陰のイヤ 陽のイヤ

数年ぶりに両親と回転寿司へ行った。
金曜の夜だからか、家族連れでごった返していた。まあ数年ぶりだからこの混雑が非常事態なのかどうかは分からない。
タッチパネルでの受付を済ませると、吐き出された伝票には50分〜1時間後の案内になると印字されていた。待合スペースはおろか、二重扉の一枚目と二枚目の扉の間のスペースにも人が待ちぼうけしている。どうして回転寿司って二重扉が多いんだろう。そして扉に挟まれたスペースにはガチャガチャが並んでいるだけだったりする。あれは実家周辺だけの風景なんだろうか。

一人暮らしの家周辺の回転寿司屋がどうなっているかは知らない。
一人で回転寿司に行こうとは思わないし、誰かと外食することもあまりない。
私は人と食事をする楽しさがいまいち分からない。断ったら角が立つ場面なら応じるが、自分から誘うことはほぼゼロに等しい。
メニューを決めるまでの時間の長短とか食事のスピードとか相手がどれくらいマナーを気にするかとか、考えることが多くて疲れるからだ。なぜか自分に謎のミッションを課してしまうから緊張する。これに親密度は関わらない。
やよい軒に行ったら(丼ものより定食のがいいかしら)と相手がメニューを決める頃合いを見計らって適当な定食を注文し相手よりほんの少し早く食べ終わるように調節しながら食べ物を口に運ぶ。肝心の会話の内容も味も、なんなら自分が何を頼んだかもよく覚えていない。
一人の時は席に案内されたら即鉄火丼を頼んで、30分くらいボーッとしながら咀嚼している。30代男性の上司とのサシご飯がマジで苦痛だ。なんでよく喋るのにそんなに食べ終わるのが早いんだよ。

「車の中で待っていよう」と母が言った。父はンーとかなんとか声を発して駐車場に歩き出した。

記憶の中の父は30分以上待ちそうだと判断すると即座に店を変えたがっていた。一人暮らしをし始めて7年になるから、それより前かな。
父も年をとったな…と思いつつ車の中でポツポツ喋りながら1時間弱を過ごし、待合スペースに戻ってきた。
もう21時近かったのに、相変わらず家族連れは多い。小学生くらいの子が結構いた。
ふと、両親とも無言で壁のメニューを見ていることに気づいた。
「子ども多いね」と話しかけると、またンー…という返事の後に「うちの学区なんだよな」と父が言った。母はメニューを眺めながら首肯していた。
うちの両親は小学校教諭だ。

児童が教師に出くわすイヤさは「げーっ!」という"陽のイヤ"だが、教師が児童に出くわすイヤさは「アッ…」という"陰のイヤ"なのだと思う。

私にとっては掃除機をかけるイヤさが"陽"で、いっぱいになった掃除機のゴミパックを捨てるイヤさが"陰"だ。
ついでに人とご飯に行くイヤさは"陰"だ。

みんな日常生活にじっとりしたイヤさを飼いながら生活している。私も早く慣れなくては。


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