【ガンバ大阪】彼はレフティーでスプリンターでファイターで新しいチャレンジをしている

お疲れ様です。前回の更新が8月28日。ガンバ大阪トップチームは、
8月29日vsFC東京@パナスタを1-3で敗戦
ビルドアップのミス、パスミスによる速攻を3回決められて負けてしまう形の嫌な負け方をして、直近3試合で1分2敗と完全に停滞。さらに、ガンバサポのSNS界隈が藤春についてざわついている。ここ数試合、失点に直結するボール扱いのミス、ファウルを繰り返している。特に、直近のFC東京戦については、PKを奪われるきっかけとなるボールロスト(スローインのミス)に関わったことと、3失点目のきっかけとなるボールロスト(パスミス)があり、彼に対する批判が起こっている。しかし、1試合だけでなく、複数の試合で連続して失点に関わっているのに起用され続けているのはなぜだろうかという議論はなく、「ミスが続いている=へたくそ=起用しているのはおかしい」の考えも出てきているので、一度、藤春廣輝という選手についておさらいしながら、ガンバのトップチームの変化について考えてみようと思う。

藤春とはどんな選手か

①スプリンター
彼は俊足である。スプリント回数に注目が集まるが、彼の場合、スプリントの基準の速度に到達するスピードが速い(初速)のでスプリント回数が稼げているのかもしれないが、なんにせよ速い。スラムダンクで魚住に田岡監督は「技術は教えられるが背の高さは教えられない」といった。足の速さも同じだ。走り方の技術は教えられても、最高速度の限界は人それぞれだ。

②繰り返しのスプリントを90分間で繰り返せる献身
前述したが、足が速いだけでなく、とにかく一生懸命絶えず強度の高いスプリントを繰り返す体力がすごい。足が速くても繰り返せない選手も多いが、彼はとにかく最後まで繰り返す。愚直に。頑張れることも才能だ。

③平面での一対一の守備の強さ
スピード、初速の速さを活かして、一対一の守備で負けることがない。ドリブルで抜かれそうになっても最後まで食らいついて自由を与えない強さがある。これはプロ入りしてから経験を重ねて得た能力。指導と努力で強みを作った好事例だ。

④スピードを活かした攻撃参加とラストパス、得点への関与
初速だけでなく、そのスピードを維持して長い距離を走れるのも彼のすごさだ。タイミングとスピードを活かしてペナルティエリアに走り込み、ワンタッチ、ツータッチのシンプルなプレーででアシストをしたり、時には得点を決めることができる。チャンピオンシップの浦和戦の延長戦の右足でのボレーは彼を象徴するプレーだ。

⑤ボールスキルの不足
ガンバの他の選手と比較するとになるが、ボールを扱うときのスキルが不足している。他の選手が前を向く状況でも後ろを向いてしまったりする光景にストレスを感じる。ただ、ガンバ以外の選手と比較するとそこまで見劣りしないのかもしれない。

⑥パスワークへのかかわり方が苦手
これまでのプレースタイルから、ビルドアップに関与することは少なかったため、中盤でボールを受けて斜め前方にパスを入れたり、ハーフスペースに立ってパス回しに関与することは不得手。トレーニングで改善されているが、不得手であることは確かだ。

⑦単独でのドリブル突破が苦手意識
ボールを持った時一対一のドリブルの仕掛けには苦手意識があるようだ。アタッキングサードでボールを持ちながら相手DFと対峙したときにも後ろの選手にパスしてしまうことがある。できないわけではないので、確実に突破できる瞬間は見逃さないのだけど・・・

宮本監督就任までの藤春と就任以降の藤春

①西野監督時代~松波監督時代
安田、下平、藤春という年齢の近い左SBが10年ほど前にガンバにそろっていた。安田・下平はアカデミー出身のため、ボールを扱う技術に秀で、安田はドリブル突破、下平は正確な左足のキックを活かしたビルドアップへの関与で美しさがあった。しかし、藤春は彼らにないスピードで対抗した。安田の海外移籍で下平と藤春のレギュラー争いになり、最終的に西野監督がチョイスしたのが藤春。下平も移籍することになる。左サイドバックの一番手となった彼だが、経験の不足と技術、守備能力の弱点を突かれたのが2012年。降格の戦犯的な扱いを受けていたようにも思う。ただ、この時でもJ1クラブからのオファーはあったらしいので、当時でも十分評価は高かったようでもある。

②長谷川健太監督時代
2013年、長谷川監督就任後、守備の仕方を叩きこまれることになる。いつの間にか、スピードを活かした平面でのディフェンスは彼の長所となった。攻撃への関与については、シンプルに走ることに徹底されていた。五輪代表にも選ばれるほどに成長し、Jリーグの中で屈指の左SBという評価は得た。2013年はJ2優勝、2014年の天皇杯優勝、2015シーズンの優勝争い、天皇杯優勝に貢献してくれた。

③宮本監督就任以降(3-1-4-2、5-3-2)

2019年に宮本監督が3CBを導入することで、求められるプレーに変化が起きた。守備局面で求められることは変わらない。しかし攻撃で、これまでより相手ゴールに近いウイングポジションに入り、大外レーンの左サイドでパスワークに関与する頻度と役割の重要性が高まった。また、相手最終ラインに入り込み、右サイドからの攻撃にボレーで合わせるためのの駆け引きもすることになった。これまでの単純な攻撃参加から、求められる役割が多様かつ複雑で頭を使うように変化が起きている。先述したの彼の苦手なボールスキルとパスワークへの関与が求められる。それでも、この変化に彼も何とか順応しようとしているし、32歳になる今でも成長の跡が見える。サッカー選手、30歳を超えてもうまくなれるのだと感じさせてくれる。しかし、求められるレベル(小野瀬や高尾のように)でこなせているわけではないというのが現状だ。

現有の戦力の中で藤春は何が秀でている?

簡単ではあるが今ガンバの左WB候補の小野、福田、黒川と比較してみたいと思う。どうして藤春が継続してスタメン起用されているのだろうか。

①ボールスキル
藤春はこの点で少し他の選手と見劣りする面がある。
②新戦術への適応性(ビルドアップ、パスワーク)
普通に考えたら厳しい。これまでの成長・育成過程が違うからだ。でも、試合と練習で乗り越えるべくチャレンジ成長できる要素。
③個の守備スキル
これは候補の中で一番強い。求められるのが攻撃の役割の比重が高いのか、そうでないのかが、これまで藤春が起用されている理由のように感じる。
④個の攻撃スキル
単独での突破力は小野、福田に優位性がある。この点でも藤春は弱いかもしれない。
⑤J1での経験値
ダントツで藤春が優位だ。小野が対抗できるか。福田、黒川が起用されるなら、それは将来への投資に近い。

今後の藤春の起用についてどうなるかは宮本監督はじめコーチングスタッフの判断事項であり、その判断を尊重したい。これまでは上記で記した③と⑤の要素を重視しつつ②の要素を高めるために、出場機会を与えているのだと思う。その点については私自身十分に納得できる。今後も起用されるのも納得いく。藤春の頭の中が過負荷で整理されていないのであれば、一度お休みさせることも必要かもしれないし、年齢的なことを考えて成長の限界と判断する可能性もあるかもしれない(9月から来季の編成に向けた交渉は始まる)。彼のミスは批判されても仕方がないが、彼が新しいチャレンジをしていることは理解しないといけない。そして、他の選手が藤春のポジションで起用されるのであれば、「ミスが多いから」なんていう短期的な課題解決ではなく、「このポイントとぽのポイントを活かしてチームに変化をもたらしたい」くらいのビジョンが必要だと思う。藤春を起用できなくなるくらいの理由が必要だ。将来のことはわからないけれど、とにもかくにも、これまで、彼がガンバにもたらしてくれたタイトル、感動などは何事にも代えられないものであることは忘れてはいけないことは改めて強調したい。

今、ガンバ大阪に何が起きているのか(まとめにかえて)

ここ数試合発生している藤春のミスは、ガンバ大阪が変化しようとしているが故の「歪」が藤春に寄せ集まっているように感じている。ポジションの取り方、ボール保持のやり方、ボールを捨てない意識、簡単なクリアはしない、両サイドでつくる三角形・菱形のローテーション、奪われたら前からプレッシングをする・・・今まで取り組んだことのない選手にはかなり難しいことだろう。うまく順応できない選手も確かにいる。実際、昌子も東口も毎試合かなりびっくりなミスをしている、宇佐美も位置取りがおかしいときがある。各選手それぞれにチームの取り組みに対して課題がある。夏場の暑さの中で頭もぼーっとしてしまうし、筋肉だけでなく内臓の疲労もあるはずだ。勝ててないもどかしさはメンタルの疲労も招いてさらに疲弊していくだろう。今のガンバは変化するためのチャレンジ(特にDFラインでのビルドアップ)を、暑くて頭も動かない中でかなり強引にやっているように見える。無理をしない選択もある中でやっているということは、強い信念をもって新しいチャレンジに価値を見出しているということなのだろう。
乗り越えた先にたどり着くのは、ここ数年U23チームが見せてる丁寧でしっかりしたサッカーのはずだ。ビルドアップが安定し、ゴール前で崩しの連携パターンも増える。奪われてもすぐに反応しプレッシングでボールを奪い返す。奪い返せず撤退したときも守備は3CBを中心にボールを奪いきってつなぐ。攻撃能力が高い選手が揃えば速攻の精度も自然と高くなる。こんなチームになる姿を描いているはずだ。

12試合を消化して勝ち点20。優勝するためには試合数×2+αの勝ち点が必要。9月の6試合で全勝しないといけない状況になってしまっている。首位の川崎は14試合で勝ち点35ととんでもないペースで勝ち点を積み上げている。今季の優勝勝ち点は70を超えそうだ。残り22試合で勝ち点最低50。かなり難しいミッションになってしまっているが、チーム戦術の向上と勝利を追い求めながら、優勝をあきらめず、応援していきたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?