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ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』@日生劇場

元々はイスラエル・フランス・アメリカ合作のコメディ映画。それが舞台化されてブロードウェイに進出して2018年のトニー賞を10部門独占した話題作。実はとあるレコーディングの同行取材で2018年4月にNYを訪れた際、評判が高く在NYのエンジニアにも推薦されたので、ブロードウェイ版を観ていたのだった。その時はまさかホリプロが資本参加しているなどとは知らなかったので、日本での上演が発表されたのには結構驚かされた。
というのも、ある意味一般的なブロードウェイ・ミュージカルの印象からはだいぶ離れた作品だから。派手な群舞や華々しい舞台装置がある訳ではない。大きなハプニングは起きない。正直地味な作品かもしれない。でもキャストが発表されると期待値の方が心配を上回るようになる。職務に忠実で、ちょっと融通が利かない楽隊長に風間杜夫。そして突然やってきた音楽隊を受け入れ、派手な歓待はできないものの、気っ風良く宿を提供するカフェの女主人(そして妖艶な魅力を湛えた女主人)に濱田めぐみ。そしてちょっと調子のいい若き音楽隊員に新納慎也。まさにピッタリなキャスティングだ。


そしてこの作品、もう一つの特色は警察音楽隊が実際に舞台上で劇中音楽を生演奏するところだが、ブロードウェイ版では誰が演奏していたかまではわからなかったが、日本版ではそこに太田惠(vl)、梅津和時(reeds)、星 衛(vc)、常味裕司(ウード)、立岩潤三(ダルブッカ)がキャスティングされている。この凄い顔ぶれに開演前から勝手に盛り上がっていた。


舞台となるのはイスラエルのとある田舎町。そこにエジプトからの警察音楽隊が間違えてやってくることで物語がはじまる。ホテルなどないこの街で一夜を過ごすことになった音楽隊は3班に分かれて分宿するのだけど、そこでぎこちないながらもささやかな交流が生まれる。エジプトとイスラエルといえば長いこと対峙し続けているのだが、劇中でお互いを嫌悪する様子や、それぞれの政府を非難するようなシーンはない。アラビア語とヘブライ語の間に英語をおいてコミュニケーションをとり、音楽の話をカギにして打ち解けていく。それもジャズとかマイケル・ジャクソンとか、アメリカ音楽がそこに挟まるのが興味深い
実は今回、15日のマチネで観劇する予定だったのが、舞台機構の不良で中止となり、18日はその振り替えだった。ブロードウェイ版ではそれほど複雑な舞台ではなかったはずなので、他の理由でもあるのかと邪推したのだけど、実際に舞台を観たら納得。赤く塗られた金網のフェンスのようなものが中央の回転舞台に乗り、それが回転することで様々な風景(空港ロビー、女主人のカフェ、彼女の部屋、街角)を表現する。思い切り省略化された装置だが、その分想像力が刺激されて風景が浮かび上がる。これは見事だった。


もちろん俳優陣の好演も注目だったが、それについては他のメディアがちゃんと評するだろうから、ここでは前述した音楽隊について。まあこのメンバーなら本物以上に本物を聞かせてくれるだろうが、実際にはそれ以上だった。せっかく舞台上に出てきて演奏しても、ブロードウェイ版ではあくまでも添え物の印象だった音楽が、活き活きと舞台を彩っていた。面白いのはカーテンコール後に1曲演奏を披露してくれるのだけど、その時など皆さんもうノリノリですよ(笑)。実は中止になった15日はお詫びも兼ねてピロティで2曲披露したのだけど、この時も思い切りノリノリだった。

もう残り公演は少ないのだけど、いろいろな意味で見ておいて損はない作品だと思う。もちろん風間、濱田、新納ほか役者陣のファンの中には、なんだか地味な話だと想われる方もいるかもしれない。でも俳優の向こうにいる登場人物をじっくり見つめると、この作品が訴えかけるものがきっと見えてくるはずだ。

それにしても、この数年ホリプロのラインナップは『パレード』『ビリー・エリオット』『生きる』『血の婚礼』など、ただのエンタテインメントではなく、いろいろと考える要素を含んだ作品が続いているのは非常に興味深い。これからのラインナップにも注目したい。(2月18日 マチネ)
(写真撮影:渡部孝弘 提供 ホリプロステージ)


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