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<府中・カフェ葡萄>をどう描いたか

新規ドキュメント 2020-01-16 13.34.25_2

<府中・カフェ葡萄> F4 ホワイトワトソン

なぜこの場所を選んだのか

 カフェはいわば都会のオアシスともいうべき存在で、いろんな形態があります。スターバックスに代表されるチェーン店、コーヒーにこだわる古くからのお店、店主の趣味が活かされたお店など、スケッチをする人なら、一度は気に入ったカフェのスケッチをしたいと思うに違いありません。

 今回取り上げた作品は、一昨年の暮れにアトリエの近くで開店したばかりのカフェ葡萄のランチスケッチです。

 私と同世代(私の方が少し上?)のご夫妻がコーヒーや給仕の担当を、ご子息が料理の担当と、一家をあげての開店です。奥様が集められた器や灯りなど室内には趣味のよいものがそろっていて、昔懐かしい洋楽が流れて居心地の良いお店です。

 本線描作品は、ランチのパスタと前に座ったお客の夫婦、そして注文を伺うご主人、カウンターでコーヒーの用意をする奥様を入れてスケッチしたものです。

どこから描き始めたのか

 目の前の机と机の上の料理から描き始めました。描いた順番を下の図に示します。

最初

 一番初めに、机の左右のリンカク線を引きました。次章の線遠近法で詳しく述べますので、ここでは省略します。以下、机の上の料理と器などを描いた順番に説明します。(赤の数字で順番を示します)

 1.サラダの葉、スライスしたタマネギなどを線描。手前の葉から奥へ描  
   いていきます。レタスの葉は、折れ曲がった様子、葉脈もよく観察し  
   て描きました。
 2.次にお皿。楕円の輪郭線を引きますが、手前の部分が紙からはみ出し
   そうになっても無理やり収めようとはせず、途中の輪郭線で止めま
   す。なお、皿の厚みの部分を皿の手前の輪郭線に沿って引きます。
 3.右横のスープカップを描きます。取っ手の部分は慎重に。スープの中
   に浮いている具材も線描します。
 4.次にスプーンとフォークを描きました。スープの手前なので、こちら
   を先に描いてもよかったのですが、全体の形が見えているスープを先 
   にしました。
 5.スープの後ろのタバスコは胴体が丸いことを示すようにラベルの輪郭
   を描きます。
 6.サラダの奥のスパゲッティーの線描に移ります。トッピングのひき肉
   入りのソースと裾にはみ出している面を描きます。
 7.サラダのお皿と同じように描きます。
 8.メニュー表は、机の端と平行に置かれているので、机と同じ線遠近法
   に従うことに注意して描きます。
 9.料金表も同じく机の端と平行に置かれているので、机と同じ線遠近法
   に従うことに注視して描きます。なお、メニューや料金表の文字は、
   必ずしも読めるように描く必要はありません。文字が書いてあること
   が分かるように描く程度でも構いません。

遠近法を使ってどのように描いたらよいのか

 静物画のように至近距離を描く場合は、遠近法を意識せず描くことが出来ますが、野外はもちろん、室内といえども、空間の拡がりを描くことになるので、遠近法を使わざるを得ません。

 今回適用した線遠近法を下の全体図を使って説明します。

線遠近法(目線)

 私の座っている位置が黄色い縦の線です。一方、私の目線の高さは、前に座っている男性の目の高さとほぼ同じ、オレンジの横線になります。

 ですので室内の奥行きに対して平行のすべての輪郭線は、オレンジと黄色の線の交点、すなわち消失点に向かいます。

 ところで、冒頭に述べた、最初に引いた線机の左右の輪郭線です。実は、その輪郭線は、本来の消失点ではなく少し上に向かっています。

 その理由は、目の前の机を正確な線遠近法を用いて描くと、このF4サイズの水彩紙の中には入り切らないのです。私が座っている机の前の水平の輪郭線しか入りません。

 そもそも、室内を目で見える通りの線遠近法で描くとF4には室内の一部しか描けません。そこで室内が広く描けるようにかなり遠近感を強くして、ぎゅっと押し込んでいます。すなわち広角レンズのような目で描いているのです。それは右上の天井近くの棚や天井の右の輪郭線が、急角度で消失点に向かっていることからお分かりになると思います。

 さて机の輪郭線ですが、左右の輪郭線が入らない上に、料理や机の上の物が全部描けないので、少し上向きに絵の左右の線を引き、机の上の物がかなり入るようにしました。

 しかし、上向きにしすぎると、机の面が坂道のようになり不自然なので、ぎりぎりのところで止めています。

お皿の食べ物、食器類はどのように描いたらよいか

 ペンで物の輪郭を描くという点では、料理を描く場合も特別違いはありません。例えば、この絵のサラダでいえば、まずサラダ本体から描き始めます。

最初

 手前にあるサラダの具(サラダ菜やタマネギのスライスなど)から描き始め、その後ろの具へと描き進めます。お皿の上の野菜や果物の静物画を描くのと同じ要領です。

 特に気を付けたいのは、サラダ本体を描き終わった後のお皿の輪郭線の描写です。

 この絵の場合、お皿全体の輪郭線は、サラダ本体で隠れていないので、楕円形になるようお皿を描けばよいのですが、料理が高く盛り付けられているとお皿のリンカク線が隠れる場合があります。

 その場合に、実物を見て描くと、見えている現実の位置から描き始め、最後の輪郭の終点も現実に見えている位置で描写を止めることになります。するとよく見て描いたのに、往々にしてお皿の形が不自然になることがあります。

 その原因は、お皿の中の料理を描くときに、必ずずれが生じるからです。そのずれた描写をもとに現実の料理とお皿の輪郭線の関係と同じように描くと、料理がずれているので、結果的にお皿との関係もずれてしまうのです。

 この辺りは文章でお伝えするのが難しいので、基礎編「お皿に盛った野菜果物の描き方」で、事例をあげて解説する予定です。

 同じことは、サラダの皿の後ろのパスタの描き方にも言えます。

 サラダの右側のスープのカップの線描で気を付けなければならないのは、取っ手の部分です。
 ときどき、厚みがまったく感じられない取っ手の線描を見かけるときがあります。
 やはり事前に取っ手を持つ器の線描の練習をしてコツをつかんでおいたほうが良いでしょう。スプーン、フォークやビン類(ここではタバスコ)も、人工物ですので、厚み、立体の造形を描くための練習が必要です。

 机の線描で大事なのは、木目の線描です。木目は絵を見る人に癒しを与える効果があるように思います。私の場合、少々見えにくくても丁寧に木目を描くことにしています。

机、椅子はどのように描いたらよいか

 机の上の物を描いた後は、自分の机の対面にある椅子(脱いだ服も)、前面のお客(奥さん)が座っている椅子、右側のカウンターに並んでいる椅子を描きました。

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 椅子も人工物ですので、座るという目的(機能)のための形であることをよく理解して描きます。また木材という材料でできているので、その厚みを描くことも忘れないようにします(脚や背もたれの部分の厚み)。
 カウンター前に並んだ椅子は、手前から奥に向けて線遠近法に従って描いています。

人物はどのように描いたらよいか(お客とマスター夫妻)

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 お客の夫妻の内、後ろ向きでほとんど動きがない奥さんの方を最初に描きます。次に、カフェのマスターが給仕に来て、少し前かがみになりながら、男性のお客とやり取りしている間に線描します。まず手前のマスターの姿を描き、次に男性客です。

 人物を描くときによく起こる失敗は、顔に注目するあまり、頭を大きく描いてしまうことです。比率をよく頭に入れて、大きくならないように線描します。

 カウンター内のマスター夫妻の奥様については、次の章で説明します。

カウンター、タイル、天井の食器棚と正面の壁、天井をどのように描いたか

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 手前から奥へ向かうカウンター板の輪郭線と壁面に貼られたタイルの配列、そして食器棚の手前から奥への輪郭線は、三章の図で示した線遠近法の消失点に向かうように線を引きます。

 タイルの目地は、一番手前の壁に貼られたものだけを描きました。食器棚の前面扉に描かれた絵(文字)と正面天井近くに置かれた黒板に描かれた絵(文字)を丁寧に線描します。

 カウンター内部でコーヒーを淹れていている奥様を描きます。

最後に

 以上、カフェの料理と店内をどのような順に描いていったかを説明しました。次回は、天井照明は少なく、卓上照明を活かした店内の様子の彩色について紹介します。

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