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BDRは日本の営業のメインストリームになっていくのか?という問いを考えてみる

こんにちは。MagicMomentでBDRを担当しております、渡邊と言います。ここ3ヶ月ほど、BDRの活動にめっこり入っていたので、前回とはまた違った視点で、というか続編かもしれませんが、BDRというロールについて考えてみたことをまとめてみようと思います。GWラスト2日のお暇のお供に、お読みいただけたら嬉しいです。

BDRとは?

本日のテーマとなるBDRですが、まだまだ日本では馴染みのない職種だったりもするので、一般的な定義などをお伝えできればと思います。

BDRとは、「Business Development Representative」の略で、アウトバウンド重視のインサイドセールスのスタイルです。マーケティングリードに対してアクティビティを実行するSDRとは異なり、ほとんどリード情報がない状態から、ありとあらゆる手段を用いてターゲットリードにリーチし商談機会を創出します。また、ひたすら代表電話やフォームにメールを送りまくるのとも少し異なり、手紙や冊子の送付、SNSや名刺情報も活用しながら、幅広い手段で効率的に商談機会を創出しにいく活動になります。

ちなみに、ForcasさんのwebinarがBDRの全体感を理解するのに、結構秀逸でした。再放送が5/10にあるみたいなので、まだご覧になっていない方は是非↓

さまざまなサービス・テクノロジーによって効率化は以前よりできるようになったとはいえ、コールドコールに近いこの手法を取り入れる企業が増えているのはなぜか、メリットデメリットを整理していきましょう。


メリット1:非連続な成果創出に向けて、狙った企業・人にピンポイントでアプローチできる

「この企業のこの人!」と決めたターゲットにピンポイントでアプローチできることが最大のメリットです。SDRではマーケ担当がターゲットを決め、コンテンツや広告の出面でできるだけコントロールしにいきますが、狙った企業をバイネームで、しかも自社製品を検討してもらえる方のリード創出するのはとても難易度が高いです。そういった意味で、市場開拓戦略におけるABM(Account Based Marketing)と非常に相性がよい手法になります。

この「ピンポイントでアプローチ可能」という点が非常に重要で、SaaSにおいて重要なID数に紐づく管掌組織の人員数がとても大きくなったり、決裁可能金額が大きくなる部長役員以上のレイヤーを狙いに行けたりするということが、非連続な成果を生み出すことにつながります。例えば、普段マーケリードから創出される商談での導入ID数が平均して30だとした時に、10万人規模の大企業と商談機会がどれだけ価値が高いかは明白でしょう。


メリット2:戦略の要となり、リソースをコントロールできる

自らリードジェネレーションをするため、SDRのようにリード量と質をマーケに依存することなく商談数を調整することが可能です。イメージとして、SDRは商談数をQualified条件を変えながらコントロールするので、フィールドセールスの工数調整は可能ですが、あくまでマーケリードの質が上限となるため、商談のディールサイズのコントロール範囲は小さい。一方で、BDRはターゲット次第でディールサイズまでコントロール可能になるため、下記のようにCSの工数まで含めてコントロール可能となるわけです。


例:1000万の受注をした時のCSのオンボード工数を下記の仮定のもと試算

SMB1社あたり:10時間
エンタープライズ1社あたり:30時間

Aパターン
社単50万でSMBを20社受注した場合→20社*10h=200時間
Bパターン
社単250万でエンタープライズを4社受注した場合→4社*30h=120時間
→80時間のCS工数削減


もちろん、商材やリードタイムにもよるかと思いますが、往々にして上記のようにエンタープライズでの導入工数のほうが、受注金額に対して少なくできるといえると思います。また、ターゲットとしてこちらから選定しているが故、シャープに価値訴求できフィールドセールスの説明コストも減り、導入時の価値創出もしやすい顧客を選んでいるので、結果的にチャーンが少なくなるという側面もあります。したがって、フィールドセールスのみならずCSのリソースまでコントロールの範囲を広げられるというのがBDRのよいところであり、戦略の要として機能させることが可能になります。

メリット3:リードタイムを短くできる

BDRの創出した商談は、リードタイムを短くすることが可能です。現場担当から案件をボトムアップで進めていった場合と、経営からトップダウンで進めた案件でどちらの方が進捗が早いかを想像していただければ、明白かと思います。

そして、意外と見落とされがちな点として、リードタイムが短いということは、生産性がその分上がるといえます。例えば、リードタイムが3ヶ月から1.5ヶ月へと短縮され、一人が保持できるパイプラインが10件/月だとすると、3ヶ月合計で保持できるパイプラインは短縮前の10件から短縮後は20件へと、倍増します。このときクローズレートが一定であれば、受注も倍になるというわけです。

デメリット1:商談機会の獲得難易度が高い

下記理由において、商談機会の創出は非常に難易度が高く、それだけ専門性が高いアプローチ手法であるともいえます。

①リード情報がない
役員以上を狙う場合は部署名と名前はわかるのですが、部長レイヤーともなると、公開情報としてない名前すらわからないところからのスタートになります。過去の名刺情報、リード情報、LinkedinなどのSNSで名前を検索するところから始め、徐々にリーチ手段を作りながら組織図を埋めていきます。初めてアプローチする企業へは、その蓄積がないところからのスタートになるため、アクティビティよりもリサーチに膨大な時間がとられることになります。

②大企業の経営層の琴線を動かすメッセージを作ることが難しい
大企業の経営層は、パーパスやMVVなど、抽象度の高い議論を日々行いながら、会社の中長期の戦略を決めている人たちです。一方で、BDRはまだインサイドセールスのいち形態として組成され始めた組織であることから、若いメンバーの方が多いというのも特徴です。これまで経営層の観点に触れることが少なかったメンバーからすると、経営層の抱えている経営アジェンダに想像すらつかないケースもよくあるでしょう。メッセージに落とす時も、抽象度が合わない時点で、日々膨大な意思決定や情報の海にいる彼らは、途端に読む気が失せてしまいます。例えば、「CRMのこれこれのこういう機能が使いづらいので、僕らだとこれこれこうやってそれを解決します」という細かい具体の話は、そもそも経営層も理解していないですし、興味もない話だったりするわけです。

また、彼らは何十年もかけて社内を渡り歩き、競争を勝ち抜いてきたため、社内のさまざまな立場の人の視点から、提案を捉えることができ、複数の立場の目線を想定しながら価値を訴求しなければ、そもそも商談の場すら持てなくなってしまうのです。

個人的には、経営の経験や、経営層との折衝経験が一定以上ある方がBDRに向いていると思っているのですが、なかなかそういった方がインサイドセールスに従事されることは少ないなあと思ったりしています。

デメリット2:ビジネスモデルによってはコストが高く合わない

上記のように難易度が高い手法のため、必然的に1Repあたりの獲得できる商談数は減ってしまいます。言い換えると、1商談あたりの獲得コストが高いともいえるわけです。一定の商談数を担保するには、Repの数を増やすか、スキルの高いBDRを雇用・アサインしていく必要がありますが、その分給与は高くなるでしょう。

メリット1で示したような、ターゲティングによって非連続な成長が難しいビジネスモデルの場合には、コストのほうが大きくなりペイしないともいえます。例えば、買い切り型で単価が安いビジネス。どれだけ会社規模が大きくても、使う部門が限られていたり、ユーザーID数に課金体系が紐づかないケース。こうした場合においては、SDR型で獲得する商談とディールサイズで差をつけることができず、獲得コストの増分に見合うだけの売上を作ることは難しいでしょう。

こういった場合は、マーケドリブンでどんどんリードジェンして、SDRが高速で商談機会を創出していったほうがROIが高くなります。

米国におけるBDRの広がりについて

Indeedでサンフランシスコエリアでのjobを検索すると、2022年の5月4日時点で下記のようになります。(注:Inside Sales RepをSDRとしていますので、解釈が間違っていればだれか教えてください。。。)

BDR:3,405 job openings Average $71,596 per year
SDR:459 job openings Average $63,505 per year
Account Executive:2,544 job openings Average $94,044 per year

Indeed San Francisco, CA でのSalary検索結果

AEよりもニーズが高く、SDRよりも1割近く基本給が高い形になります。
コミッションを含めると1,100万近い給与がBDRに支払われている形になります。

たとえPLG組織であってもSalesの採用は強化されている


すこしBDRと論点がずれますが、営業組織をほぼ持たないPLG組織であっても、セールスの採用を強化しているというCRO HackさんのNoteがありましたのでここに記載しておきます。何が言いたいのかというと、米国で進んでいるIPO済のPLG組織であっても、複雑なエンタープライズセールスや、新顧客・新市場の開拓においてはSalesの力が必要ということ(このあたりは前回のnote「逆説のSLG」で書いた内容とも合致しています)で、BDRのニーズはどんどんと増加していくのではと推察しています。

CRO HackのNote記事より。実に45%のPLG組織が営業採用を強化している。

日本においてBDRは広がるのか?

さて、では日本においては米国同様にBDRという存在は広がっていくのでしょうか。デメリットの2で書いた、ビジネスモデルや市場開拓戦略によってこのあたりは変わってきそうです。

スタートアップ

まず、全体感としてスタートアップへの人材流入は増えていくことから、それに伴い営業人材も増えていくと推察されます。スタートアップへの人材紹介事業を行っているforStartupsの決算資料によると、CAGR25%の高成長を見込んでいる形になります。

for startups FY22Q3決算説明会資料より引用

その上で、大企業も含めたSaaS市場はCAGR+23%という高い成長で依然拡大していくことが予測されています。スタートアップの多くもここに参入していくとすると、SaaS営業のメインストリームがどんな形になるのか?を考えていくのが良さそうです。

クラウドサービス別のパブリッククラウド市場の調査結果(出典:富士キメラ総研)2021.7より引用


顧客と事業の特性を踏まえ、主とする営業戦略とインサイドセールスの体制の組み合わせを分類するとこんな感じになるのではと考えています。

ざっくり区分けすると、こんな戦略が主流なのではなかろうか(筆者作)


ここで、先述したメリデメを踏まえると、BDRがワークするのは、Enterprise*BtoB Salesのセグメントと言えそうです。(複雑になるので一旦単一事業のみで想定してます)

One Capital 「Japan SaaS Insights 2022」より引用

OneCapitalの国内SaaS予測によると、Vertical SaaSがこれから成長していくと予測されています。マーケティング戦略上は、業界のセンターピンとなる大手のロゴを獲得してからSMBへというのが定石ですから、まずはEnterprise*Verticalというセグメントは活性しそうと考えられます。

また、Horizontal SaaSは買収により、買収先のクロスセル商材として成長していくと考えられます。PLGで獲得したアカウントに対してであれば、同様にPLGで拡販していく戦略も考えられますが、国内SaaSにおいてPLGで成長したスタートアップはまだ限られているため、多くはEnterprise*Horizontalというセグメントからになるのではと思います。

故に、Enterprise*BtoB Salesのセグメントは成長を続けていくのではないかと考えています。結論として、現状のトレンドにおいては、スタートアップにおけるBDRの重要性は増していくのではないかと考えられます。

大企業

では、大企業においてはどうでしょうか。
彼らの直近の大きなアジェンダは「DX」になりますが、一口にDXといってもさまざまな施策があり、営業現場におけるDXに絞っていくつかのパターンを考えてみましょう。

まず、前提として大企業というものは複数の事業をすでに持っています。それぞれの事業が、スタートアップのところで掲出したような、営業が対峙している顧客の属性を持っていますが、Horizontalな事業を一つでも持っているか否かでDXの目指す性質が変わってくるように思います。

①Horizontalな事業を1つでももっている場合
Horizontalな事業が小さな新規事業で、検証段階という状態ではあてはまりませんが、基本的に単一事業として成立している場合、事業横断でのクロスセルを可能にするためのDXを志向していくと考えられます。往々にして、それぞれの事業が独自に構築してしまったCRM/SFAを一度再構成し、事業を跨いで相互にアカウントへの営業が可能になるように、情報の整理を行なっていきます。

②Horizontalな事業をもっていない場合
メイン事業の周辺領域となる事業をつくっていくという流れになるので、それら新プロダクトを効率よく販売していくための、営業の業務支援という文脈が強くなります。CRM/SFAの使い勝手を良くする、ツールやナレッジマネジメントの仕組みを強化する、既存事業のデータから新事業の提案筋を見いだす、などがその一例になります。

もちろん、そもそもCRM/SFAが未導入といった状況もあるかと思いますが、基本的にはこの20年一定の浸透がされている前提とすると、こういった方向感になるのではないでしょうか。

BDRの需要は高まるのか?
その上で、営業のケイパビリティに着目していきます。
②の場合、既存の営業にドメイン知識に基づいた関係性がしっかりとあるため、顧客接点としての営業は変えずに、新しいプロダクトをどんどん営業していくような流れになります。この時、既存顧客への営業がメインとなり、新規顧客の開拓は片手間となっていくため、BDRの需要はそこまで高くないかもしれません。

いわゆるTheMODEL型で効率化を、という大企業も多いと思うのですが、顧客にとってはコミュニケーションコストが増えることになりますので、結果的に1人の営業で案内をした方が生産性が高くなるということになると思います。なので、1商談あたりの営業の案内工数をできるだけ減らしたり、そもそも商談数を多く取れるように営業を効率化していくというのがDXの流れになるわけです。

一方で、①の場合、これまでとまったく違う性質のプロダクトを案内することになるため、既存の営業にケイパビリティ装着するには多大な育成コストが発生します。故に、別の開拓組織を組成し、既存のリード情報と関係性を利用しながらも、新規開拓に近しい形で営業をするというモデルが成立し、ここにおいては新事業にとってはコールドリードとなるリード情報から、商談を創出していくBDRの需要が大きくなっていくのではないかと思います。

大企業は規模が大きくなればなるほど、Horizontalな事業を1つは持つでしょうから、②に該当する企業のほうが少数派となり、①に該当する、BDRの需要がこれから増えていく企業が大部分なのではないか、というのが私の見解になります。

結論:日本でもBDRはメインストリームになっていく

ここまで長文お読みいただきありがとうございました。結論、スタートアップ、大企業両方において、BDRの需要が高くなっていく、というのが私の見解になります。まだまだこれから盛り上がっていくBDR界隈、ぜひご注目ください!

また、弊社MagicMomentではそんなBDRの日本最高峰を目指して、日々お客様に向き合っております。これからぜっっったい需要が高くなる職種ですので、ご興味ある方、へーと思った方、ここまで読んでしまった方、ぜひぜひカジュアル面談でお待ちしております!

BDRの生産性をあげるためのTipsや取り組みはまた別のNoteで!お読みいただきありがとうございました!

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