<四条木屋町カフェフランソア前の路>線描をどう描いたか
はじめに
作品解説の2番目に全紙 <四条木屋町カフェフランソワ前の道路>
を取り上げます。
四条木屋町カフェフランソアの前の路 アルシュ 全紙
(1)なぜこの場所を選んだのか?
人にもよりますが、男性は建築物や構造物を好んで描く人が多いように思います。私もその一人で、特に歴史と郷愁を感じさせる近代建築に私は惹かれます。
京都の街スケッチの場合、やはり古い都らしく描く対象は寺社建築や町屋に人気があります。しかし有名な寺社建築や町屋の陰に隠れてそれほど注目されていませんが、実は近代建築の宝庫でもあります。
例えば、旧帝国博物館、同志社大学の校舎など明治から大正、昭和まで数多くの大きな近代建築が市内に集積しています。私の場合、同じ近代建築でも街を歩き回ってふと見つけた無名の建築物に心が動き描いてみたくなります。
今回取り上げたカフェフランソアは、こじんまりとしていますが、雰囲気のある戦前の建物です。四条木屋町の路地にあり、多くの観光客が行きかうところです。昔と変わらない街の風情と、インバウンド観光客がひしめく現代との対比を描きたくてこの場所を選びました。
(2)どこから描き始めたのか?
線描は、下描きをせず現場で直接描きます。
この絵の場合は、左手前の桜の幹と枝から描き始めました。早春なので、幹と枝しかありません。まず、下から上に向かって桜本体の幹の輪郭線を引きます。下から上に線を引くのは、下から上に樹木が成長するのに合わせているからです。
同じように多くの枝を幹から枝先に向かって線を引きます。なお、実物の枝の数に比べて枝の数は少なく描いています。絵がうるさくならないように細かい枝は間引いているのです。
好みは人それぞれですので、どこまで間引いて描くかは、作者の判断で決めるとよいと思います。
(3)建物はどのように描いたらよいか
左奥から中央のカフェ、右につらなる建物群がこの絵の主役です。
桜の樹木、サツキの植栽、桜の木の奥にある建物と電柱を描いた後、いよいよこれらの建物群を描きます。主役のカフェフランソアの建物の屋根の当たり点をつけます。同じく右隣の建物の屋根の線の当たり点をつけておきます。
まず、カフェフランソアからです。大きく腕を振り、屋根の線を左から右に向かって線描します。一階の境目の当たり点を付けた後、建物の左側の線を、屋根から一階地上に向けて線を引きます。
次に1階の境目の線を屋根と同様に左から右へ引きます。この時に、線遠近法を使い、屋根と一回の線は平行線ではなく、右側が開くように描きます。さらに建物の右側の縦の線を下に向かって引きます。
なお人物の描き方のところで説明しますが、今回の絵の場合、人物は先に描かず後で描き入れることにします。ですから、一階の部分はすぐに描かず、人物を描いてからにします。右隣りの建物もカフェと同じように2階部分を描いておきます。
このあと、カフェフランソアの左隣の建物、左奥の建物と描きます。(建物の窓、装飾の描き方は、(5)の章で触れます。)
最後に、カフェの建物の背後に見えるビルを描いて主要な建物を描き終わります。
(4)遠近法を使ってどのように描いたらよいか
この絵の場合は、建物の屋根、一階の境の横線、建物前の道路、歩道の敷石などが対象になります。
線を引き始める前に、自分の目線の水平線と、立ち位置を含む縦の直線を思い浮かべます。それぞれの線に対する角度と位置を推定して、まよわず線を引きます。
この絵ではカフェ及び右隣の建物の2階の屋根および一階の境の横線を遠近法を意識して線を引いています。しかし厳密に線遠近法を用いるのなら、この絵のように凸の曲線にはならず、まっすぐな線が放射状になるはずです。
(3)で述べたように、腕を大きく動かし、また顔を左から右へ回転させて描いたので、凸の曲線になっているのです。
さらに、建物の縦の線はまったく遠近法に従っていません。写真であれば建物の縦の線は、空の一点に向かって、狭まっていくはずです。
ところが、この絵では、描いている本人の位置から左側の縦線は、左に倒れ、右側の縦の線は右側に倒れて、むしろ天に向かって広がっています。その様子は、ビルの縦の線で顕著です。
その理由は、現場で実際に左の建物を描くときは、身体を左側に向け、右側の建物を描くときは右側に向けて描くからです。
(5)建物の装飾はどのように描いたらよいか
近代建築だけでなく、一般に建物を描くときには、窓や壁を飾る装飾物をよく観察して描くと絵に魅力が増します。近代建築の場合、建築家が好んで建物の装飾を含む設計をするので、これを活かして描くことが大切です。
装飾も含めて建物は人工物ですので、観察するときは必ず(素材)の厚みを意識します。線を引き始める前の手順が以下になります。
・最初に全体の形を輪郭線
・次に構成する素材の厚みを見る
・目線の高さ、立ち位置の縦線に対して、上下、左右を確認
し、素材の下の面が見えるのか、上の面が見えるのか、右の
面が見えるのか、左の面が見えるのか確認して線を引く。
人の目は線幅が1mm以下でも、ちきちんと見ていますので、幅が狭いからといって省略せず、線を引いたほうがよいです。見た人は立体を感じ、よりリアルに感じるはずです。
(6)樹木の葉はどのように描いているのか?
この絵では、左手前のサツキの植栽しか葉はありません。サツキの葉の特徴をよく頭に入れて、描きこみます。同じ葉を繰り返し描くのでよく見ないで反復して描きがちです。スタンプを押したようにな不自然さを感じさせないよう、現場で観察しながら細部を描きます。
(7)人物はどのように描くのか?
さて、この絵では、道路を行きかう人物像は、今現在の京都を表すうえで、大事な役割を演じています。写真を撮っている二人の女性、左に向かって歩いているカップルは、典型的な韓国人旅行者です。同じ木、着物姿の女性も観光客です。一方、戦前の和服姿の商家の若旦那(と推定)も、若い人に和服の人気が出てきた現代の日本を感じさせます。
これらの人物のうち、現場で描いたのは、遠くの人物と写真を撮りあっている韓国人女性観光客です。一方、韓国人カップルや和服の若旦那は、カメラで行きかう人を写真に撮った中から選びました。いかにも現代の京都を表す人を選んだわけです。
これらの人物を描いた後で、建物の1階部分を描きます。最後に、歩道
を描いて完成です。
おわりに
実際のペンの動きを見ずに、文章による説明では、なかなか理解しにくいかと思いますが、まずは、画像を拡大して文章を追ってみていただければと思います。
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