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高額医療機器の代償

 初診でCTを撮影する歯科医院が激増している。どうやら「有用性」が高いらしい。なぜ、やたらにCTをとるのか。大量の放射線被ばくのリスクを勘案しているのだろうか。出血したり外傷がなければ侵襲性が低いわけではない。

歯科医は手を止めると、器具を口から外し、横に置いたトレーに注意深くのせる。それからいすに深く腰かけて、状況を説明し始める。「クラックというのはね、歯のエナメル質に小さなひびが入っている状態のことです。でも心配ありませんよ、すばらしい治療法があるんです。CAD/CAMを使ってあなたにぴったりのクラウンをつくれば、それで問題解決です。やってみませんか。
あなたはちょっとためらうが、まったく痛みはないと聞いて、やってみることにする。何しろ歯科医にはむかしからお世話になっている。長年のうちには結構つらい処置もされたが、おおむねうまく治療してくれているようだ。

中略

さてここで指摘しておきたいのだがクラックというのは、簡単に言えば歯のエナメル質のほんのちょっとしたひびで、ほとんどが無症状だ。クラックがあってもまったく気にならない人が多い。そんなわけで、クラックに
はどんな処置も必要ないのが一般的だ。

CAD/CAM機器が発売されて数年たったころ、ミズーリ州のある歯科医が機器を購入した。
その瞬間から、歯科医のクラックを見る目が変わったようだという。「とにかく何にでもクラウンをかぶせたがった」とジムは言う。「何が何でも自分の新ピカの機器を使いたくなって、すてきなほほえみを手に入れませんかと、大勢の患者にもちかけたわけさ。もちろん最新式のCAD/CAM機器を使ってな」

「ずる 嘘とごまかしの行動経済学」 ダン・アリエリー著

 高額な医療機器を導入すると「使わない」ことができなくなる。
なんでもかんでも適応に見えるようになる。
その機器を導入したコストを回収する必要性が生じる。
ましてや、保険点数を高く請求できるとなると、使わない手はない。

有用性とはなんなのだろうか。
初診で、場合によっては問診の前にCTを撮影して、なにを診るのだろうか。
経営にとって有用ということなのか。

いずれにしろ、放射線被ばくは時限爆弾を埋め込むようなものだ。
その代償は、ずーーーっと後に致命傷となってやってくる。
そのリスクを上回る有用性が、初診のCTにあるのだろうか。

(ポスターを張るための)壁を買い切ったならば、そのスペースを埋めるために営業活動をしなければならない。そのための人材も必要だ。

企業コンサルタントというのは不思議で、こうすれば売上が上がるという例を盛んに吹き込もうとする。もちろん、それをすれば確かに数字の上では売上は上がるだろうが、継続させるためにどれほどの努力が必要なのかについての認識がほとんどない。

そもそも、手を広げれば売上は上がるというが、それに対する経費やリスクが多くなれば、安心して仕事に没頭することもできない。いくら稼げるかよりも、仕事をしていくら残せるかが大事だと思ったのだ。

結局のところ、自分の身の丈を超えてがんばったとしても、自分はもちろん、周りを苦しめることになるだけだ。

自分を騙してまで世間の価値観にあわせようとしていたら、いつになっても人に頼ったり甘えるだけだ。

「寺山修司とポスター貼りと。」 笹目浩之 著

 高額な医療機器を買うと、その費用を回収するために「コンサル」という名目の営業活動をしなければならなくなる。気の乗らない患者さんにも必死に説得することになる。

 CT
 インプラント治療機器の一式(オペ室含む)
 CAD/CAM装置
 レーザー治療

 高額な医療機器の多くは、それを導入することで売上が増えて儲かっている感じになる。
でも使い続けなければならない。

 例えば、インプラントは一度始めると辞めることができなくなる。蟻地獄に捕まったように、インプラントを打ち続けないと持続できなくなる。
もっと大きくすれば、もっと売上を増やせば楽になる、と勘違いし
広告を増やし、看板を乱立して、とにかく必死にインプラントをやり続ける。
でも、一向に楽にならない。
身の丈を超えて、がんばった先に何が待っているのだろうか。

私は身の丈を超えてがんばらないし、価値観の異なる治療はしない。
無理に治療を勧めることもしない。
「やらないほうがいい」って言うことの方が多い気がする。

高額医療機器の負担がないからこそ、それに束縛されることがない。
その医療機器、本当に必要ですか?


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