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2024年2月の記事一覧

文学と探偵小説に関する覚え書Ⅲ

(承前)

11
 探偵小説は、文学と共に歩いてきた。

 ※

12
 言葉は歩き出す。

 ※

13
 戦前、「探偵小説」は探偵が推理するだけの小説を指してはいなかった。
 戦後、「推理小説」はむしろ推理よりも社会の風俗と仕組みとそれらに取り込まれていく個人の軋みを描くことに注力していた。
 平成以後の「本格ミステリ」を「正統な格式を持つ推理小説」と捉える人間が果たしてどれだけいるか。

 

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文学と探偵小説に関する覚え書Ⅱ

(承前)


 文学というものは必ずしも《人間を描く》ものではない。確かに《人間を描く》ことを目標とする文学もあり得る。しかし、それは文学の一面であって、全面ではあり得ない。

 ※


 文学を文学として成立させるものは、実験である。よって、文学と呼び得る小説は、凡て実験小説である。しかし、ここでいう実験小説は、単にタイポグラフィックな小説、言葉遊びに徹したような小説、大量の注釈を挿入した小

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文学と探偵小説に関する覚え書Ⅰ


 「文学」は、少なくとも「文学」を考えるときにのみ現れる幻想ではない。それは確かに存在する。しかし、その定義乃至範囲乃至領域を規定しようとすると、途端にそれらの境界は漠とし始める。

 ※


 文学という漠としたものと探偵小説の関わりについて考えるとき、私がまず想起する言葉は開高健のそれである。

 ※


 開高の言葉に従えば、ポーが『モルグ街の殺人』で行ったことは実験物理学である。そ

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