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”オワコン”にさせない過去作品のIP活用【連載28・オタク視点で見るアニメ】

■長期シリーズの増加とIP(知的財産)ビジネスの拡大

【前編】に続き、過去作品の再活用についてです。『おそ松さん』第3期も発表されましたが、近年は、ひとつの作品を長期に渡って展開するケースが増えています。
作品が長期に渡って展開することは、ファンにとって嬉しいことであるのはもちろん、アニメの送り手側にとっては、ヒット作の長期運用は、安定した利益を得るというメリットが大きいところです。

アニメビジネスの柱のひとつは、ソフト販売や配信といった《映像販売》ですが、
もうひとつの重要な柱が《IP(知的財産)ビジネス》です。

IPビジネスとは、作品の権利を持つ会社が、自社の作品を使って商品やサービスを提供したり、他企業にライセンスを貸し出したりすることで利益を得るというものです。
現在のところは「キャラクタービジネス」という側面が大きいと思います。

お客さんにとっては、好きな作品のグッズや複製原画が販売されたり、コラボカフェ、イベント、さらにはライブ等のステージなど、展開する規模が大きくなることは大歓迎だと思います。

IPビジネスの重要性は、日本動画協会の「アニメ産業レポート2019」からも見て取れます。
レポートによると、「日本のアニメ産業市場(ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場)」の総額は2兆1814億円(2018年度)です。
総額2兆1814億円を、大きく《映像販売》関連と、《IPビジネス》関連に分けると、以下のようになります。

《映像販売》関連/TV、映画、ビデオ、配信……合計2752億円
《IPビジネス》関連/商品化、音楽、海外、遊興、ライブエンタテインメント……合計1兆9062億円
映像販売以上に、作品から派生したIPビジネスのほうが大きいことがわかります。

長期シリーズとIPビジネスは非常に相性が良く、作品をシリーズとして長期活用できれば、版権元は、安定して利益を得られるようになります。新規作品を制作する時のように、初期コスト(企画やプロット、キャラクターや世界観、美術設定等を作る費用)が発生しないことも理由のひとつです。

つい先日、マンガのIPビジネスに関する記事を見つけました。
出版市場の“22年ぶり復調”はなぜ起こった? ウェブと本の共生関係、その現在地を探る(リアルサウンド)

「大手出版社の決算を見ると、小学館、集英社、講談社はいずれも増収増益」という理由のひとつに、「マンガを原作に物販、2.5次元舞台に代表されるライブエンタテインメントなどへとIPを多面的に展開、また海外の出版社やゲーム会社に対しても版権ビジネスを行うことで、好成績になったと考えられる。」

もしかして、私たちが“ジャンフェス”(集英社のジャンプフェスタ)物販で使ったお金も、出版社と作者様へ……!?(そうです)

ソフトパッケージやコミックス、電子配信等の“現物”を販売するだけでなく、IPビジネス(キャラクタービジネス)で増収を図ろう、という動きがマンガでもアニメでも起こっています。

IPビジネスがさかんになった一番の理由は、お客さんのニーズにあります。
「映像を見るだけでなく、作品を体感したい!」というお客さんの願いが、作品の世界観やキャラクターを身近に感じられるグッズやステージを生んだのです。

■過去作品がうまく活用されていない

では(ここから本題)、どの作品も長期展開ができるかと言えばそうではありません。大ヒットした作品に限られていると思います。また、どんなにファンから支持されても、諸事情により続編が作られない場合もあります。
ファンから一定の支持を得て資金も回収できた、いわゆる「スマッシュヒット」の作品は数多くありますが、残念ながらあまり活用されていない“眠れるお宝”も多いのです。

なぜ活用されていないのかというと、アニメビジネスの仕組みとも関わってきます。
理由のひとつが、“製作委員会のタイムアウト”。
自分が書いた記事ですが、アニメ制作会社を舞台にしたアニメ『SHIROBAKO』プロデューサーのひとりでもある永谷敬之さんの談話を抜粋します。

『SHIROBAKO』プロデュース 永谷敬之氏(インフィニット)インタビュー【後編】(ASCII.jp)

永谷さんは、アニメ企画会社インフィニットの代表で、『SHIROBAKO』では資金集めと宣伝を担当しつつ、「作品の継続運用」を目指しています。

「製作委員会方式では2年経った作品に宣伝費を投下することは難しい。Blu-ray、DVDパッケージの最終巻が出た段階でビジネスとしては1回終了という形になりますから」
「現在、年間160本前後のアニメがつくられています。良い作品と呼ばれたにもかかわらず、忘れ去られて後世に残っていかないこともあるんです。僕は『後世に残す』という言い方をしていますが、これはつまり『作品の寿命を伸ばす』という意味になると思います。」

これは2015年段階でのお話なので、現在はもっと長期活用を前提とした取り決めをする作品が増えているかもしれません。
ですが、少なくとも「2015年より前の製作委員会方式の作品では、数年経った作品に宣伝費をかけることがレアケースだった」ことがうかがえます。

■権利を長期運用できるシステム

IPビジネスを製作委員会方式で運用しようとすると、幹事会社が各社に(出資額に応じて)細かく分配するという手間がかかります。その手間に見合う回収ができるかも課題なのだろうと思います。

近年では、アニメ制作会社が作品の権利を持ち、自社が展開できる範囲内でIPを継続活用していくケースも増えています。
00年代にプロダクションI.G、京都アニメーションなども自社で版権を持ち始めました。
アニメ制作会社にとってのメリットは、以下になると思います。
・自社で権利を持つことで、その後の版権二次使用の売り上げが見込める
・版権を持つことで作品を長期に渡って運用できる
・長期に渡って運用すること自体が「作品宣伝」と「自社ブランド力の向上」を兼ねる

自社のブランド力が向上すれば、アニメ制作を請け負う際も、発注元に制作費を高めに要求できるという利点があります。
多少運用に費用がかかっても、グッズがすごくは売れなくても、長期に運用するコストを払うメリットは十分あると思います。

『プリキュア』シリーズの東映アニメーションや、『名探偵コナン』トムス・エンタテインメントなどは、自社版権を持ち続けている数少ないアニメ制作会社です。

時代背景から言うと、90年代半ばまで主流だったマーチャンダイジング方式では、作品の権利はアニメ制作会社にありました。その後、出資会社が出資比率に応じて回収する製作委員会方式ができたのですが、製作委員会方式では、出資しないアニメ制作会社は、作品の制作を請負うのみで版権は持たなかったのです。

合意を取るのが難しい「製作委員会方式で作られた過去作」においては、製作委員会が解散したあとの作品の運用が難しい作品もあるのでは……と考えられます。

■過去作品、再活用の動き

長期シリーズのIP活用の話に戻ります。
アニメの送り手から見た場合、IPビジネスの長期活用について少しネガティブな言い方をすると、安定人気の長期シリーズで増収を図らないと、新規作品を作ることが難しくなるという事情があります。

コンテンツビジネスは水もので、「10本作って1本のヒットで回収する」と言われたりもします。作品がヒットするかはフタを開けてみないとわからない。
だから、安定人気の作品で、他の作品で出た赤字を補填するということになります。

最近の長期シリーズの増加には、新型コロナの影響で発生してしまった新規作制作の延期、劇場公開延期等の補填の意味もあると思います。

岐路に立つ映画産業、そろり「再開」も完全復活遠く(日経電子版)

「東宝は『名探偵コナン 緋色の弾丸』を当初予定より1年遅らせ、21年4月に公開する。TOHOシネマズは苦肉の策で、旧作を割引価格で上映している」とあります。

新型コロナの影響で、今は新規作品の立ち上げに賭けるよりは、既存の人気タイトルをうまく回すことで安定した収益が見込もう、という考え方なのだと思います。
お客さんにとっても“休眠中”の過去作品が展開されるととても嬉しいです。

過去作品にフォーカスを当てるケースも増えています。

TVアニメ『つり球』再放送&Blu-ray Disc BOX発売記念キャンペーン

2012年に放送された『つり球』が、2020年の再放送に合わせてコラボカフェと新規グッズを展開。8年の時を経て『つり球』が蘇ったことが胸熱でした。

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(↑お台場ノイタミナショップの「つり球カフェ」、行ってきました!)

フジテレビのアニメ放送枠「ノイタミナ」はブランドとしてアニメファンに広く認識されています。
「ノイタミナショップ&カフェシアター」というリアル施設を持っている点も強みです。

今回は「アニメの送り手」に絞って書きました。
「受け手」であるお客さんは、どうでしょうか。
かつてのヒット作だからといって、今の時代のお客さんに支持されるかはわからないところがあります。
「今のアニメファンはすぐに飽きてしまう」という送り手の言葉を、私は90年代から聞いてきました。

IPビジネスの長期活用に関しては、「お客さんの気持ちを繋ぎとめて盛り上げる」ところが非常に大きいと思います。こちらは【次回】書きますね。



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