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れいめい

目が覚めると空が青くて、草原と雲以外何もなくて、僕は死んでしまったのだなと気づいた。
かなしいな、と思ったとき、「かなしいな」と思っただけだったから、やっぱり僕は死んでしまったのだなと思った。

しばらく寝そべって、雲が流れるのを見ていた。
草の匂いがした。

黎明って、れいめいって響きが透明で氷みたいって言ったのはきみだっけ。
こんなことして何になるんだろうねって、冬季講習の帰りに白い息を吐いていたのは、

追い風で自転車を漕いでいるとき、一瞬風も音も全部消えて、風の中にとけてしまったみたいだったよ。

本当に風にとけたときも、こんな感じなのかな。
本当に風にとけたきみも、こんな感じだろうか。

れいめい、れいめいって、
口に出して呼ぶたびに
まだ、まだ足りないと思うよ。

れいめい、れいめいって、
朝と夜とその間の空気が
まだ、まだ少し冷たくて。

この黎明がとけても、まだ冷たくて。


目が覚めると空が藍色で、遠くの方で星が光ってて、僕は眠っていたって気づいた。

きみを探そうと、歩こうと、起きようとしても起き上がれなくて、起き上がれないというより起き上がらせるものがなくて、そうか、からだが空気にとけてしまったんだと思った。

ぼくは風になっていた。

夜の風は昼間のほこりが混じってざらざらしているけど、上の方は澄んでいてすいすい泳げること、きみは知っているだろうか。

草をなでるときお腹がくすぐったいこと、海の上空を泳ぐときすこしこわいこと、きみは、

あんなことしても何にもならなかったよって、
きみはずっとひとりで正しかったよって、
そんなこと。

れいめい、れいめいって
名前を呼んで泳いでいるけど
まだ、まだ会えなくて。

れいめい、れいめいって
朝と夜とその間のひかりが
まだ、まだ少し眩しくて。

この黎明がとけても、

れいめい、れいめいって、
口に出して呼ぶたびに
まだ、まだ足りないと思うよ。

れいめい、れいめいって、
透き通るようなきみの名前が
まだ、まだ少しあたたかくて。


この黎明がとけても、あたたかくて。

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