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おめでとう、アヨゼ・ペレス レスター移籍は正しかった

4月15日、雨上がりのウェンブリー。クラブ史上初のFAカップ制覇を祝うレスター・シティの輪の中に、アヨゼ・ペレスの姿はあった。

2年前の夏、選手としてピークを迎えていたペレスは、5年の時を過ごしたニューカッスルを後にし、レスターでプレーすることを選んだ。そしてそれからの2シーズンで、この移籍が“ステップアップ”であったことを証明し続けている。

移籍2年目の今季は、彼にとって最高のシーズンとは言えない。ハーヴェイ・バーンズら若手選手の台頭もあってスタメンを外れることも多く、プレミアリーグでは2ゴール1アシストと、個人としてのスタッツは物足りなく感じられる。

しかし、FAカップの決勝でチームのため黒子役に徹し続けたペレスのパスカットが、優勝を決めたユーリ・ティーレマンスのミドルシュートの起点となったことを忘れてはならないだろう。初のトップレベルのタイトル獲得を自ら引き寄せる、ビッグプレーだった。

ニューカッスルでは“主役”だったアヨゼ

2014年の夏、テネリフェからニューカッスルへ移籍したとき、イングランドで彼の名前を知る者はほとんどいなかっただろう。しかし、この青年がファンからの絶大な指示を得るのに、時間はかからなかった。独特のリズムから繰り出されるドリブルは、それまで無かった新たなチームの武器となり、甘いルックスも相まって、アヨゼはすぐにアイドル的存在となる。

アヨゼ自身も、マグパイズでのプレーを楽しみ誇りを持ってピッチに立った。降格を喫した2016年のオフシーズンも彼はチームに残り、チャンピオンシップ優勝とプレミアリーグ昇格に貢献。同じスペイン出身の名将ラファ・ベニテスの存在も、彼をとどまらせる大きな理由の1つであった。

ベニテスはその後、アヨゼの才能をさらに開花させていく。ニューカッスルで最後のシーズンとなった18-19シーズン、彼はトップレベルではキャリアハイのリーグ戦12ゴールを挙げ、サウサンプトン戦では自身初のハットトリックも達成するなど、これまでより決定的な仕事ができる攻撃陣の核に成長していった。

一方でチームはその5年間に、多くの苦難を経験した。長期契約を結んでいたアラン・パーデュー監督はシーズン途中で突然クリスタルパレスへ移籍し、ケアテイカーとして指揮を執ったジョン・カーヴァーのもとでチームは残留争いに巻き込まれた。辛くも降格を回避した翌シーズン、オーナーのマイク・アシュリーは落ち目だったスティーヴ・マクラーレン氏を新監督として招聘するが、粒揃いだったスカッドはまとまらず、やはり低迷。終盤戦に救世主として現れたベニテスは成績を上向かせたが、彼に与えられた時間は少なく、トップフライトでの地位を維持するには至らなかった。

ベニテスのもとでチームは再びプレミアリーグのステータスを取り戻したものの、守銭奴として名高いアシュリーは、指揮官が補強を求めても簡単には首を縦に降らず、ほとんどチャンピオンシップ時代と同じレベルのスカッドでプレミアを戦うことを強いられる。その中でも2年連続でしっかり残留を成し遂げたベニテスは流石の仕事ぶりだったが、結局オーナーとの確執が明らかとなり、契約延長にはサインせず中国へと旅立った。

チームを引っ張る活躍を見せたペレス自身も、キャリアについて考える時期を迎えていた。ニューカッスルにいれば、確実にスタメンは保証されており、ある程度の自由も与えられている。タインサイドではローカルヒーローとも呼べる存在だった。だが、何かチームとして大きな目標に挑戦するような機会は、ほぼ無かったに等しい。

そんな中で同胞の名将ベニテスは、野心のないオーナーに愛想を尽かし、契約延長を拒否した。その出来事が、ペレスに移籍を決意させるきっかけとなったことは、想像に難くない。

“野心”を求めて新天地へ

2019年7月3日、アヨゼ・ペレスのレスター移籍が発表された。

米メディア「The Athletic」のインタビューで、ペレスは移籍を決意した理由についてこう語っている。

「クラブが持つ野心が決め手だった。成長し続けようというモチベーションがここにはある。それは、僕がニューカッスルで感じたことのないものだった」

この発言は、ニューカッスル・サポーターの心を強く締め付けた。ここ10年、愛するクラブが1歩進んでは2歩下がる状況を見てきたファンからすれば、アヨゼを責めることなどできなかったからだ。

レスターは昨年、リーグで5位フィニッシュを達成しヨーロッパリーグの出場権を獲得。しかし選手たちはそれを喜ぶどころか、チャンピオンズリーグ出場を"逃した"ことに失望していた。ペレスからすれば、これまで感じたことのない、野心溢れる雰囲気だったに違いない。

そしてキングパワーでの2年目となった今季、レスターはクラブ史上初めてとなるFAカップ制覇を成し遂げた。プレミアリーグでは先日チェルシーとの直接対決に敗れたため、CL圏外の5位に順位を落としているものの、最終節での逆転3位も可能性を残している。片やノースイーストの“古豪”は、やっとの思いで残留を決めたばかり。それも、自力で勝ち取ったというよりは、より弱いチームが3つあっただけのようにすら感じられる。

アヨゼが去った夏、ニューカッスルはプレミアリーグでは既に過去の人となっていたスティーヴ・ブルースを指揮官に招聘。オーナーの評判が悪く、優秀な人材を雇うことが難しくなっていたため、候補者リストの10番目だったと報じられるブルースをシェフィールド・ウェンズデイから引き抜く以外に道はなかった。それ以来、チームは引いて守るだけで中身のないフットボールを繰り広げている。

幸いにもマイク・アシュリーが以前より多少積極的に補強資金を捻出するようになったことから、アラン・サン=マクシマンやカラム・ウィルソンといった、トップレベルで実績のある選手が加入し、彼らが個の力でチームをプレミアリーグに残留させている。だがこういった状況がこれからも続けば、活躍した選手に愛想を尽かされるのも時間の問題だ。

両クラブが歩んだ2年間を振り返ってみれば、アヨゼの移籍が“ステップアップ”だったことは、もう認めざるを得ない。

新時代の荒波に対応する唯一の道

正直なところ、今季ベンチを暖める日も多かった彼の状況に、私は多少の寂しさを感じていた。ウチにいたときはもっと輝いていた、スター選手だったのに、と。

FAカップのトロフィーを掲げる清々しい笑顔の写真を見て、それらが全て余計なお世話だと悟った。たとえチーム1のスターになれなくても、彼はニューカッスルにいた時よりもずっと充実した日々を過ごしている。

決勝のチェルシー戦でのプレーは、まさにいぶし銀の活躍という感じだった。このチームの攻撃は、あくまでジェイミー・ヴァーディとケレチ・イヘアナチョを中心に回っており、ペレスに求められるプレーはニューカッスル時代と明らかに異なっている。あまり目立つシーンこそなかったが、与えられたタスクを地道にこなし続けた結果が、リース・ジェームズのパスをカットしたシーンにつながっているのだ。

これまでチームで活躍した選手がステップアップするとすれば、ジニ・ワイナルドゥムがリヴァプール、デンバ・バがチェルシーといったように、世間でビッグ6と呼ばれるクラブがほとんどだった。

しかし、フットボールを取り巻く環境は変わりつつある。チェルシーのような巨額の資金がなくても、優秀な監督を据え、ファンを大切にし、適切な補強をすれば、戦えるチームを構築することが十分に可能となった。レスターやライプツィヒ、アタランタといったクラブの成績を見れば明らかだろう。

ニューカッスルの場合、過去数年に渡ってクラブ売却に向けて動いていることもあり、プレミアリーグのステータスを維持する以上の目標を持つことが難しくなっている。今、マグパイズでまさしくスター選手扱いを受けるサン=マクシマンが、これ以上残留争いをする気はない、とコメントし話題となった。彼自身はマグパイズで上を目指したいという趣旨で発言したようだが、今の環境で現実的に狙えるのはせいぜいトップ10だろう。

そう考えると、やはりマグパイズに必要な変化は、昨年から進展のないアマンダ・ステイヴリー主導のテイクオーバーだ。継続的に成長する野心を持ったオーナーの存在は、やはり不可欠である。そうしなければ、愛する選手を放出する運命を変えることはできない。

報道によればマイク・アシュリーは、売却を6月末までに完了したいと考えているようだ。仮にこれが現実となれば、来シーズンから新オーナーシップの元、新しいフェーズへと突入する。

それをきっかけに、クラブが少しでも前に歩み出し、いつかはトロフィーを獲得できるチームが出来上がることを、楽しみにしている。

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