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ウィロック完全移籍は本当に最善の選択か? マーケット動向展望

アップダウンの激しい2シーズン目を経て、スティーヴ・ブルースの船旅は最終章に突入しようとしている。

アーセナルからレンタルで加入したジョー・ウィロックが救世主とも呼べる活躍ぶりで、低空飛行を続けていたチームを残留に導いたことは記憶に新しい。

セント・ジェームズ・パークでの最終ゲームでは、久々に入場を許されたファンがスタンドから声援を送り、ウィロックに来シーズンの残留を求めるチャントを生音で届けた。「We want you to stay」、その言葉に触発されてか、ウィロックは6試合連続となるゴールを決め、遅めの“お披露目”を勝利で飾っている。

完全移籍かはたまたもう1年のローンか定かで無いものの、来シーズン以降もウィロックをここに留めたいというブルースの意思は確固たるものだ。インタビューでも彼を中心にチームを組み立てたいとハッキリとコメントしており、上層部にオファーを提示するよう働きかけている。

ウィロック自身もニューカッスルへの移籍は1つのチョイスであることを明言した。ロンドン生まれロンドン育ちの若者にとってアーセナルで活躍することは幼少期からの夢だったことは間違いないが、北方の田舎町のクラブもそれに匹敵するくらい、彼にとっては大切な場所になったのである。

補強ポイントは多岐にわたる

マイク・アシュリーがこの夏に用意している補強資金は僅か1200万£とも一部のタブロイド紙を中心に報じられている。これまでにもファンの不安感や嫌悪感につけ込みビュー数を稼いできた新聞社をそこまで信用する必要はないのだろうが、うちの経営陣ならあり得なくもない話と感じたファンも多いだろう。

1200万£という数字の真偽は定かでないが、今年のマーケットがここ数年と比べて“地味”なものになることは間違いない。

ブルース監督が就任した2019年の夏、ニューカッスルはニースからアラン・サン=マクシマンを1600万£、ホッフェンハイムからジョエリントンをクラブレコードの4000万£で獲得。また昨年の夏には、基本的に若手選手を中心に補強するというクラブ方針に反して、プレミアリーグで実績のあるカラム・ウィルソンを2000万£で引き抜くなど、積極的な動きを見せてきた。

しかし今シーズン、どこのクラブもお財布事情が厳しいのはご存知の通りである。その上アシュリーは7月頃までにクラブを売却したいと考えており、移籍市場で端から資金を投じるとは考えにくい。オーナーの交代が実現するかどうかにかかわらず、いつも通り移籍市場が閉まる最後の1週間程度までは、フリートランスファーを中心とした獲得と、現有戦力の整理がメインのタスクとなるだろう。ブルースにとっては、非常に身動きの取りづらい状況である。

仮にジョー・ウィロックをアーセナルから獲得するとすれば、最低でも2000万£は必要になる。完全移籍が実現すれば誰にとっても喜ばしい補強になるわけだが、その一方でほとんど全ての予算をこの取引に注ぎ込まねばないことは明白であり、補強ポイントはミッドフィールダーだけではないのもまた事実だ。

レギュラーが全員30歳前後と高齢化が進むセンターバック陣には、新しい風を吹き込みたい頃合いだ。フェデリコ・フェルナンデスは今季で契約切れを迎え、夏以降の動向については情報がまだ少ない。フロリアン・ルジューヌ、ファビアン・シェアは来季までの契約を残しているが、逆に言えばこの夏にクラブを去る可能性も十分にあると言えるだろう。

またブルースは左サイドも補強ポイントと捉えている。昨年ノリッチから獲得したジャマル・ルイスが安定したパフォーマンスを発揮できなかったことにより、このポジションはレギュラーが定まらない状況となってしまった。終盤戦ではマット・リッチーがフィットし大活躍を見せたものの、彼はもう若くない。

新たなストライカーを連れてくることも重要なミッションと言える。ウィルソンは大車輪の活躍を見せたものの、ハムストリングの状態は思わしくなく、シーズンフル稼働は難しい状態だ。彼が出場しなかった試合は今期12試合あったが、その中で3ポイントを加算できたのはシーズン最後の2試合のみ。年間通して、ウィルソン不在時の戦い方はブルースにとって悩みの種だった。

この状況で、ウィロックを連れてくることが最善の選択と言えるのだろうか?

ウィロックに大きく左右される来季のプラン

「Never fall in love with loan players」

“ローン選手に恋をしてはいけない”とは、よく言ったものだ。

短い期間で輝きを放ったとしても、次のシーズンになってみればまるで人が変わったかのように表舞台から姿を消してしまうことだってザラにある。

17-18シーズン後半戦、チェルシーからのレンタルで加入したケネディが、半年間の在籍で数多くの印象的なプレーを披露したものの、ローン期間を延長した翌シーズンは一転低調なパフォーマンスに終始し、終盤戦には出場機会を減らしてチェルシーへ戻ることになったことを覚えている人も多いだろう。

そもそもこれまで、マイク・アシュリー政権下のニューカッスルはレンタル加入選手の完全移籍以降には慎重な姿勢を示してきた。ロイク・レミやサロモン・ロンドンといったプレーヤーは1年間の在籍でチームを引っ張る活躍を見せたものの、完全移籍には至らずに終わっている。そして1年のレンタル延長に漕ぎ着けたケネディも、うまくはいかなかった。

ウィロックが残したインパクトはケネディと比べても大きく、数字の面でも7試合連続得点という申し分のない結果を残してきた。しかし、アーセナルでは昨季こそプレミアリーグでプレー機会を与えられていたものの輝きを放てず、ミケル・アルテタ監督が就任した後はめっきり出場を減らしてしまったことを考えれば、トップレベルで実績十分とは言い難い。

限られた予算の中で、その大半をウィロックの獲得に割くという判断を、リー・チャーンリーら現経営陣が、果たして下すだろうか?

仮に完全移籍でこのスター選手をノースイーストへ連れてくることになれば、その他のポジションにおいては現有戦力の残留とフリートランスファーを中心とした安価な選択肢を模索することになる。

ニューカッスルは現在セルティックの若手CBクリストフェル・アイェルの獲得に動いているとも報じられており、彼はグラスゴーのクラブとの契約が残り1年となっていることから、移籍金は600万£程度で獲得できるという。またレフトバックには、フランクフルトと契約満了を迎えフリーエージェントとなるイェトロ・ウィレムスの再獲得に動いている模様だ。

その他、マグパイズはDFファビアン・シェアとの契約を1年延長するオプションを行使。ドワイト・ゲイルとは新たな3年契約をすでに結んだと「The Athletic」が報じている。加えて守備の要フェルナンデス、"ワンクラブマン"であるポール・ダメット、終盤戦躍進の立役者であるジェイコブ・マーフィらとも契約更新する可能性は十分にある。

人員整理で効率重視の夏に

一方で、資金捻出のために戦力を放出する可能性もあるだろう。ニューカッスルはこれまでも、実績のある選手をトップチームで使わずに飼い殺しにするようなことも多かった。ファクンド・フェレイラ、アンリ・セヴェなど、不可解なほどにピッチに姿を表さなかった選手は多くいる。今シーズンでセヴェやクリスティアン・アツとの契約は満了となりチームを去ることになったが、本来ならばもっと早い段階で売却し、資金調達するべきだったのではないだろうか。

実力派がひしめくゴールキーパー勢では、2番手の位置に留まっているカール・ダーロウを売却するという噂もある。圧倒的守護神のマーティン・ドゥブラフカ、生え抜きで実力派のマーク・ギレスピー、さらにはレンタル先のスウォンジーで年間最優秀選手に選ばれ、プレーオフ決勝進出に貢献したフレディー・ウッドマンなど明らかの飽和状態であり、この中の1人と袂を分つことになっても、驚きではない。

また契約延長にサインしたと噂されるゲイルを売却する案も出ているようだ。報道によれば、WBA指揮官への就任が噂されるクリス・ワイルダーが、チャンピオンシップで実績のあるゲイルをホーソンズへ連れ戻したいと考えているとのこと。

現状のスカッドにもポテンシャルを活かしきれていない選手が複数存在しているため、戦力を整理することは健全な動きと考えられる。日本人としては悲しいが、エイバルへのローンでシーズン1ゴールに終わった武藤嘉紀も、ノースイーストの"巨人"との契約は残り1年となっており、退団は既定路線だろう。

集大成となる1年に向け、しっかりとした準備を

スティーヴ・ブルースにとっては来季が契約最終年となり、集大成とも呼べるシーズンだ。

しかし最低でもトップ10入りを達成しなければ、ファンから冷たい視線を送られることは目に見えており、スター選手の放出もやむを得なくなるため、ブルースにとっては最もプレッシャーがかかる1年になるだろう。

前任のラファ・ベニテス時代、めぼしい補強後ほとんど無かったマグパイズだが、ブルース体制になってからというものクラブは補強に積極的な姿勢を見せている。しかし、前述したようにこの夏はブルースにとって難しいマーケットになるだろう。フリーや安価な選手獲得の可能性を模索すること、そして人員整理をしっかり遂行することが求められる。効率の良いマーケットでの動きが必要だ。

幸い、現有戦力のほとんどはヨーロッパ選手権に参加する予定もなく、多くの選手はしっかりと休養を取り、新シーズンに向けてリフレッシュできるはずだ。代表に招集されているライアン・フレイザー、ファビアン・シェアらにとっては、長期離脱からコンディションを取り戻すための良い大会となるだろう。終盤戦良い戦いができていたことを考えると、現状のスカッドを維持できれば、良いスタートを切ることはできるのではないだろうか。

こうして貯めた貯金を全てウィロック獲得に投じるのは1つのプランだろうが、残念ながらそれが実現するかどうかについては、アシュリーのみぞ知る、といったところか。


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