ホルモン受容体陽性乳がんに対するカピバセルチブ(CAPItello-291試験)
N Engl J Med2023;388:2058-2070
AKT阻害薬のカピバセルチブ (商品名トルカプ)が今度当院でも採用になるらしいので予習。ホルモン受容体陽性(HR+)乳がんのCDK4/6阻害薬+アロマターゼ阻害薬(AI)に不応となった対象に対する二次治療以降の選択肢として登場したとのこと。
カピバセルチブは経口AKT阻害薬。AKTシグナル伝達経路の過剰活性化はHR+乳がんの約40%に認められ、この活性化はPIK3CAあるいはAKTの活性型変異、もしくは制御因子であるPTEN不活化変異によって生じることが知られている。CDK4/6やらAKTやら、乳がんの分子標的薬開発はかなり攻めている気がする。患者数が多く予後も長いので製薬企業も力を注いでいるのだろうか。
対象患者はHR+, HER2陰性の切除不能乳がんで、AI不応となった患者。CDK4/6阻害薬併用の有無は問わないが、使用例の半数以上の登録を目標とした。NAC, Adjuvantで投与された場合、治療中 or 治療終了後12か月以内の進行・再発は適格とした。内分泌療法は2 lineまで、化学療法は1 lineまで許容。インスリン投与中 or HbA1c 8.0%以上のDM患者は除外された。
カピバセルチブ (400mg 1日2回, 4日投与3日休薬)+フルベストラント (500mg 14日毎筋注x3回→以降28日毎)群と、プラセボ+フルベストラント群に1:1に割当て。4週1サイクル。閉経前女性にはLHRH-agonistも併用した。
主要評価項目は全集団およびAKT経路変化患者におけるPFS。副次的評価項目はOS, ORR, 安全性, QOLなど。
結果
2020/6~2021/10の間に901例が登録された。内708例が無作為化。355例がカピバセルチブ+フルベストラント併用群、353例がプラセボ+フルベストラント併用群に割当てられた。全集団の289例(40.8%)がAKT経路変化を有していた。サンプル解析不能であった106例(15.0%)を除外した602例の内では289例 (48.0%)が変化型, 313例 (44.2%)が非変化型であった。年齢中央値は58歳, 77.3%が閉経女性であった。69.1%にCDK4/6阻害薬投与歴を認め、18.2%に進行がんに対する化学療法の前治療歴を認めた。
data cut-off時点で、全集団PFSはカピバセルチブ群 vs プラセボ群 = 7.2m vs 3.6mであった。(HR 0.6, p<0.001) AKT経路変化集団では7.3m vs 3.1mであった。(HR 0.5, P<0.001) 患者背景因子のsubgroup解析でも各group間の効果の差は認められなかった。(Nは少ないが閉経前では閉経後より点推定値はやや悪い) ORRは全集団で22.9% vs 12.2%, AKT変化集団で28.8% vs 9.7%であった。duration of responseは全集団 9.8m vs 8.4m, AKT変化集団で9.4% vs 8.6%であった。解析時点で死亡イベントは27.5%に発生し、18ヵ月OSは全集団で73.9% vs 65.0%, AKT変化集団で73.2% vs 62.9%であった。QLQ-C30スコアの変化は-2.52 vs -5.62でカピバセルチブで良好であった。
カピバセルチブで多かった有害事象は下痢、皮疹、悪心/嘔吐、疲労、高血糖等であった。治療関連死亡は認めなかった。AEによる投与中断は34.9% vs 10.3%に認められた。減量は19.7% vs 1.7%であった。AE中止は13.0% vs 2.3%であった。
今回の試験でAKT経路変化の有無に関わらず効果を認めた理由については、今回調査したAKT経路(PIK3CA, AKT, PTEN) 以外の変化に基づくAKT経路の活性化(上流の受容体型チロシンキナーゼの活性化など)との関連や、フルベストラントでエストロゲン受容体経路を同時に阻害することによる相乗効果などの関与が考察されている。解析時ではOSに差はついていないがHR0.7程度であり、クロスオーバーがなければ統計学的にも有意差が出そうな印象。
本治療薬のAE対策について高血糖、皮疹、下痢、口腔粘膜炎などに対してはプロトコールに対応策が記載されている。基本的にはAEが21日以内に改善すれば同量 or 減量継続。21日内に改善しなければ回復するまで休薬。
高血糖について。
まず患者教育(口喝・多尿の自覚)を行う。
薬物治療の1st choiceとしてはメトホルミンを推奨。2剤目が必要な場合は、カピバセルチブの内服スケジュールによる血糖値の変動に合わせた薬剤を考慮すべき。(SU剤などは休薬期間に低血糖のリスクがあるため避ける)
メトホルミンを併用した場合、カピバセルチブの投与日のみ併用し休薬日は内服しない、また相互作用で腎機能に影響を与える可能性があるため開始後3週間は週1回のモニタリングを推奨。症候性高血糖に対しては空腹時血糖≤160mg/dlになるまで休薬を行い、改善したら血糖降下薬を併用し同量で継続する。Grade 3の高血糖にはカピバセルチブを休薬し高血糖の治療を行い、空腹時血糖≤160mg/dlになったら1段階減量再開。
皮疹について。
Grade 1-2の場合抗ヒスタミン薬と、moderateのステロイドを1日2回塗布。
Grade≥3の場合休薬し、上記に加えて内服ステロイド≤2週間を検討。4週以内にGrade≤1に改善すれば同量で再開。Grade 2であれば1段階減量。Grade≥3で継続不能なら中止。(AKTもEGFR pathwayの一つと考えれば抗EGFR抗体薬に用いるミノサイクリン予防は有効なのだろうか)
下痢について。
予防的に下痢止め(ロペラミド)を処方推奨。Grade≥2でカピバセルチブ休薬しGrade≤1になったら再開 or 減量再開。
口腔粘膜炎について。
口腔粘膜炎についてはプロトコールには記載がないが、mTOR阻害薬であるエベロリムスに使用されたステロイド含嗽が有効であり、ガイドラインで推奨されていた結果、今回の発生割合が少なかったと記載されている。
以上、思ったより支持療法が重要な薬剤と考えられる。担当医にはこれまで以上に内科力が必要となりそう。
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