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舞台付箋 饗宴『エイリアンハンドシンドローム』2024.3

Introduction
3年9か月で12本の饗宴をお届けしてきたDisGOONieS。
最後にお送りするのは「最初」の物語。
初演メンバーが再集結いたします!
約一時間のお食事の後、演目をご鑑賞いただく、
お食事・お酒と演目による最後の「饗の宴」。

https://disgoonies.tokyo/show-info/2853/

2020年に幕を開けた西田氏の船、レストランDisGOONieSが今年3月末に幕を下ろすこととなり、最後の宴が開かれた……それは始まりの物語。波音から始まる、泡沫のような、祈りと願いの物語。忘れない、忘れても、思い出す、そこに。


■舞台付箋

でぃすぐにず、御縁があって3/26夜を一度だけ観に行ってきました。ちょいと久し振り……えっ2022年のチルモラこと饗宴『chill moratorium』以来でした……。
初演の2020年9月公演も観たことがあるのですが四年弱経っているともうすっかり忘れて宮下氏の銀色タイツしか記憶に無いと思っていました。久し振りの銀座、宇宙を飛ぶ船の絵のあるわくわくする入口、落ち着いた雰囲気の店内とテーブル。食事してhappy bagなるグッズを買って、どんな話だったかななんてぼんやり考えながら開演の時間まで待っていました。いつものシンディ・ローパーの「The Goonies 'r' Good Enough」が流れてきてさて始まるぞと心を落ち着けて、暗転。

波の音。

その時、思い出しました。暗くて何も見えなくなったのに、3/26、壁際のテーブルに座っていた今の自分の反対側に、アクリル板の向こうのテーブル席に座る2020年9月の自分がいたことをその波の音で思い出したのです。
我々は船の中にいる。外は見えない。同じ乗船者達が一人、また一人と現れて、外の世界はどうなっているのか? と悩み、そしてどうして此処に自分たちはいるのか、と考える。始まった瞬間から、我々、は出演者達と同じ、この船の乗船者である感覚に震える。あの時の感覚。
外界とこの船の中、世界からの断絶、互いの断絶。黒い封筒を読み上げ、うたかた、と呼ばれる薄紫のアルコールを飲むと忘れてしまう。たった一人に選ばれる為に、デカルトという銀色の存在がたった一人を選ぶという、その為に質問を繰り返し、手紙を書き、忘れ、忘れたくない大切なものを取り戻そうとして、忘れたくないと願い、大切なものは何だったのかを考え、忘れていないものをひとつずつ解き放ち、「一番大切なものを忘れてしまう」から、忘れていないものがまだそこにあり、いつの間にか一番になってしまったから、忘れてしまうことを恐れ、全てを失っても良いから忘れたものを問いかけ続ける、七人の人間達。数多の願いと、数多の祈りが、そこにあった。
あわい、間、狭間の物語。
それはいつとも何処とも語られないままの、いつかの津波の物語。
少年の物語。
デカルト、という言葉を話すロボットが語る物語。記者が少年へ手を伸ばせなかった、或いは少年へ伸ばしていた記者の手が届かなかった物語、消防士だからと覚悟を決めて最後まで生き抜いた物語、その兄がそうすることをわかっていたから忘れないように、全てを覚えているAIとして兄の形を作り上げた科学者の弟の物語、もうすぐ子供が生まれるのだという男の物語、喋るのが苦手で酒を飲んで喋る練習をしていた物理教師の物語、波に少年を拐われて追いかけた母親の物語。
叶う筈のない、大きく成長した姿を見せることができた少年と、たった一人、終わらない世界へもどす為に選ばれた母親の物語。

世界は終わってなんかいない、けれど断絶は生まれた。
2020年9月、物理的に存在したアクリル板のように。
2024年3月、アクリル板がなくなった今でも残っている、こんな時に演劇なんてするのか、と言われ続けた者たちに投げかけられた言葉達。
世界は終わってなんかいない、だから何度でも何度でも、繰り返すしか無い。終わらない為に、終わらないように、できることをする為に、繰り返す。生きることを、繰り返していく。

I see trees of green
Red roses too
I see them bloom
For me and you
And I think to myself
What a wonderful world

Louis Armstrong -What a Wonderful World(この素晴らしき世界)-

世界は素晴らしいと歌うように、一人母親は送り出されて。残された者達は酒を煽って静かに微笑む。うたかた、泡沫のように。

2020年の様々の断絶を思い出しました。楽しいこと、特に趣味の物事は2020年当時本当に余計なもので、騒いで無理して感染拡大させて後ろ指さされて、でもエンターテインメントだって職業で経済回してて、不況で色々が難しくて。病魔と紙一重、いや隣り合わせの世界になってしまっていて苦しいことが目に見えて大きくなってしまったけれど、人と人の距離が、断絶が深くなってしまったけれど世界は終わってなんかいないんだよ!!っていう作品です。
此処までぼんやり思い出しながら書きましたが、冒頭の我々、から徐々に我々が消えて七人と一人(デカルト)になっていくのもちょっと面白い。我々空気になっちゃった……と。このあたりどう解釈しようか悩むところですが、空気になって観るのは好きなので、別に観測者である自分はその場にいてもいなくても構わない、空気を吸わせろ!の気持ちで観ると大変楽しいです。観終えて何が明るくなるとか、元気をもらえるとか、具体的な声掛けとしての言葉ははっきりとは無いと思っていますが、敢えて探すなら、「生きて欲しい」という祈りを感じることができる。それはあの日波に消えてしまった少年が青年の姿になって、少年を追いかけてしまった母親を船の、狭間の場所から、外へ、現実世界へ返したかったように。

本当は電話にでたかったんだよなあ、冒頭で女(田中良子)が何度も何度も電話をかけようとして携帯を握りしめて登場する場面と、男(北村諒)が真っ暗になった赤い携帯を握って眺めながら登場する場面は、対になっているんですな……でもその携帯はもう鳴らない。3年ちょっとの時を経て場面を理解したような気がしますわ!?

もう一度、観ることができて本当に良かった。
ありがとう。
良い、夜の旅路でした。

■公演概要

作・演出:西田大輔

公演期間
2024年3月24日(日)〜3月28日(木)
DISGOONieS
〒104-0061 東京都中央区銀座3-3-1 ZOE銀座 B1F
( http://disgoonies.jp/ )

・チケット
全席指定 テーブル/カウンター 15,000円
料理・ワンドリンク・ショー鑑賞料含/(税・サービス料込)
START時間より約1時間の食事後、演目鑑賞。上演時間は1時間30分程度(休憩なし)。

■出演

男(少年):北村諒
男(記者):鈴木勝吾
女(母親):田中良子
男(科学者):谷口賢志
男(一児の父親):西田大輔
男(消防士):萩野崇
デカルト(銀色タイツ):宮下雄也
男(物理教師)村田洋二郎

■折詰

うまうま


■公演限定オリジナルカクテル

*アルコールカクテル うたかた
*ノンアルコールカクテル アラウンド・ザ・ワールド



■作品概要

2020年9月初演。

■書けなかった2020年、9月。

書けなかった、あの時の感想を。
2020年の9月、1公演だけ観に行った筈だったのに、日記にもメモにもtwitterにも、自分の手元の何処にもその痕跡がありませんでした。
何でだ、と思い返して、これが2020年だったことそれ自体が理由でした。この舞台付箋を書き始めたのも2020年4月、感染症に起因します。2019年末から広がり始め、2020年1、2月には大々的に報道され、4月には数多の公演が中止になり。夏場もマスクを外せないままの、9月。
友人知人の医療従事者達は同居していなければ会うこともできず、親しくとも友人との会食は以ての外という状況。親戚にも幼い子以外全員感染した家もあり、高齢の親を持つ自分にもいつ感染してもおかしくない、そんな中で。地下階の閉塞的な屋内、レストランという環境で公演を楽しむ為に見に行く、という観劇そのものに後ろめたさがあったのを、思い出しました。

また本作の題材である波、津波。2011年からたった9年、十年手前のその時に、波の音をあんな風に耳にして、胸がいっぱいになってしまったのも感想が書けなかった理由の一つでした。

エンターテイナー達が悪いのではない。エンターテイメントを楽しむ事だって悪いのではない。けれどそれを演じる側、観る側共に作り上げるには非常に難しい状況だった。
2024年の現在でも、感染症はすぐ近くに在る。消えてもいないし弱毒化もしていない。けれど今もこの世界は終わってなんかいないから、生きるしかない。死なずに生きていきたいと願いながら、祈りながら、今日を生きて行くのだと、受け取りました。

きっと、もっと、一人でも多く、この生きて欲しい、という言葉が届いて欲しい。届いて欲しかった。

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