ふちで
きみはまだ、嘘で塗り固められた世界の偽りの希望を信じている。自分が経験したひどいできごとは、きみを絶望させるには至らなかった(じゅうぶんひどいことが起こったのに)。若さゆえ、そして無知ゆえに、きみはふたたび、裏切られたはずの世界の素晴らしさを信じてしまう。きっと自分の身に起きたひどいできごとは、偶然がもたらした不幸に過ぎないはずだ。だってこんなに素晴らしい世界なのだから。
きみは世界にうらぎられつづける。やがて信じていた家族や友人たちも失い孤立してしまう。この世界で生きていく意味をみうしなってしまう。あんなに人を好いていたきみなのに、人を信じることができなくなってしまう。生活はこわれ、偽りの希望を信じることもできなくなってしまう。きみはこの世界にひとりぼっちになって、ふかい絶望感のなかに閉じこめられてしまう。もうここから出られないと思う。
きみはさいごの力をふりしぼり、助けをもとめた。この世界では、人に助けをもとめることは悪とされ、すべてを自分の力で切りぬけることが善とされていた。かつてはきみも、自分自身の全能感に浸って、この世界の価値観を疑うことなく受けいれていた。人に助けを求めるべきではないと信じていた。しかしきみは絶望のふちで、生きたいと願った。
その勇気が、きみを彼女に出会わせた。彼女はきみにいう。本当の希望は、誰かが支配のために語る偽りの、見せかけのではない希望は、絶望の先にある。いまとはちがう夢をみよう。
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