見出し画像

暮らしの中で蚕を飼う

蚕の卵

蚕を飼っているというと「卵はどうするんですか?」という質問をよくされます。
蚕の卵は”蚕種(さんしゅ)”といい、専門の業者さんによって生産されています。卵をとるための親蚕(原蚕)は専門の養蚕農家に託され、繭の状態で業者が引き取り、採種されます。生産技術と管理のもとで良質な種が生産されているんですね。
養蚕農家へは孵化した状態で発送されます。

養蚕に興味を持ち始めた頃に話を伺っていたかつての養蚕農家さんが「種繭を育てたこともある」と自慢されていたのを思い出します。それだけ技術と責任が必要な仕事だったんでしょう。養蚕が盛んだった頃は、地域に「共同稚蚕飼育所」という専用の場所があり、そこで1齢〜2齢、または3齢までの蚕を共同で育てから各農家に配布したそうです。稚蚕は病気にかかりやすいこともあり、設備の整った飼育所で技術を持つ人が育てることで、経費や労力も節約できる合理的な方法だったそうです。

”蚕種”は、通常500粒の単位で取引され、私たちがお世話になっている養蚕師匠は、現在、春、夏、秋と年に2〜3回養蚕していらっしゃいますが、数は1回20,000程度。それでも大分少なくなったそうです。かつては年に何十万頭も飼ったとか。私たち”ノラオコツクバ”でもいつか多頭飼育をしたいという夢もありまあすが、、管理できる桑畑もまだまだ小さく飼育場所もないため、今のところは1回500〜1000頭、年に2回のペースでそれぞれの自宅で飼育。
それぞれリビングだったり客間だったり仕事場だったりですが、大体、畳1枚くらいのスペースがあると、無理なく飼育できます。日々の暮らしの中で仕事もしながら蚕を飼う様子をご紹介したいと思います。

*以下、虫の写真もありますので苦手な方はご注意ください*
ちなみに、夏休みの自由研究などで飼う場合には10〜30頭くらいのキットをネットで購入することもできます。

1齢から3齢まで

画像1


蚕は孵化してから約1ヶ月で繭をつくります。その間に4回の脱皮をして、その度に少しずつ大きくなります。卵はごま粒くらいの大きさ。孵化した小さな蚕を”毛蚕”といい、毛が生えていて黒っぽい色に見えます。桑の新芽を刻んでのセルと(桑つけ)すぐに食べ始めますが、最初は本当に小さいのであまり触らないように気をつけて、桑が乾燥してきたら新しい桑を刻んで与えます。1回目の脱皮は気が付かない間に終わっていることが多いです。
2齢もまだまだ小さい蚕ですが、少しずつ形がわかるようになります。2回目の脱皮が終わり3齢になると少し安心。食べる桑の量は少し増えてきます。

今回、3齢になるまでの約700頭を1箇所で飼育しましたが、2齢から箱を2つに分けました。3齢になると糞も大きくなり、1日に1回程度、飼育箱に溜まった食べ残りや糞を掃除します(除沙)。

画像2

4齢から5齢

家で蚕を飼うと、逃げ出したりしないかと心配される方がいますが、蚕は桑の葉を食べる以外に動くことはありません。桑の葉を探して動きますが、葉がなければその場にじっと止まってしまいます。なので、蓋がなくても逃げていく心配はありませんが、環境によっては桑の葉が乾燥しないように軽く蓋をしたり、空気穴を開けたラップを被せたりします。

4齢になると徐々に食べる量が多くなり、固い桑の葉でも大丈夫になります。掃除も朝晩と必要になってきます。この時点で各自に配布して手元に残ったのは約250頭。箱は3箱になりました。

画像3

5齢になると、食べる量はマックスです!
1日で100頭あたり800g食べます。

画像4

畑から各家まで朝晩通うのが難しいため、1度にできるだけの桑を収穫して、乾燥しないようにビニール袋などで保管します。気温にもよりますが、やはり1日に1回は収穫に行けるのがベストです。それが約1週間続きます。
糞やゴミ(葉脈や枝だけ残ります)も多くなり、朝晩、傍に桑とゴミ袋を用意して1時間くらいかけて掃除をします。自然と早起きになります(笑

蚕は湿気に弱いので、飼うのには通気性の良い素材が良いダンボールや竹籠が便利です。そこに新聞紙や薄紙を敷いて飼育しています。

画像5

5齢になると並行して蔟の準備をします。私たちは、農家さんから譲り受けた古い回転蔟と、自作の藁蔟、足りない場合には一年間溜めたトイレットペーパーの芯などを活用して準備します。真綿にするのが目的のため、玉繭が多くできるように大きめサイズの紙蔟も用意しました。

画像6

5齢8日目頃、早いお蚕が熟蚕になり始めます。この時期は養蚕農家さんも、私たちのような小規模養蚕家も一番忙しくなります。

画像7

熟したタイミングを見て(↑体が小さく透き通っていきます)お蚕を一斉に蔟に移すのですが、お蚕の成長具合が違うと何度かに分けなくてならないので数日目が離せなくなります。というのも、それまでお蚕は箱の中だけで外に這い出すことがないのですが、繭を作る場所を探して箱の隅や、箱の外にまで出てどんどん上に上っていきます。気がついたら天井付近にいたこともありました。
仕事中や夜間など目を離すときには蓋をしたり(そうすると蓋に繭を作ってしまったり)、蔟が宙に浮くように工夫してみたり。毎回試行錯誤しますが、この時だけは蚕優先です。無事に全部上族すると本当にホッとしますが、反面、寂しくなる瞬間でもあったり。。

画像9

画像10

10日ほどで蚕は蛹になります。その後は放っておくと羽化してしまうので、すぐに糸や真綿にするか、乾燥させて保管します。
私たちは、冷凍庫2日ほど冷凍して(ここで命をいただきます)から天日で干しています。乾燥の目安は重量が50%になるくらい。夏の陽射しでも数日かかりますが、アスファルトや車のフロントガラス付近が早い気がします(笑

画像8

あくまでも私たちが家で飼う場合の流れですので、養蚕農家さんが見たらびっくりするかもしれません。夏休みにお子さんと飼ってみるのもとても良い学びになると思いますし、大人の自由研究としてもとても楽しい♪
私たちが作った繭は秋までに真綿にする予定ですが、真綿かけはとても技術が必要で、こちらもまだまだ修行が続きます。

蚕が繭になるまでの様子を動画にまとめました。よろしければご覧ください。