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9年間好きだった人を結婚式に呼んだ話


9年間の恋にケリをつけた数ヶ月後、俺は気持ちを切り替え(完全ではなかったが)、別の女性と付き合い始め、2年後に入籍した。
9年好きだった彼女とは全然違うタイプの女性だけど、一緒に居て凄く居心地が良く、気を遣わずに済むのでこういう女性と一緒になれて本当に幸せだなと思う。

この2年間の間にも、彼女とは大学の部活仲間とやるBBQや結婚式で何度か会っていた。
ただ、向こうも気まずさがあるのだろう、話はするけどあまり続かず、避けられてるような感じはずっとあった。

転機となったのは俺が入籍する直前の時期に、部活仲間とやったBBQの時だった。
この1年間は結構会う回数が多かったので、彼女も徐々に慣れてきてくれたのか、今までよりかは話す回数も増えて良かったなぁと思っていた。

ただ、俺の結婚の話になるとフラッとどこかに行ってしまうので、やはり気まずさは有るのかなという感じはしていた。

その帰り、家の方向が同じの友達3人を俺の車に乗せて帰ることになり、その中に彼女も居た。
1人は直ぐ近くの駅で降ろし、もう1人の友達の方が家が手前だったので、そこでそいつを降ろすと彼女と2人になる。
私もここで良いよとか言って降りるかなと思ったけど、彼女はじゃあよろしくねと言ってもう少し先の駅まで乗って行くことになった。

2人で車に乗るのは数年ぶりのことだった。前と違うのは、彼女は助手席じゃなくて斜め後ろの席に座っているということ。

久々に2人で色々と話した。一緒に暮らしていた動物たちの近況報告、家族の話。
流れで彼女の最近の恋愛事情についても聞けたが、本人はもう結婚する気も無いらしく、全く何も無いと言っていた。
美人なんだから誘いなんかいくらでもあるだろうに。

こんな機会なかなか無いだろうなと思って、付き合ってた時に俺の直した方が良かったところを訊いてみた。色々言われるかなと思ったけど、

無いよ、私には良い人過ぎたから

と返ってきた。
俺は単純なので言葉を額面通りに受け止めてしまう。

やったぜ、自信持って生きてくわ

と返した。
逆に俺は彼女に、もっとワガママ言ってくれても良かったのにと伝えた。
彼女は周りが見えて気が利くが故に、自分を押し殺してしまうキライがある。

彼女は、結構ワガママ言ってたと思うけどな、と返してきた。
そんなことないのにね。

駅までは車で15分もかからないくらいの距離だったので、もう少し話したかったが直ぐに駅が近づいてきた。

俺は彼女に、結婚式呼ぶから来てよと言った。

それまで流れるようにしていた会話の流れが一瞬止まった。

行っても大丈夫なの?

と彼女は言う。
あぁ、やっぱり気にしてた。こういうのを本当気にするタイプなんだ。

大丈夫だよ、気にしないで来て欲しい。
奥さんにも大学の時に彼女が居たって話はしてるし、部活仲間として呼ぶのは伝えてあるから平気だよと言った。

じゃあ行くねと言ってくれた矢先に駅に着いた。

今日はありがとう、またねと言って彼女と駅で別れた。

短い時間だったが、本当に久しぶりに大学生の時のような感じで喋れたのが嬉しかった。

ただ、なんだか言いたかったことが伝えきれなかったような気がしてモヤモヤする。
でもそれが何なのか、上手く言語化出来なくて2日考えた。

結局伝えたかったのは、もっと自分に優しくして大事にしてやっても良いんじゃない?ってことだった。
彼女はやや自分を蔑ろにする傾向がある、プライベートでも仕事でも。学生の頃からずっとそう思ってる。それが俺は見てて心苦しかった。

でもコレを今更伝えるのかなりキモいなとも思ったけど、逆に今逃したら一生無いなと思ったから思い切ってLINEした。

キモがられて返事来ないかもななんて思ったけど、1時間もしない内に返事が来た。

私もLINEしようと思ってた。車の中で話せて良かったよ。
君は何も悪いところは無いから自信持って、君の幸せを一番に願ってるよ。

すごくすごく嬉しかった。
この何年か抱えていたモヤモヤが、車の中での会話と一往復のLINEで一気に晴れた。

ありがとう、俺も君の幸せを切に願ってるよ。 

ありがとう、またご飯行こうね。

社交辞令かもしれない。でも割りと心から言ってくれてるんじゃないか、そんな彼女の言葉でLINEは締め括られた。


俺は今も彼女のことが好きなんだと思う。
でもそれは恋愛的な意味というよりも、一昔前に濃密な時間を共有した相棒のような感じなんだと思う。
俺は奥さんのことを愛しているし、この人を悲しませるようなことがあってはならないと思っているから、彼女と今からどうこうとかは全く考えていないけれど、しばらくどこか他人行儀だった相棒とまた良い関係に戻れたのが嬉しいのだ。

人との関係性は時間と共に目まぐるしく変わるが、何度もアップデートした今の関係性は非常に好きで、今後もきっと人生のどこかでお互いの助けになるだろう。

その次の日は、2年前と同じような秋晴れの空だった。

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