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TOKYOハンバーグ「浮雲兄弟」@ サンモールスタジオ

時折認知症がひどくなる、いわゆる“まだらぼけ”な父親と、コロナ感染症の影響で定職を失った息子。そんなふたりが暮らす家に突然現れるヤクザ者の兄。抗争で人を殺め、14年間の刑期を終えて帰ってきたが、組が解散して行き場がなく戻ってきたという。濃密なヒューマンドラマを描き出すTOKYOハンバーグの新作は登場人物がそんな3人だけの作品。しかも普段なら作・演出を担当する主宰の大西弘記が役者として参加し、演出には青年座の磯村純を迎えての上演となった。

カタギになったとはいえ元ヤクザが直面する“5年ルール”のせいで真っ当な仕事には就けないという兄はインターネットで「ユーチューバーで年収300万」という記事を見つけ、これで儲けようと弟に持ちかける。最初は拒む弟。しかし考えた末に兄を自閉症に仕立て上げ、家族の世話をする様子を記録した番組を作ることにする。自閉症を演じる事となり「生涯で一番勉強している」という程のリサーチを重ねる兄とカメラの前で健気な姿を見せつける弟。やがて彼らのチャンネルは評判を呼び順調に登録者を増すが、所詮は砂上の楼閣。ライブ配信中にいつの間にか外出して徘徊する父と、それを追いかけていった兄が目撃されたことで企みが露見し、チャンネルは大炎上してしまう。


そんな危なっかしい兄弟の姿を客席から追いながら、いつのまにかハラハラしている自分に気がついた。それほどに兄を演じる勝俣美秋と弟役の大西の様子が自然で観る者の感情に入り込んできたのだ。さらに正気と妄想を往き来する父親を演じる山本亘も絶妙だった。3人のやりとりの節々で笑いやウケを狙って過剰に彩るならいくらでもできたとは思うが、演出の磯村はその手は使わなかったのだろう。しかし、だからこそ観客の目線に降りてくる作品に仕上がったのだと思う。ともかく最後まで隙が無く、後半になればなるほど発する言葉が胸に刺さってくる。客席100人ほどの劇場での上演だったが。もっと大きな舞台で上演しても観客の心を掴む力は変わらないと思う。そんな可能性を感じさせる作品だった。

 TOKYOハンバーグProduce Vol.32

15th Anniversary サンモールスタジオ提携公演

13日まで

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