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われわれに与えられた切り札~エピクテトス~

『神々が、一切を支配する最も強力な力ー外の世界のものを正しく用いる力ーだけを我々に許し、
それ以外のどんな力も許さなかったのは、適切と言うほかない。
単に神々は、我々にそれ以上力を持たせたくなかったのだろうか?
私はこう考えている。
もしそれが可能なら、神々はもっと力を与えてくれただろうが、それは不可能だったのだ。』
~エピクテトス『語録』~

スコッチのソーダ割を片手にトランブルは上機嫌に言った。
「今日は私の好きなエピクテトスだね。
知っているかい、彼は本を残さなかった。
我々が知っているのは弟子のアッリアノスが書いた「語録」と「要録」が残されるだけなんだよ。
自分次第でないことに注力しなかったエピクテトスが、
彼以外のもののちからで我々に影響を与えているんだ、
運命とはわからないものだね。」
葉巻の煙を揺らめかせながらドレイクが言う。
「その運命のせいなのかわからないが、私はひどい寝不足だよ。
昨日裏の通りで工事があったようでね、一睡もできなかったんだ。
ただ、エピクテトスの言葉を借りるならば、
昨日の工事は自分次第ではないよね。
そして寝不足もまた自分次第ではない。
昨日の段階だったら耳栓をするとか対策をすればまだ眠れたかもしれないが、
もうすでに寝不足、つまり過去のことに対して我々は何もすることができない。」
ルーピンが片頬を釣りあげながら追加する。
「過去に戻れるのならば、君が家を立てるときに防音室をつくるように助言してやるよ。」
ドレイクは言う。
「ありがたいご忠告ありがとう、Dr.ルーピン。
このなかで肝要なのは、寝不足とアピールしても、Dr.ルーピンが
わずかでも声を小さくしてくれないとうことさ。
つまりね、寝不足だからと周りにアピールしてもなんともならない。
自分で改善することだけさ。
自分次第でどうにかなることは、現実を受け止めて、どう動くかを自分で選択するだけさ。
エピクテトスの言葉にしたがって、私は行動するとしよう。
Dr.ルーピン、あと少しだけ小さく話してくれないかね。」

ひげを逆立てながらルーピンは言う。
「君の寝不足は君自身が言う通り、君の自己管理が問題何じゃないか。
なぜ君に僕が合わせなければいけないんだね。
僕が別の手段を教えてあげるよ、
そこにいるヘンリーに頼んで上着を受け取り、
家に帰ってベッドで眠るんだ。」
遥かなる高見からアヴァロンは厳かに言う。
「落ち着きなよルーピン。
『学び』という観点から君はこの言葉をどうとらえるかね?』

ルーピンは言い足りない雰囲気を全身で表しながらも、自分なりの考えを言うことを優先したようだ。
「僕はずっと落ち着いているさ、Dr.アヴァロン。
『学び』はやらなくても生きていける。
これは事実だ。
僕たちの先祖をさかのぼれば、学問というのが存在する前から人類はあるわけだ。
悲しき事に今でも『学び』の機会がすべての人々に与えられているわけでもない。
それでも『ただ生きる』ことはできる。
つまり『学ぶ』ということは自分で選択すること、そして自分で意味を見出すことが肝要だよ。
『学ぶ』ことによって自分にどう落とし込むか、それは自分次第なんだ。」

アヴァロンは続ける。
「『学び』が自分の意思により行われるものならば、
『仕事』は自分の意思以外により行われることが多いものといえるね。
だってそうだろう、
君たちの上司の気分や自分自身の評価、担当業務などは自分次第ではないだろう。
せいぜい自分の希望を言うくらいさ。
自分次第なのは自分の与えられた業務にどう取り組むか。その一点さ。
全力でやるもよし、効率的に行うもよし、他者に任せるのでもよし。
最終的な責任が自分にあることを認識した上で自分の選択を選ぶのが大切なんじゃないか。」

ヘンリーからもらった2敗目を飲みながらトランブルは言う。
「切り札と聞いて最も思い浮かぶのは勝負事だろう。
ポーカーを思い浮かべてごらん。
配られた手札は自分の権外さ。
相手の手札も権外。
ここで、エピクテトスの言う自分以外のことも選択できる力を神々が我々に与えたもうたら?
勝負になるわけがない。
相手のカードがわかっているんだから。
そして考えてほしい、その力を君だけに与えられたとでも?
相手も自分の手札を見るだろう。
そんなのは意味が分からないじゃないか。
与えられた手札で、
進むか引くか、
はったりをかますか、じっと耐えるか。
これだけが神々が与えた自分のできる範囲さ。」

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今日、家にいるときに停電になりました。
まぁ、のんびりしていたので何も行動しなかったのですが、
慌てふためくことや原因を調べること、いつ復旧するか考えることも
自分の選択肢にはあった気がします。
ただ今回の停電では、電子機器が全く動いてない部屋の新鮮味を感じて、
ゆっくりとうたたねをして過ごすことができました。
事象は変えられません。
ただし、それに対する受け方は自分の権内です。
そんな感じの一日でした。

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