舞台付箋 S-IST Stage『ひりひりとひとり』

此処数年、特定の脚本演出や、劇団のお芝居しか観ない事が多かったので、出演者の名前をみて今まで触れてないお芝居を観てみようと思い、ひりひりとひとり、観てきました。6/15昼、6/18昼公演を観劇。
6/19千秋楽おめでとうございます。

■公演概要

作・演出:石丸さち子

公演期間

2022年6月10日(金)~6月19日(日)
よみうり大手町ホール
https://yomi.otemachi-hall.com/

・グッズ販売
劇場販売(当該公演のチケット所持している客のみ)
通販 東映ONLINE STORE https://www.toei-onlinestore.com/shop/

・チケット
全席指定 ¥8,800(税込)

・ライブ配信
https://s-ist-stage.com/stream.html
2022年6月19日(日) 12:30/17:00
【配信プラットフォーム】
Streaming+
PIA LIVE STREAM
視聴チケット料金:4,400円(税込)

チケット販売期間
6月13日(月)21:00 ~ 26日(日)21:00

アーカイブ視聴期間
6月26日(日)23:59まで

■出演

工藤春男:鈴木勝吾
ぴーちゃん:梅津瑞樹
りぼん:牧浦乙葵
玉木賢:百名ヒロキ
伊達夏子:周本絵梨香
西郷さん:塚本幸男
音楽・演奏・鉱石ラジオの音楽家:森大輔

■作品概要

人間と、人間の物語。自分と、誰かの物語。孤独と、孤独と、愛情と、自分との物語。
公式ウェブサイトより以下、引用。

あらすじ

ひとりの俳優をめぐる物語。
ひとは向き合う、自分に、他人に、世界に。
ひとは向き合う、過去に、未来に、今に。
たくさんのひとりが、ひりひりと今日を重ねていく。世界はまだ見ぬ明日へ。

工藤春男は、父の家庭内暴力、それを苦に家族を捨てる母といった、
愛情に恵まれない家庭に育った。
思春期には、烈しい統合失調の症状とともに暮らしていたが、
家を出ること、詩を書くこと、演劇と出会うことで、心は落ち着きを見せ、
持ち前の表現力や独創性が評価されはじめていた。

所属する劇団の公演、チェーホフの「かもめ」で
トレープレフをキャスティングされた春男は、いつものように稽古をし、いつものように仲間と時を過ごしていたが、
実家で父が孤独死したという報せがはいる。

父という、自分の記憶からすでに消していた深い憎悪の対象の死を、
どうして受け容れればよいかわからない春男。
心はどんどん過去に遡り、思春期に自分で生み出した珍妙な別人格二人が現れる。
耳の中に始終聞こえていた雑音はボリュームを増し、やがて新たな幻覚まで登場して……。
春男が突然稽古を休んだ日、恋人でもある伊達夏子は、心落ち着かぬまま稽古場にいた。
Wキャストでトレープレフをキャスティングされた親友の玉木賢は、
芝居の最中に突然、台詞がしゃべれなくなり、
夏子の胸に生まれた「ざわざわ」は止まらない。

東京に戻ってきた「ちりちり」した春男と、なんとかつながろうとする夏子と賢。
春男はやがて、二人とともに、生まれ育った街に向け「ひりひり」した旅に出る。
どこか遠いところで幻聴のように鳴り続ける音楽とともに。
それは三人それぞれが、自分と向き合う旅でもあった……。

六人の俳優と一人の音楽家が絡み合い、
ひりひりとした物語を軽妙な笑いと、軽やかな身体、豊かな音楽とともに語っていく。

https://s-ist-stage.com/#story

■舞台付箋

・鈴木勝吾氏の為の舞台と思える程の、鈴木勝吾という俳優のポテンシャルを最大限活用した芝居。
・初見時は穿ちすぎて、これ鈴木氏の一人芝居でも良かったのでは?とか偏った感想を持った。流石にそれは穿ち過ぎで、二回観たら気持ちが落ち着いたのか、そこまでは思わなくなった。多分鈴木氏のエネルギーに自分の感情が引き摺られたのかもしれない。
・それにしても鈴木氏フル活用。モノローグ、劇中劇の俳優の芝居、二人分の幻覚に苛まれる狂気のかけら、死を願う程の実父への憎悪、父が亡くなった事を悲しいと思う事自体への葛藤、コロコロと変わっていく芝居の緩急に目を離せない。あと歌う。歌って踊る。やりたいこと全部できたかなー?ってくらい持てるもの全てを使って全力の芝居。
・ぴーちゃん、西郷さんという二人の幻覚が、市役所の職員、ビジネスホテルの受付、改札機、所属劇団の演出家、ビジネスホテルの受付と兼役を鮮やかに演じ分けているのが心地よかった。改札機ピッwww
・西郷さんは西郷隆盛をイメージしているのか、兼役も春男より年上の男性。工藤春男の父親のイメージ?
・ぴーちゃんは兼役では年老いたホテルの受付、劇団の演出家。工藤春男の言いたいことをぺらぺら喋るもう一人の自分枠?
・西郷さんとぴーちゃん、二人分がまるで工藤春男と父・トキオの関係を春男の中でバランスを取ろうとした結果の幻覚なのかもしれない、とぼんやり思う。
・重そうなテーマだなと思ったものの、軽やかに演じられ、軽快なテンポで重過ぎず軽すぎずなテイスト。それでも扱うテーマが繊細なので、テーマで心を打たれることはあると思う。殴ってくる親に死ねという子供の親子関係を眺めるだけでも辛いものがある。
・人間、他者と一緒にいると愛しさや楽しさだけでなく、憎しみや悲しみも育っていくよな。特に一番小さな社会の単位・家族で問題があると。
・一人の俳優が孤独死した毒親の遺体や遺品の確認をしに故郷へ戻ったことでW(ダブル・春男の別人格とされるキャラクター)が再発生し、その幻覚と春男を心配した劇団員の仲間・夏子と賢との共に、自分と向き合う物語。
・憎んでいた父親を死後になって「許してやれるのは自分だけだった」と抱えていたことから、ずっと自分の中の父親を許したかったこと。自分を許して欲しかったんだろうなー、とか。
・許さなくて良かったんじゃないのか、と個人的に思うものの、許せない自分を抱えて生きていくのも辛いもんな。故に、巡り巡って、他者を許すことで最終的に自分を許せるようになるのでは、とか。
・藤子・F・不二雄先生のようなSF(少し不思議)な物語。りぼんというファンタジー。奥歯の金属の詰め物が受信する鉱石ラジオで繋がる、音楽と幻覚。
・りぼん(牧浦乙葵氏)の人外というか、人類から少しずれたような、隣にいるような人とは違うけれど人のような不思議な何か、の芝居がとても良い。薄ミュ真改斎藤篇でその歌声の素晴らしさは知っていましたが、今回のような芝居もいいなあ。
・鉱石ラジオの音楽家は春男の幻覚ではない、いつかどこかに生きている人間の音楽。問いかけに音楽が返ってきていたので、同じ時間を過ごす人なのかもしれないし、そうでないかもしれない。けれど何処かに届くようにと音楽を、メロディを生み出し続けていた人。終盤、春男と音楽家の二人の歌もとても良かった。
・最後、それまで工藤春男を取り巻く世界の中の、ひりひりしたものを抱えながら、それでも繋がっていくこと、繋がりたいと思う力が進む力になっていくことを描いていたところから、一人の俳優として客席と繋がっていることへ繋げてきたのは狡い。あんなんぐっとくるに決まってるじゃあないか。客席だって客席としてずっと板の上を、劇場を心配して、行ける限り足を運び、健康に気を使い、日々仕事して、掴んだ機会を失わないよう生きている。これからも、また、その一人ひとりの素敵な表情を目に焼き付けられることを、ずっと祈っている。

ひりひりとひとり、のテーマ曲。ピアノと軽快なリズムと、で全く関係ないのですが似てるなーと思い出したのが風味堂でした。


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