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【インタビュー】がん発症で死を身近に意識したことが契機となり、作業療法士として個人事業を営むようになった寺井達也さん

  寺井さんは、自分の心の問題に向き合おうと大学で心理学を学んだ後、作業療法士になるための学校に入りなおし、現在は、作業療法士として働いています。 寺井さんは、高校受験を失敗したあたりから、対人緊張が強まり、外を歩いているだけでも誰かに見られているようで疲れてしまい、そうした自身の心の問題解決のために大学で心理学を学ぶことにしました。しかしカウンセラーになるにはさらに学びを深めるために学校に入りなおす必要があり、それは自身にとっては難しいと判断し、大学での学びを仕事に活かせそうな作業療法士になろうと決めます。作業療法士は、分厚い職業図鑑から見つけたのだそうです。

 作業療法士の学校を卒業後、老健で勤めることにしました。それには働く形態よりも働く場所へのこだわりがありました。これまで何度か訪れた広島県尾道の、時間がとまったような雰囲気や河のような海の景色に惹かれ、ここに住みたいと思うようになり、卒業後、結婚とともに広島県尾道に引っ越し、尾道の老健に勤めました。

 子どもが生まれたため、もともと住んでいた関西に戻り、現在に至ります。関西に戻って最初の仕事はデイサービスの管理者でした。そこは利用者が少なかったため利用者数を増やすことが使命でしたが、1年程度で成功したそうです。しかしそこでは作業療法士として働けないことを不満に思い作業療法士として働ける老健に勤めることにしました。しかしデイサービスでの成功により「天狗になって」しまい、その後勤めた職場では、自身の考えを強く主張したため職場内の対人関係がうまくいかなくなってしまいます。ある日、過呼吸を起こして救急車で運ばれる事態となりました。そして働き続けることができず自主退職をします。作業療法士として学んできたことへのこだわりと職場で勧められる仕事内容の齟齬に強いストレスを感じていたことも影響していたのではないかとご自身は捉えています。

 40歳を目前にして、個人事業として講師業を始めました。作業科学と認知行動療法をベースとし、生活リハビリと生活期のリハビリを主に扱い、認知行動ケアを提唱し、出版もなさっています。作業療法の考え方が介護職に活かせると思い、もっと連携できるツールがあったらよいとずっと考えてきて、ようやく今それを形にしようと行動しています。  
 その原動力となったのが、2021年に発症した直腸がんだったと言います。直腸がんのための入院中に今まで考え、書き溜めてきたものを本にしました。直腸がんは進行がんと言われ、リンパ節転移をしていたなか、死を強く意識したそうです。5年生存率が6割と説明を受け、大変辛い経験でしたが、病気をして一番に感じたことは死の身近さであり、これまでは決してそうではなかったが、やりたいことは即行動しようと思うようになったそうです。

 死を身近に感じた経験や、ストマを用いるようになった経験から、同じ経験を持つ人に気持ちを寄せられるようになったとも感じています。

 ストマについては、特に周囲からの偏見や差別を感じたことはないそうですが、皮膚のトラブルが多く、慣れるまでは大変だったと言います。お腹に肛門がある自身の裸の姿には、改造人間だな、これに慣れていかなければいけないのか…とずっと感じていたそうです。勝手に便が出てくるので嫌というほど便を見なければならないし、パウチに入る便の臭いが大変臭かったり、漏れたりすることの処理なども難儀なことだそうです。ただ今ではストマについての見方は大分変り、これまで患いがちだった痔や大腸炎に患わなくなったため、逆に恩恵もあると思うようになりました。

 今後は、個人事業を充実させたいと考えています。要介護・要支援状態にある人の健康や幸福を目指したいと思っています。講師事業として「生活リハビリプランナー養成講座」を企画しています。死を身近に意識したことで人生の大きな転換を促されたと繰り返し強調します。30代後半に人生に飽きた、もういっか、と思えたことがあったそうですが、がん発症により自分は死にたいわけではないことに気づかされたと言います。むしろ自身がやりたいと思ったことが弾けた感じ、と言います。がんは、しがらみではなく自分を大切にしようと強く思える契機になりました。今は20年後に自分が生きているか想像ができないと言います。「キャンサーギフト」という言葉があるそうですが、お話を伺うなかで、寺井さんにとってがんのご病気がまるでギフトのようなタイミングで訪れ、それは生きるためのがんだったのではないかと思いました。ですから、20年と言わず、30年、40年とご自身の思いを実現して頂きたい、お話を伺うなかで、それを楽しみに思いました。

寺井さんの運営する「高齢期リハケア研究会」HP

https://elderly-rehabilitation-care-erc.jimdosite.com/


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