初見1回目の観劇後に、思い浮かんだものがある。昨年1月に観た、少年社中の舞台作品「モマの火星探検記」で、今作にも出演している生駒里奈さんの台詞(歌)だった。

“貴方から遙か、遠くに離れてても
この声はきっと貴方に届く筈さ
星が出たらいつも空を見上げ想う
遠い場所で貴方も見てるかな
……
聞こえますか、この声が”


聞こえていますか、届きますか。
この船はこれからもきっと、物語を描(い)き続けてくれる、航海を続けてくれると、信じている。

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